山田暢久引退試合。

しあわせな,そして素敵な,フットボールのある午後でした。


 相変わらずの遅筆堂,でありますが,山田暢久さん(と書くと,やっぱりちょっと違和感がありますね。このエントリでは山田選手,だったり暢久選手,と書かせてもらおう,と思います。)の引退試合について書いていこう,と思います。思いますが,公式戦ではありませんので試合内容に踏み込む,というよりも,徒然に思うところを書いておこう,と思います。


 試合開始前のウォーミングアップ・セッションから,話を始めましょう。


 たとえば,今季の浦和ですとセッション開始前に,センターサークル付近に小さなマーカー・コーンで区切られたグリッドが用意されます。ミニ・ゲームのためのグリッド,であります。コーチング・スタッフからビブスが手渡されるフィールド・プレイヤーと,ビブスなしのフィールド・プレイヤー,5対5でのゲームですし,敢えて密集する局面を作り出す,という意味合いもあるでしょう,大きなエリアは用意されません。しかし,歴代選抜のミニ・ゲームはミニ,と言うにはいささか大きなエリアでした。ほぼハーフコート,と言っていいエリアでミニ・ゲームが展開されていたのですが,局面ベースで見るとハーフコートなのに,意外にスモール・フィールドな印象になったのも確かです。


 歴代選抜として,どれだけのひとがクレジットされていたか。スコッド・リストの長さが納得できる,そんなウォーミングアップ・セッションだったわけです。であれば,歴代選抜が見せた色は,前半と後半でちょっとした違いがあったように思うのです。


 前半は,2006シーズンを戦ったチームが歴代選抜を構成していました。リーグ・タイトルを奪取したシーズンであり,歴史ある小さなカップを防衛したシーズンであります。でありますから,個人的にも印象深いチームであり,フットボーラーたちだったわけですが,彼らの個性はいまでも変わるところはありませんでした。たとえば,攻撃を組み立てる局面であったり,相手守備ブロックに対して個人勝負を仕掛けていく局面であり。あるいは相手ボールホルダーに対してボールを奪いに行く局面であったり,相手の攻撃を跳ね返す局面であったり。そんなひとつひとつの局面で,「らしさ」を表現してくれていたように思うのです。


 そして当然ながら,暢久選手も「らしさ」を中野田のピッチに表現してくれたように思います。


 ペナルティ・エリアからちょっと離れた位置から低く抑えたシュートを放ち,ゴールを奪う。シュート・モーションに入ったときの姿勢,軸足の置き方だったり足を振り抜いたあとの体勢などを含めて,個人的にイメージする,最も「暢久選手らしい」形が描き出されたように思うのです。


 対して後半です。後半のチームを構成していたのは,必ずしもタイトルと直接的な関係性を持つひとたち,とは限りません。厳しい時期を暢久選手とともに歩んできたひとたちがクレジットされていた,と言っても決してアンフェアではない,と思います。けれど,もうひとつの側面があるように思います。これからの浦和を作り上げるための鍵を持っているひとたち,でもあるように思うのです。彼らが対戦したチーム,そのなかには下部組織で実際に見てきた(そして,いま現在見ている)フットボーラーが含まれています。そして,暢久選手はこれからの浦和を背負っていかなくてはならないフットボーラーを最終ラインの位置から支えていた,ように映るのです。同窓会,のような意味合いが前半にあったとするならば,後半にはこれからの浦和へのメッセージ,暢久選手からだけでなく,アカデミーを担当するスタッフからのメッセージが込められていたように思うのです。


 マイペース,のように見えて,実際にはしっかりと周囲を観察している(のかも知れない)し,戦術眼にしても相当に鋭いものがある(のかも知れない)。しなやかであって,でも確固たる軸を持っている(ように,好意的に解釈すればできないこともない)。何ともつかみどころがなくて,底知れぬ雰囲気を漂わせていて,どれだけのものを隠し持っているのか,実際にすべてを見せてくれたことはともすればない,のかも知れない(と,アウトサイドが勝手に解釈しているだけかも知れないけれど)。そんなフットボーラーの最後の舞台は,いろいろな側面を持っていたように思えて,やっぱりしあわせで,素敵だったように思うのです。

Japan v. Colombia (Group C・#3).

