山田暢久引退試合。

しあわせな,そして素敵な,フットボールのある午後でした。


 相変わらずの遅筆堂,でありますが,山田暢久さん(と書くと,やっぱりちょっと違和感がありますね。このエントリでは山田選手,だったり暢久選手,と書かせてもらおう,と思います。)の引退試合について書いていこう,と思います。思いますが,公式戦ではありませんので試合内容に踏み込む,というよりも,徒然に思うところを書いておこう,と思います。


 試合開始前のウォーミングアップ・セッションから,話を始めましょう。


 たとえば,今季の浦和ですとセッション開始前に,センターサークル付近に小さなマーカー・コーンで区切られたグリッドが用意されます。ミニ・ゲームのためのグリッド,であります。コーチング・スタッフからビブスが手渡されるフィールド・プレイヤーと,ビブスなしのフィールド・プレイヤー,5対5でのゲームですし,敢えて密集する局面を作り出す,という意味合いもあるでしょう,大きなエリアは用意されません。しかし,歴代選抜のミニ・ゲームはミニ,と言うにはいささか大きなエリアでした。ほぼハーフコート,と言っていいエリアでミニ・ゲームが展開されていたのですが,局面ベースで見るとハーフコートなのに,意外にスモール・フィールドな印象になったのも確かです。


 歴代選抜として,どれだけのひとがクレジットされていたか。スコッド・リストの長さが納得できる,そんなウォーミングアップ・セッションだったわけです。であれば,歴代選抜が見せた色は,前半と後半でちょっとした違いがあったように思うのです。


 前半は,2006シーズンを戦ったチームが歴代選抜を構成していました。リーグ・タイトルを奪取したシーズンであり,歴史ある小さなカップを防衛したシーズンであります。でありますから,個人的にも印象深いチームであり,フットボーラーたちだったわけですが,彼らの個性はいまでも変わるところはありませんでした。たとえば,攻撃を組み立てる局面であったり,相手守備ブロックに対して個人勝負を仕掛けていく局面であり。あるいは相手ボールホルダーに対してボールを奪いに行く局面であったり,相手の攻撃を跳ね返す局面であったり。そんなひとつひとつの局面で,「らしさ」を表現してくれていたように思うのです。


 そして当然ながら,暢久選手も「らしさ」を中野田のピッチに表現してくれたように思います。


 ペナルティ・エリアからちょっと離れた位置から低く抑えたシュートを放ち,ゴールを奪う。シュート・モーションに入ったときの姿勢,軸足の置き方だったり足を振り抜いたあとの体勢などを含めて,個人的にイメージする,最も「暢久選手らしい」形が描き出されたように思うのです。


 対して後半です。後半のチームを構成していたのは,必ずしもタイトルと直接的な関係性を持つひとたち,とは限りません。厳しい時期を暢久選手とともに歩んできたひとたちがクレジットされていた,と言っても決してアンフェアではない,と思います。けれど,もうひとつの側面があるように思います。これからの浦和を作り上げるための鍵を持っているひとたち,でもあるように思うのです。彼らが対戦したチーム,そのなかには下部組織で実際に見てきた(そして,いま現在見ている)フットボーラーが含まれています。そして,暢久選手はこれからの浦和を背負っていかなくてはならないフットボーラーを最終ラインの位置から支えていた,ように映るのです。同窓会,のような意味合いが前半にあったとするならば,後半にはこれからの浦和へのメッセージ,暢久選手からだけでなく,アカデミーを担当するスタッフからのメッセージが込められていたように思うのです。


 マイペース,のように見えて,実際にはしっかりと周囲を観察している(のかも知れない)し,戦術眼にしても相当に鋭いものがある(のかも知れない)。しなやかであって,でも確固たる軸を持っている(ように,好意的に解釈すればできないこともない)。何ともつかみどころがなくて,底知れぬ雰囲気を漂わせていて,どれだけのものを隠し持っているのか,実際にすべてを見せてくれたことはともすればない,のかも知れない(と,アウトサイドが勝手に解釈しているだけかも知れないけれど)。そんなフットボーラーの最後の舞台は,いろいろな側面を持っていたように思えて,やっぱりしあわせで,素敵だったように思うのです。