対浦安SC戦(2回戦)。

主戦場が異なるチームとの対戦は,やはり難しい。


 たとえば,立ち上がりの時間帯を取り出してみても,あるいは失点を喫した局面を含めた複数の局面を取り出してみても,実感できるのではないかな,と思います。浦和の強みを徹底的に抑え込む,そのためにスカウティングするのではなく,自分たちの狙うフットボールへ浦和を引き込むためにどのような方法論が必要なのか,という方向からスカウティングしてきただろうことがうかがえる。確かに,ファイナル・スコアから見れば違う印象もある,かも知れませんが,少なくとも個人的には好感の持てる対戦相手との天皇杯初戦だった,と思っています。


 相変わらずの遅筆堂でありますが,駒場での天皇杯初戦であります。


 さて。立ち上がりの時間帯であります。この試合ではCKから先制点を奪取,先手を打つことができていますが,それでもカテゴリが違うチームとのカップ戦初戦,その難しさを感じさせる時間帯だったように感じます。対戦相手である浦安SCは,浦和がどのように試合へと入ってくるのか,かなり具体的なイメージを描き出していたように感じます。と同時に,浦安は「浦和の強みを徹底的に抑え込む」戦い方ではなく,自分たちが狙う戦い方を基盤に,浦和をどう自分たちが狙う戦い方へと引き込んでいくのか,という方法論を持ち込んできたように感じます。カップ戦であることを考えれば,浦和の強みを徹底的に抑え込む,という方法論も決して否定されるものではない,と思いますし,「行けるところまで勝ち上がっていく」ことをファースト・プライオリティとするならば,浦和を徹底的に抑え込み,ワンチャンスを狙うという方向性を狙う方がむしろ自然かも知れません。けれど,浦安はあくまでも「自分たちが狙うフットボール」を基盤に据えていたように受け取れます。どこか,浦安SCから受ける印象は佐野さん(かつて草津や長崎で指揮を執り,今は福井で指揮を執られているようです。)が率いるチームから受ける印象に似ているように思います。対する浦和は,浦安がどのように試合を立ち上がってくるのか,どのような戦い方をしてくるのか,慎重に試合を動かしながら確認したい,という意識があったように感じられます。そのために,相手のモチベーションを「受け」かけているような印象へとつながったように感じます。


 浦安が,理詰めで「対浦和」の方法論を描き出していただろうことは,試合をイーブンな状態へと引き戻された局面であったり,ゲーム・クロックが60:00前後を表示していた時間帯の局面から感じ取れるのではないか,と思います。相手は浦和が持っている強みを的確に把握,浦和の強みを抑えるためにはどのような戦い方が必要か,を意識すると同時に,浦和がどのようなウィークポイントを持っているのか,的確に意識して攻撃を組み立てていたように思います。特に,60:00前後の時間帯に相手が描きだした攻撃は,ゴール・ネットを揺らされることはなかったものの,浦和がボールサイドを強く意識した戦い方をしてくることを意識し,逆サイドへとボールを展開することと同時に逆サイドで縦を積極的に狙う,という戦術的なイメージがしっかりと共有されていただろうことが強く感じられるものでした。この天皇杯初戦では,攻撃面と守備応対面でのバランスを慎重に取りながら,というよりも,どれだけ狙う攻撃を描き出せるか,という方向に意識が傾いていたように思いますが,相手はこの意識を「狙って」いたように映るのです。リーグ戦では攻撃面と守備応対面とのバランスがズレを生じてしまえば,クリティカルな局面を招きかねないように感じます。縦を鋭く狙う,という意味では,リーグ再開初戦の対戦相手も近い戦い方をしてくる相手,であるはずです。この天皇杯初戦で,戦術的な課題が明確になったことは,戦術的なバランスを整える,という意識を徹底するための時間が取れる,という意味から見てもポジティブに捉えるべきかも知れません。


 さてさて。浦和と浦安SCとの間に存在している差,というのは,高い機動性をどの段階まで維持できるか,という部分であったり,判断に必要とする速度をどれだけ早くできるか,そして判断速度が高い状態をどの段階まで維持できるか,という部分などにあるのかな,と感じます。


 この試合,確かに浦安SCから荒さを感じる,そんな局面があったのは確かです。浦和の「速さ」に対応しきれない局面が出てくると同時に,荒さを感じる局面が出てきた。この印象こそが,主戦場とする舞台,その違いなのだろう,と思うのです。トップ・カテゴリのリーグ戦で,判断速度の遅れであったり,機動性が落ちてしまうということはそのまま,リズムを失うことにつながっていくように思います。浦安SCとしては,トップ・カテゴリを戦うチームと実戦の舞台で速度の違いを体感できたことは大きな要素となっているのではないか,と思います。


 いつもならば,対戦相手については最低限,と言いますか,浦和の戦い方(戦術的な課題)を振り返るために敢えて見る,という形を取っていますが,今回はちょっとだけニュートラルな位置に軸足を近付けて,浦安SCの戦い方にも意識を振り向けてみました。局面ベースで難しさを感じさせてくれたことも含めて,いい対戦相手との天皇杯初戦であった,と思っています。