終戦で,(時間帯限定であるにせよ)狙う戦い方を表現できたこと。


 前半終了段階で,試合をイーブンな状態に持ち込むことができたことを含めて,ポジティブに捉えられる要素もある試合だったのは確かかな,と思います。思いますが,第1戦の段階でも提示された,ゲーム・コントロール面での課題を露呈してしまった。戦術的な課題も指摘できるかも知れませんが,この短期戦にあっては戦術的な課題だけでなく,心理的な課題も指摘できるように思うのです。


 グループリーグ最終戦,コロンビア戦であります。相変わらず,時期に遅れておりますので短めにまとめておこう,と思います。


 さて。後半開始直後の時間帯にフォーカスしてみよう,と思います。


 相手は後半開始に際して,戦術交代を仕掛けてきます。この戦術交代に対して,チームとしての意識が高い位置から,(あくまでも相対的に,ですが)低い位置に下がってしまったのではないか,と感じるところがあります。スコアで言えば1−1,「勝ち点3」をなんとしても積み上げなくてはならない状態であることを考えるならば,相手がこの戦術交代によってどのような戦い方へとギアチェンジしてくるか,という方向へと意識を振り向ける(必要以上に警戒してしまうこと)よりも,どれだけ前半の戦い方を維持できるか,という方向へと意識を振り向ける必要があったはずです。しかし実際には,戦術交代に対して,必要以上に意識を振り向けてしまった(相手を警戒しすぎて,結果として相手の戦い方を真正面から「受けて」しまった)ように感じます。結果として,チームが狙うべき戦い方が曖昧な状態になってしまった。ある意味で,第1戦と同じ状態に嵌り込んでしまったのではないか,と感じるのです。ディテールな課題,ではありますが,国際試合,それも真剣勝負ではこのようなディテールが勝負を分ける大きな鍵となるように思います。このディテールをどれだけ突き詰めることができるのか,は恐らく戦術的な部分と同じく,あるいはそれ以上に大きな課題になるのではないか,と思います。


 もうひとつ。後半開始直後からの戦い方を見るに,チームとしての機動性が落ちてしまった,という部分もあるように感じます。自分たちが狙うフットボールへと相手を引き込むためには,高い位置からのファースト・ディフェンスがどれだけ厳しく仕掛けられるか,が大きな鍵を握っているはずです。高いエリアでボール・コントロールを奪い返す,そのための機動性が求められるように思うのですが,この機動性という要素が後半になると落ちてきてしまったように思うのです。ちょっとだけ反対側の目線で見ると,この高いエリアでのファースト・ディフェンスを外し,シンプルに縦を狙う攻撃を仕掛けられれば,日本代表から攻撃リズムを奪うことができるのみならず,日本代表の守備応対を「追いかける守備応対」へと追い込むことができるわけです。


 攻撃リズムの基盤となっているのは高いエリアからの守備応対であり,この守備応対を繰り返すための重要な基盤が,チームとしての高い機動性であるはずなのですが,この機動性という要素がこの短期戦では不足してしまっていた。第1戦,第2戦で露呈した課題が,この最終戦でも大きく影を落としていたように思うのです。


 2010年とは違うアプローチ,攻撃面から組み立てたフットボールによってファースト・ラウンドを戦い,セカンド・ラウンドへの切符をつかむ。そして,準々決勝段階まで駒を進める。このチームが狙った戦い方は尊重したい(チャレンジを仕掛け続けなければ,フットボール・ネイションとの距離は正確に測れない),と思いますが,であるならば,このフットボールを最大限表現するためにもチームとしてのコンディションを整えておく必要があったはずです。セカンド・ラウンドへの切符をつかむためには,短期戦を制する必要がある。ならば,まずは短期戦を駆け抜けるためにコンディションのピークを設定する,その必要性があったはずだ,と。けれど,今回のファースト・ラウンドではチームとしてのコンディションが100%に近い状態だったとは感じられません。攻撃的な戦い方で真っ向勝負を挑むこと,その妥当性を判断しようにも,その前提条件となるはずの“100%フィット(に限りなく近いコンディション)のチーム”をブラジルに送り込み,ファースト・ラウンドを戦うことができなかったように見える。このことが最も,もったいないことであるように思うのです。

