「まったく異なる方法」とはFRか(日産のLMP1マシン)。

興味深い推論だな,とは思います。


 “spy photo”を見る限り,興味深い推論,というだけでなく,確度の高い推論という評価もできる,かも知れません。知れませんが,個人的には違う推論の可能性を考えてみたい,と思います。たとえば,LMP1マシンのデザインを担当しているのがデルタウィング,そしてZEOD RCを担当した人間と同じであるならば,どこかに独創的なレーシング・マシンとの共通性を感じ取ることができるはずですし,空力的な処理などにも引き継がれている要素技術があるのではないか,と思うわけです。


 相も変わらず,の低空飛行な更新頻度で申し訳ありません。にもかかわらず今回はフットボールを離れまして,レーシングな話をオートスポーツさんのニュース記事をもとに個人的な推論,と言いますか,希望的観測を書いてみよう,と思います。


 R391をサルテへと持ち込んで以降,スポーツ・プロトタイプへファクトリー参戦せず,プライベティアへの技術支援(実際には,セミ・ファクトリー体制での「技術支援」をしていた時期もあるように思いますが。)という形でスポーツ・プロトタイプへのコミットをしていた日産でありますが,2015シーズンからLMP1クラスに参戦する,とのアナウンスが昨年されています。このアナウンスの段階では,どのようなレーシング・マシンを持ち込むのか,という部分には踏み込んでいなかったものの,これまでの“R・・・”というスポーツ・プロトタイプに与えられてきたコードネームを使わずに,“GT−R”とのネーミングを採用していること(となると,BCNR33時代のGTマシンを思い浮かべるオールド・ファンのひともおられるかな,と思います。),加えて,こちらの記事で紹介されている,


 「ライバルたちに対し、まったく異なる方法で勝ちたいと思っている。我々は、ポルシェ、アウディトヨタと同じ枠のマシンに収めるつもりはない。他とは違ったものを目指している」


とのパーマー副社長のコメントを受けてのこと,ではないかと思いますが,日産はLMP1マシンにFRレイアウトを採用してくるのではないか,との観測が流れていたのだとか。そして,テストを行っている,と思われる画像によって,FRレイアウトであるとの観測,その確度が上がっているようにも感じられるわけです。ですけれど,(シロートですから大きく空振りする可能性は当然ありますが)違う見方もしてみたいわけです。


 ではまず,“ガレージ56”枠で参戦したレーシング・マシンを思い浮かべてみることにします。


 これらのレーシング・マシンは,どのようなディメンションを持っていたでしょうか。このディメンションを基盤として,LMP1マシンについての技術規定を充足するディメンション,フォルムへと変化させるとすれば,どのようなものとなるでしょうか。


 思うよりも,ロングノーズなスポーツ・プロトタイプ,という姿が導き出されるのではないでしょうか。オートスポーツさんのCGイメージでも,特徴的なフロント・セクションが描き出されていますが,恐らく,デルタウィングからZEOD RCへと引き継がれたマシン・ディメンションが,LMP1規定と組み合わされているのではないかな,と思うわけです。むしろ,個人的な興味はハイブリッド・システムをどのようにレイアウトするか,という部分です。たとえば,ZEOD RCでは専用設計のフロント・タイアを用意して,徹底的にフロント・セクションを絞り込んでいましたが,このディメンションが大幅に変化することになります。そのときに意識するのは,ハイブリッド・システムのレイアウトではないかな,と思います。モータをどの位置に搭載するか,であったり,バッテリ・ハウジングをどの位置にするか,などであります。物理的な特性を考えるならば,重量物はできるだけ車体中央部,それも低い位置に搭載したいはずです。メディアがエンジン・ベイと考えている位置にLMP1−Hにおける重要な技術要素であるバッテリ(あるいはキャパシタ)が搭載される可能性もあるかな,と思うのです。


 もうひとつ。オートスポーツさんの記事にも掲載されている,“spy photo”についての疑問であります。


 最大限好意的に書けば,かつて日産が手掛けたグループCマシンとの共通性を感じるサイド・セクションに思われますが,現代的な空力処理を意識したサイド・セクションだろうか,という疑問が浮かびます。むしろ,今回のような“スパイ・フォト”の可能性を考慮して,サイド・セクションには擬装を施してくる,と考えるのが自然ではないか,と思うのです。ZEOD RCを思い返してみると,モータ駆動,という部分がクローズアップされてはいましたが,モータ駆動とエンジン駆動を組み合わせてひとつのサイクルとしていた,ということを考えると,ZEOD RCも小排気量エンジンを搭載するスポーツ・プロトタイプ,と見ることができるはずです。けれど,このZEOD RCにはシャークフィン部分にエア・インテークが装着されてはいませんでした。であれば,サイド・セクションにエア・インテークが装備されていたと見るべきでしょうし,バッテリやモータの冷却などを考えてみても,サイド・セクションの造形には大きな鍵があったのではないか,と思います。この鍵を,スポーツ・プロトタイプにも持ち込んでくる可能性は,決して低くはないのではないか,と思うのです。


 さらに書けば。ZEOD RCでは,小排気量エンジンの可能性を探っていた,と見ることもできるかな,と思います。サルテでの12ラップをひとつのサイクルとして捉え,11ラップをエンジン駆動で走破する。そのときに使われるのは,直列3気筒・1500ccのエンジンだったと記憶しています。LMP1規定で勝負権を,となれば,恐らくは違う解が導かれるだろうとは思いますが,小排気量でも勝負を挑めることはポルシェが示してもいるはずです。重量物を可能な限りコンパクトに仕立てることができるならば,スタイリングも既存のスタイリングに収める必然性がない,とも言えます。ZEOD RCがLMP1マシンを仕立てるにあたってのテストベッド的な意味合いを持っていたのであれば,何らかの共通性がLMP1マシンには見出せるはずです。そして個人的には,ZEOD RCの血統をLMP1マシンにも感じたい,と思います。


 日産としては,“マーケティング”を意識してGT−Rというコードネームを選択した,のかも知れませんが,個人的な思いとしては,独創的なレーシング・マシンを基盤とするLMP1マシンを見てみたい,と思っています。