なんとFF(日産のLMP1マシン・その2)。

ERSの持っている機能を,最大限に引き出すためのディメンション。


 ベン・ボウルビーの発想を端的に要約してしまえば,こういうことのようです。にしても,FFレイアウトとは,相当に挑戦的なディメンションであります。この挑戦的なディメンションが,どれだけの戦闘力として表現されるのか。現段階では,テスト・セッションの状態などがチェックできるわけではありませんから,持てる潜在能力が実際に表現できる能力となり得るのか,それとも潜在能力が隠れたままになるのか,判断は相当に難しいと思うわけですが,少なくともデルタウィングを手掛けたベン・ボウルビーはLMP1−Hを手掛けるにあたっても,独創的な発想を存分に落とし込んできた,とは言えるように思います。



 ファースト・チームは第2次キャンプの行われる鹿児島へと移動,着々とシーズン開幕へ向けた準備を進めているわけですが,相変わらずフットボールを離れまして,日産からのリリースをもとに書いていこう,と思います。


 さて。このLMP1−Hを考えるときに,最も重要な技術要素となるのは冒頭部分にも書いた,「ERSの持っている機能の最大化(であり,最適化)」ではなかろうか,と思います。端的に書けば,ERSを最大限に機能させるために,どのようなパワーユニットを構築するか,であり,どのようなディメンションを採用するか,であります。まず,パワーユニットから見ていきますと,オートスポーツさんの記事(と,この記事のベースとなったオートスポーツさんの記事(UK・英語))を斜め読みしてみますと,日産は8MJを発生するERSの搭載を想定しているようです。このリリースでは,搭載されるエンジンは3000cc・V型6気筒ツインターボとのことです。単体重量がどの程度か,あるいはどこまでコンパクトな設計になっているのか,など,このリリースからは読み取ることのできない部分を含めて,日産は“パワーユニット”についてはLMP1に関する技術規則,というよりもフォーミュラ・マシンについての技術規則に近い発想を持っているのではないか,と見ています。


 つぎに,ディメンションであります。


 ミッドシップ・レイアウト,という固定概念を外してLMP1−Hについての技術規則を読み直してみれば,確かに多様なアプローチをこの技術規則は許容している,と見ることもできます。かつてのグループC規定も,技術的に多様なアプローチを許容しうるものでしたが,ディメンションについても独自性を許容しうるものだった,とまでの記憶はありません。その意味で,現行の技術規則は相当にメーカに自由度を与えるものとなっている,と見ることもできるわけです。


 そこで,です。日産はなぜ,ミッドシップ・レイアウトではなく,FFレイアウトの採用に踏み切ったか,をシロート目線で推理してみよう,と思います。


 ここでも鍵となるのが,“ERS”ではなかろうか,と思うのです。ベン・ボウルビーはエネルギー回収効率をどれだけ高められるか,同時にどれだけ短時間に回収したエネルギーを使えるか,に着目していることが読み取れます。物理な話をすれば,運動エネルギーは速度の2乗に比例もしますが,同時に重量にも比例しています。フロント・アクスルに搭載するERS,その機能を最大限に生かすためには,重量物をERSの近くへと搭載することで,運動エネルギーの絶対値を高めたい。となると,タイア攻撃性も当然に高まることを意味するわけだから,ミッドシップ・レイアウトを採用するレーシング・マシンとは大きく異なるフロント・タイアを装着する必要性が出てくる。結果的に,ミッドシップ・レイアウトを採用するLMP1−Hと前後が逆転したようなタイア・サイズを採用することになるし,重量配分も大きく異なることから空力的な処理も必然的に異なることになる,と。


 というような理解をすればいいのかな,とは思うのでありますが,ホントに未知数な部分が多いマシンである,というのが正直な印象であります。メカニカルな部分だけで言うならば,確かに興味深いマシンなのですが,レーシング・マシンは技術的に興味深いだけで足りるものではありません。「強さ」に技術が関連付けられていることが求められる。強さを引き出せるアプローチであることを,期待したいと思います。