対イタリア戦(リポビタンDチャレンジ2014)。

ラグビー・ネイションを相手に,僅差の試合を勝ちきるチカラが付きつつあること。


 そして,弱点とされてきた要素を着実に潰し,自分たちの強みへと転換しながらチーム・ビルディングを進められていること。


 もちろん,この1試合だけを持って確定的に言うことはできませんが,2015,そして2019を考えるに,少なくともちょっとだけ,ラグビー・ネイションズとの距離を縮めることができつつあるように思います。RWCにおいて勝利を挙げること,のみならずセカンド・ラウンドで勝負することを射程に捉えるならば,彼らとの距離を着実に縮めていかなくてはならないはずです。そのためには,自分たちが自信を持って使える武器,強みを着実に増やしていくことが求められるはずです。そして,土曜日の秩父宮には,強みを着実に積み上げつつある姿が見えたように思うわけです。過去の対戦にあって,1回も勝利を挙げることのできなかった相手に対して,はじめて勝利という結果を引き寄せたことも大きな意味があるとは思うのですが,過去を断ち切ったということよりも,将来につながっていくだろう要素を秩父宮のフィールドに表現できたことに,より大きな意味があるように個人的には思うのです。


 フットボールではありますが,楕円球方面のフットボール,でありますればマリオ・バロテッリアンドレア・ピルロもいませんが,のイタリア代表戦であります。季節なりの雲があって,緩やかに風が吹き抜ける時間帯もあったのですが,やはり日差しが届きはじめると夏場の雰囲気を強く漂わせる,であれば,ラグビーフットボールにとっては決して最適とは言えないコンディションでありました。では,試合を振り返ってみることにします。


 前半立ち上がりの時間帯,先制トライを奪ってからの時間帯で試合の主導権を保持し続けられず,むしろ相手に試合のリズムを引き寄せられる時間帯になってしまいます。自陣深い位置,10mから5m付近のエリアで相手の波状攻撃を受ける局面になり,相手のパス・ワークをカットしようとしたプレーが故意の反則(得点機の阻止)と判断され時間退場処分を受けるとともに,相手に対してペナルティ・トライが認められます。コンバージョンも決まり,スコアは10−10,イーブンの状態になります。その後,ともにPGを1本ずつ決め,前半終了段階でのスコアは13−13,で試合を折り返します。厳しく見れば,相手に流れを譲り渡す時間帯をつくってしまったこと(抜けた時間帯,とは見えないだけに,しっかりと修正すべき課題がある時間帯ではないか,と思います。),結果として構築していたアドバンテージをイーブンな状態にまで引き戻されたことなどが指摘できるか,と思いますが,相手の後手を踏むことはなかったのはポジティブに見るべき部分かな,と思います。また,シックス・ネイションズを戦う相手に対して,自分たちが狙うラグビーでどれだけの勝負ができるのか,逆にどのような戦い方をすると相手が狙う戦い方に引き込まれることになるのか,明確に感じ取ることができた40分間ではなかったか,と思います。


 ハーフタイムを挟んで,後半であります。


 前半と同じく,試合の主導権を引き寄せ,掌握することはできなかったようにも思いますが,相手の後手を踏むことなく試合を動かせたのは収穫だろう,と思います。思いますが,後半は前半とはちょっと違って,アウトサイドからも課題と感じられる部分が複数あったように感じるのも確かです。ひとつは,相手が仕掛けてくるモールへの対応,であります。恐らく,相手はスクラムでもある程度の優位性を持っている,と見ていたのではないか,と思うのですが,実際にはスクラムで優位性を保持することはできず,むしろ日本に先手を取られる状態に陥っていたように感じます。そこで,相手はモールを積極的にドライブすることでエリアを奪いにいく,という戦い方へと切り替えてきたように感じるのですが,このモールをコントロールするまでにちょっと時間が掛かってしまった。このあとの攻撃をしっかりと抑え込めていたことを思えば,この試合では決定的な要素とはなっていませんが,試合のリズムを相手に引き寄せられる,そのきっかけともなり得る要素ですし,クリアしておくべき課題だろうと感じます。もうひとつ。相手にトライを奪われるきっかけとなった守備応対,オフロードから縦を突かれることになった守備応対です。気候条件的に厳しかったはずの土曜日の秩父宮にあって,この試合は「抜ける時間帯」を最低限に抑え込めていたのではないか,と感じます。しかしながら,この局面ではエア・ポケットが発生してしまった。相手No.8,その正面のスペースが潰しきれていなかったわけです。接点は比較的高い位置,であれば背後には大きなスペースを背負うことになります。守備応対面で隙を見せれば,縦を鋭く突かれることにもなる。この隙を見せてしまったように思うのです。この局面での守備応対は,修正しなくてはならない課題だと思います。


