商品価値とパートナーシップと。

ちょっと,思いますに。


 かつて,日刊で浦和番をされた永井孝昌さんがいるのだから,もうちょっと浦和の内側に入り込んだ取材があってもいいのではないか。


 たとえば,リーグ初年度から低空飛行を続け,浮上を果たしたかと思えば迷走状態へと陥り,結果としてJ2陥落までを経験したクラブ。おっしゃる通りの事実です。ですが,そんなクラブが,なにゆえにリーディング・クラブへの階段を駆け上がっていくことができたのか,その背景をサラッと扱うだけでもJリーグのプロモートになるのに。


 ・・・などと思うほどに,強烈な違和感を感じざるを得ない日テレさんの扱いではありますが,実際にはフットボールという競技をもっと浸透させ,プロモートするためには「まだ」必要な要素ではなかろうか,と思ったりするのであります。


 端的に言ってしまえば,地上波メディアに対するメディア訴求度が低いから,結果として(より具体的に言うならば,スポーツ・コンテンツとしての)商品価値が低下してしまう。


 開幕初年度からしばらくは,民放各社が独自にダイジェスト番組を組み,ゲーム自体に対する中継にも積極的な姿勢を見せてくれていました。


 裾野を広げるという意味では,地上波を決して無視することはできません。単純に放映権料だけを考えて,CSへと軸足を移してしまう一方で,地上波対策をシッカリとしてこなかったために,Jリーグというコンテンツが一部のファンに向けた商品として固定化されつつある,という見方も成立します。


 ということで,サントリー&ニコスがJスポンサー撤退・・・開幕年から支援(サンスポ)という記事をもとに。


 この問題。メディアとの関係も大きな問題だと思うのですが,同時にJリーグサイドのスポンサー保護に対する姿勢,その姿勢がいささか弱いことが気になります。


 たとえば,サントリーさんであります。


 サントリーさん自身は,撤退理由を明示されてはいません。メディアによっては,JFAとのパートナーシップを締結しているキリンとの関係を指摘される向きもあります。確かにそういう部分もあるでしょう。あるでしょうけれど,Jリーグは正規ルートでのアンブッシュ・マーケティングがいささか多すぎると思うのです。


 リーグと契約関係にあるパートナー,その業種と各クラブが個別に契約しているパートナー,その業種が見事に重複してしまっているケースが多いのです。大ざっぱに言ってしまえば,利益相反関係に立っているわけです。そのために,各スタジアムで商品に対するプロモーション活動が存分に展開できないことになってしまうわけです。のみならず,スタジアムでの広告が独占的に展開できません。加えて,スタジアムで販売されている商品は,クラブとの契約関係にあるサプライヤーの商品が優先され(ある意味,当然のことです),リーグとの契約関係にあるサプライヤーの商品は実際には駆逐されてしまうことになります。これでは,リーグと契約関係を結んでいるメリットが理解できなくなります。


 その最たる例が,サントリーさんではないか,と思うのです。Jとの関係が最優先されるのならば,スタジアムで販売されるビールは,サントリーだけ,ということであってもおかしくはありません。しかし実際には,各クラブはビール会社とのスポンサー契約を別個に締結しています。サッポロビールとの契約を結んでいるケースもあるし,キリンというケースもある。そのために,スタジアム内で販売されるビールは,リーグのパートナーではなくて,クラブのパートナーのもの,ということになっているわけです。


 また,ニコスさんに関しては,リーグ自身がミスを犯しているように見えます。


 ごく大ざっぱなくくりをすれば,三菱UFJニコスさんも,GEマネーさんも同じ金融機関であります。同一業種(あるいは,重複領域があまりにも多い類似業種)の会社に対してスポンサー契約を締結する,という時点でスポンサーシップの破棄を申し出られたとしても仕方ないこと,なのです。これは初年度の段階でさえ大きな問題でした。銀行とクレジットはかぶらない。そういう認識であれば,いささか甘い。


 FCWCを見ていても,FIFAの手法は徹底しています。


 そもそも,このトーナメントでプリンシパル・パートナーとなっているのはトヨタです。となれば,FIFAとのパートナーシップ関係にない,日産自動車ネーミング・ライツ保有している“日産スタジアム”が“横浜国際”に戻されるのは当然です。2006年では,アリアンツ・アレーナアリアンツの名前を外さざるを得なかった。言うまでもなく,アリアンツはFIFAとのパートナーシップを締結していないからです。加えて言えば,トヨタは大型バスを製造してはいないけれど,トヨタのエンブレムをつけていないバスを選手移動用としてメディアに露出させるわけにはいきません。トヨタと提携関係にある日野自動車はちょっと微妙ですが,それでも社名は違います。まして,いすゞ三菱ふそうのロゴを露出させるわけにはいかないのです。FCWCに使われるチーム移動用のバスにフル・ラッピングをするのはトーナメント自体のプロモーション,という位置付けも当然にありますが,同時にアンブッシュ・マーケティングを徹底的に排除するための手法です。


 また,FIFAやUEFAが関わっているトーナメントで,チケットを購入しようとするときに利用可能なクレジットカードは,特定の会社が発行したカードに厳しく限定されていたはずです。決済にかかる選択肢が広がるのですから,本来ならば複数のカードを認めた方がいいはずなのに,です。


 パートナーの権益を徹底して保護しようと思えば,「やり過ぎ」と思えるレベルにまで徹底しなければならない。その姿勢が,Jリーグサイドにあったのか,という疑問があるわけです。


 一面ではメディア露出という問題を抱え,他面ではパートナーの権益保護という部分でいささか中途半端な姿勢を見せていた。メディア露出面での問題に目を奪われがちですが,この問題の裏側にあるパートナーシップという要素もかなり大きな意味を持っているように,私には思えます。