 この段階でのスコアは,26−23。ここで踏みとどまることができた大きな要素は,スクラムであります。


 ゲーム・クロックが35:00あたりを示していた時間帯から,スクラムで相手を釘付けにし続けます。これまでならば,恐らくスクラムで相手を抑え込む,と言いますか,試合そのものをコントロールするという判断はしなかったように思うのですが,土曜日の秩父宮ではスクラムを強みとして,相手に対して真っ向勝負を挑むだけでなく,相手に対して優位性を発揮する姿を表現することができていた。これまで,武器とはできていなかった要素を武器へと転換し,自分たちの強み,その厚みを増していく。そんな循環がこのチームではしっかりと機能しているのだろうことがこのイタリア戦,特に試合終了間際の時間帯からは感じられたように思います。


 これまで勝利を挙げられずに来た相手に対して結果を出し,望み得る最良の形で2013〜14シーズンを締めくくることができた。当然大きな収穫だと思うわけですが,2015に向けたステップを順調にクリアしている,という感触を強く残して,RWCシーズンに向かうことができることはより大きな収穫ではないか,と思うのです。

Japan v. Greece (Group C・#2).

たとえば,4の背後をどれだけ突けたか。


 グループリーグ初戦のような,「必要以上の慎重さ」を感じることはありませんでしたが,無意識的であるにせよ相手が狙う戦い方に合わせてしまった,という印象は残念ながら共通しているように感じます。グループリーグ第2戦,ギリシア戦であります。


 さて。まずは相手のパッケージであります。


 試合開始時点でのパッケージは4−3−3,いわゆる“シングル・アンカー”なパッケージであります。静的に見れば,中盤のシングル・アンカーのポジションが攻略すべきポイント,となりましょうが,実際にはちょっと「攻めあぐんだ」という印象が残っています。確かに攻撃を組み立てる段階では主導権を掌握していた,と見ることもできますが,組み立てから相手守備ブロックに対するチャレンジ,という段階で,相手守備ブロックを有効に揺さぶることができなかったように感じるのです。そのために,ボールを動かすことはできていたものの,なかなか相手守備ブロックに対して縦にチャレンジしていく姿勢を表現することができなかった。


 この傾向が,相手のセント・オフによってより固定化してしまったように感じるのです。


 退場処分を受けたことにより,相手はパッケージを4−3−3から4−4−1へと変更してきます。シングル・アンカーなパッケージから,どちらかと言うとフラットな4−4ラインで守備応対を徹底するパッケージへと移行してきたわけです。確かに,フィールド・プレイヤーがひとり欠けるわけですから,チームに(攻撃,守備応対両面において)負荷が掛かるのは当然です。しかしながら,チームがすべきことが明確になった,という見方もできるように思うのです。守備応対面での意識付けが,パッケージ変更によって強まった側面があるように思いますし,戦い方が明確になった相手に対して,相手守備ブロックを揺さぶる,という要素が抜けてしまったようにも思うのです。


 相手守備ブロック背後のスペースを使って攻撃をフィニッシュへ持ち込む,という局面は確かに作り出せていました。しかしながら,この局面が相当に限定されてしまっていた。ボールを積極的に動かす,という側面「だけ」を取り出すならば,第2戦では「らしさ」を取り戻すことができた,と見ることもできるかも知れません。知れませんが,ボールを積極的に動かして「相手守備ブロックを揺さぶる」ことができていたかどうか,そして,相手守備ブロックが見せた隙,クラックを縦に突く動きが見られたか,となると,多くは相手守備ブロックを有効に揺さぶることのできない,相手に対して脅威を与えることのないポゼッションになってしまった,という印象を受けるのも確かです。気候条件などを思えば,90分プラスを通して高い機動性を維持する,というのは不可能に近い話だと思いますが,機動性を高めて相手守備ブロックに対してチャレンジを仕掛ける時間帯をつくりにいく(縦にチャレンジを仕掛ける,そのためのギアを入れる),そんな姿勢をなかなか受け取ることができなかったのは残念です。


 ファースト・ラウンドはシンプルなラウンドロビン,1回戦総当たりの短期戦ですから,初戦で短期戦を乗り切るためのリズムをつかめないと,どうしても第2戦,第3戦に影響が出てしまう。セカンド・ラウンドへの切符を奪うために,この悪循環を跳ね返すだけのリバウンド・メンタリティが要求されていたと同時に,当然ながら「勝ち点3」奪取が要求されていた試合ですが,残念ながらこれらの要求を充足することはできなかった。まだ,セカンド・ラウンドへの可能性は残されていますが,セカンド・ラウンドに進出できるかどうか,ということよりも「自分たちが構築してきたフットボール」,強みに徹底してこだわって最終戦へと向かってほしい,と思います。

Japan v. Ivory Coast (Group C・#1).

ゲーム・コントロール面での問題も大事だけれど。


 「コンセプト」をどれだけ明確に表現できたのか,という部分の問題がより大きいように感じます。


 「2010年とは違う方法論」,守備応対面を基盤に戦い方を組み立てるのではなく,攻撃面を出発点として戦い方を組み立て,勝負を挑む,という姿勢を明確に表現できていただろうか,と思うわけです。であれば,相手が戦術交代を仕掛けてきてからの時間帯での問題を指摘することも重要ではあるけれど,このチームでより大きな課題となるべきなのは,先制点を奪ってからの時間帯なのではないか,と思うのです。


 今年はちょっと早い時期からビンボー暇なしが襲ってきておりまして,夏休みには大幅に早いにもかかわらず長めのお休みをいただくことになってしまいました(こういう状態,結構波状的に襲ってくる見込みですので,週間より更新間隔が開いてしまうこともあり得ます。あらかじめ,申し訳ありません。)。積み残しが複数ございます(何とか,積み込みたいと思っております。)が,グループリーグ初戦(対コートジボワール戦)であります。


 さて。まずはゲーム・コントロール面,と言いますか,戦術交代を含めてのゲーム・マネージメント面を見ていこう,と思います。


 まず,戦術交代を仕掛けたのは日本であります。長谷部選手に代えて遠藤選手をピッチへと送り出します。長谷部選手のコンディションを考えて,という側面もありましょうが,やはり自分たちのリズムでボールを動かせていない,という意識もどこかにあったものと思います。守備応対面で狙う形へと相手を引き込めていないために,どうしても攻撃面でも距離感が微妙に変化してしまって,本来のリズムを表現することができない。この後手を,遠藤選手の投入によってちょっとでも自分たちのリズムへと引き戻そう,という意図があったものと思います。対して,コートジボワールが戦術交代を仕掛けるのはこの8分後であります。スターターとしてクレジットされていなかった,ディディエ・ドログバ選手の投入であります。


 ここで,後半立ち上がりの時間帯を見てみます。コートジボワールは,後半立ち上がりの時間帯から「縦」への意識を一段強めたのではないか,と感じます。この「縦」への意識をより明確にすること,攻撃面でのギアチェンジを明確に示すための戦術交代だったように思うわけです。この相手が仕掛けたギアチェンジに対して,適切な対応が取れなかった,のみならず距離感が決定的に悪化してしまった。チームとしての意識が,守備応対を基盤とすべきなのか,それとも攻撃面を基盤とし続けるのか,不明確な状態に陥ってしまったように思います。


 この課題,実際には先制点を奪ってからの時間帯から継続する課題ではなかったか,と思うのです。


 相手を自分たちの戦い方へと引き込む,そんな戦い方が今節は抑え込まれてしまっていたように感じます。後半に決定的な要因となってしまった距離感の悪化ですが,前半段階でも決して距離感は日本の距離感ではなかったように感じます。高いエリアからのボール奪取もなかなか仕掛けられていなかったし,ボール奪取からのパス・ワークにしてもシンプルでリズミカルな印象は強くない。先制点,という先手を取ったものの,戦い方という側面で見ると,残念ながらコートジボワールの後手を踏む時間帯が長く,なかなかこの後手を精算できなかったように感じるのです。


 初戦を落としたことで,グループリーグの戦い方が限定されてしまったのは確かです。けれど,まだすべての可能性が否定されているわけではありません。むしろ,このチームが「戻るべき場所」がどこにあるのか,明確になったのではないか,と(いささか希望的な観測ですけど)思います。次節に向けて切り替えるのではなく,自分たちが築き上げてきたフットボール,狙うフットボールをどれだけピッチで表現できるか,ということに徹底してこだわってほしい,と思っています。

対名古屋戦(14−GL#7)。

相手が置かれた立場を,自分たちの優位性へと転換すること。


 このような課題をグループリーグ最終節に際してセットしていた,と推理(仮定)するならば,この課題への回答は一定程度描き出せた,と同時に課題(とは言え,差し引くべき要素もある,と思いますが。)も見えた,と評価すべきではないか,と感じます。グループリーグ最終節,な名古屋戦であります。ヘルタ・ベルリンへの移籍が発表された原口選手にとって最後の公式戦でもあり,単なるグループリーグ最終節,というだけではない意味があったように思うのですが,こちらについては原口選手のことを含めてあらためて書いておこう,と思っています。今回は,試合そのものについてまとめておこう,と思います。


 さて。おおざっぱに試合を振り返ってみますに。


 ゴールを奪う,という要素だけは埋められなかったものの,ごく立ち上がりの時間帯から主導権を掌握することができていたように感じます。先制点を奪取した局面を振り返るに,縦への意識,機動力とシンプルなパス・ワークによって相手守備ブロックが見せた隙を的確に突くことができていたように感じます。その後,スコアをイーブンな状態へと引き戻されるものの,前半終了を意識する時間帯に再び得点を奪い,リードを築いた状態で試合を折り返します。


 この段階で課題を見るならば,やはりスコアをイーブンな状態へと引き戻された局面ではないか,と思います。攻撃面でリズムを引き寄せられている,という感触は強かったと思いますが,今節はリスク・マネージメントという部分でちょっとルーズな部分を見せてしまった,という印象です。ボール・コントロールを相手に奪われたあと,ボール・ホルダーへのアプローチが仕掛けられなかったことで,守備ブロックがバランスを整えるための時間を用意できない。バランスが悪い状態で相手の縦に対する対応を取る形に追い込まれ,アプローチを外されてしまうと決定的な局面を相手に作らせることになってしまう。昨季の課題,とも言うべき要素ではないか,と思いますが,今節はそんな課題が前半段階で見えてしまったように思います。


 後半立ち上がりからの時間帯を振り返ると,今季序盤に見えた課題,ゲーム・クロックが45;00から再び動き出し,60;00前後を表示するまでの時間帯,相手が狙う戦い方に引き込まれてしまってなかなか後手を精算できない,という課題が今節にも見えていたように感じます。リードを築いている状態ですし,ペースを落とす,という判断はコンディションなどを考えれば決しておかしなものではありません。しかしながら,チームとしての意識が相手の戦い方に対して「受ける」ような状態に無意識的であるにせよ,嵌り込みかけてしまったように思うのです。失点,という事態は回避できたものの,どのようにして相手のリズムから自分たちのリズムへと引き戻していくか,チームとしてイメージを明確にしておくべき要素であるように感じます。


 この流れを変えるきっかけとして,戦術交代が機能した部分も決して小さくはないかな,と見ています。


 最初にダッグアウトが仕掛けた戦術交代は,平川選手に代えて関根選手,というものでした。縦への鋭さを意識付ける,たとえば相手守備ブロック背後のスペースを狙う機動性を高める,というメッセージを打ち出すことによって,単純に相手の攻勢を「受ける」のではなくて,ボール・コントロールを取り戻したあとのイメージを明確なものとする。チームが自律的に戦い方のギアチェンジができれば理想的,ですが,ベンチワークによって戦い方に変化を加えることも必要な部分,でしょう。その意味で,この戦術交代は今節における鍵,そのひとつだったように感じます。


 戦術交代,という意味で言えば,山田選手の投入もポジティブな要素ではないか,と思います。浦和のアタッキング・ミッドフィールド(インサイド・ハーフ),ここまでの主力が持っている個性とは明確に違う個性をピッチに表現してくれていたのではないか,と思います。戦術的な枠組みから見ると,必ずしもポジティブな部分だけではない,かも知れませんが,少なくとも明確に違うリズムを刻むことができている。このリズムをどのようにして「浦和が狙う戦い方」のアクセントとするか。指揮官にとってはチャレンジングな課題,かも知れませんが,この個性をアクセントとして取り込めるならば,戦い方の幅は大きく広がるのではないか,という印象(期待)があります。


 さてさて。冒頭の話に戻りますと。


 相手の動向にかかわらずセカンド・ラウンドへの進出を決めるためには,今節での「勝ち点3」奪取が必要とされていた相手の立場を,自分たちの優位性へと転換することを,今節における課題とするならば,しっかりとこの課題をクリアすることができた,と見てもそれほどアンフェアではない,と思います。反面で,立ち上がりから自分たちの狙う戦い方へと相手を引き込む,という意図が明確に感じられる戦い方であったがためか,リーグ戦では抑え込むことができていた課題,昨季の課題であったり今季序盤での課題が再び見えたことも確かではないか,と思うのです。自分たちが狙う戦い方を表現することと,リスクを的確にマネージする,という部分とをどのようにバランスさせるか,中断期間にさらなる煮詰めを,と思っています。

ストラッカ童夢、ル・マン参戦中止。

「部品単位のトラブル」とのことですが。


 ストラッカ・レーシングからのリリース(英語)を斜め読みする限りでは,単純な部品ではなさそうです。今回も引き続きフットボールから離れまして,童夢からのリリースをもとにちょっと短めに書いておこう,と思います。


 ストラッカからのリリースでは,ル・マン24時間耐久に向けたテストをスパ・フランコルシャンで実施していた,とのことですが,このテストの初日,オー・ルージュを走行中にコースオフを喫し,マシンにダメージを負った,とのことです。チーム監督によれば,テストを担当していたドライヴァは負傷などを負っているわけではないものの,トラブルが発生した原因を突き止めること,そしてコース・オフによって破損した部品(このリリースを読む限りでは,原因となる部品のダメージのみならず,コース・オフによってマシンの複数箇所にダメージが及んでいる可能性を見ておく必要性もありそうです。)を修復するとともに交換用部品を用意するための時間が不足していた,とのことです。


 このストラッカからのリリースを合わせて考えてみるに,です。


 個人的な推理,かつ一般論ですが,童夢がS103専用に設計し,製作した部品が何らかの原因によって破損,その原因が設計段階の問題に起因するものなのか,それともパーツ・サプライヤーによる製作段階での問題に起因するものなのか,確認するための時間が不足していた,ということをストラッカからのリリースは指摘しているのではないでしょうか。童夢からのリリースを読むに,マシン設計も遅れていたようです。であれば,パーツ・サプライヤーに対しても十分な時間が用意できなかったのではないか,と考えるわけです。また,今回のS103はマシン設計を童夢が担当,実際のマシン製作は欧州で,という作業分担がなされていたわけですが,部品製作段階でどれほどのコミットを童夢サイドができていたのか(あるいは,ストラッカがどれだけしっかりと童夢と連絡を取り,パーツ・サプライヤーに対してコミットする体制ができていたか),という部分も気になる部分です。建築用語になりますが,S103開発に際して「設計監理」が機能しているとは言いがたい状態だったのではないか,と思うのです。


 冒頭にも書きましたが,童夢は今回のトラブルを「部品単位が中心のトラブル」としていますし,間もなく収束するとの見通しを示しています。マシン設計の遅れが結果としてすべてのスケジュールをタイトなものとしてしまったがために,トラブル・シュートに使える時間が決定的に不足,ル・マン参戦を中止するという決断に至ってしまったことは残念と言うしかありませんが,トラブルを潰しきれていない,中途半端な状態のマシンで評価を受けてしまうよりも,トラブルを徹底的に潰してWECへとマシンを持ち込み,カスタマー・シャシーを手掛けるコンストラクターとしてしっかりとした評価を受けることを,私としても望んでいます。