「ハコ」とそのまわり。

よく,劇場のことを「ハコ」なんて言い方をします。


 新国立劇場だったり,オーチャード・ホールのように歌劇から商業演劇,コンサートまでを幅広く守備範囲とする「全方位型」のハコもあれば,青山円形劇場だったりシアター・コクーンのように「とがった個性」を前面に押し出すところもある。また,シモキタのように小さなハコであるがゆえに魅力を放つというケースもあったりします。


 で,ふと思いますに。


 Jリーグを考えるにあたって,この「ハコ」にあたるものを考えますと。


 当然ながら,「競技場(スタジアム)」であります。クラブの営業収入のうち,大きなパーセンテージを占めている(と言いますか,極力占めてもらわないと困る)要素である観客動員数,その鍵を握るのがスタジアムです。また,この観客動員数は,クラブにとっての大きな収入源であるスポンサーとの契約を締結するにあたり,大きな訴求度を持っている要素にもなります。つまり,直接的,間接的にクラブ財政に直結するのがスタジアムという存在になるかと思います。
 このスタジアム,イングランドのように各クラブが持っているわけではありません。各地方自治体が持っているスタジアムを利用する,というスタイルであります。となれば,地方自治体に対するアピール,という部分からも観客動員数というのはバカにならない要素になるわけです(コレはまた別の話,ですけど)。


 さて,各クラブが地方自治体との関係において使うことになるスタジアムですが,浦和や大宮(現在,改修中ですな。),神戸であったり横浜FC,あるいはディビジョン2においては仙台であったり鳥栖のように専用スタジアムを使用している例はなかなか少なく,総合型スタジアムを使用しているケースが多いように感じます。このひとつの要因が,個人的に「国体」にあるのではないか,と思っています。
 国体を開催することによって,ほぼ各都道府県に一定水準以上のスタジアムが整った。このことは評価すべきことだと思っています。もちろん,IAAF(国際陸連)基準をクリアするトラックを備えているならば,そのトラックを無理に潰す必要もないし,地域を代表する総合型スタジアムへと育てていきたい,というビジョンが明確にあるならば,国体開催時にそのビジョンを織り込んだデザインを採用しておく,という方法論もあります。それに,少なくとも各都道府県にひとつは,あるいは,既存の競技場を改修するにあたって,そのきっかけを国体開催に求める方法論もあるのではないか,と思います。


 ですが,地域によっては複数の総合型スタジアムを抱え,必ずしもトラックが必要ではないケースもあるような感じです。


 そのときに,国体に向けて建設された競技場をどのように利用するのか,という観点があっても良い。少なくとも,多くの演目を想定したハコではなく,特定の演目に特化したハコに変更する,という考え方が出てきてもいいのではないか,と思うわけです。マンチェスター・シティが現在本拠地としているシティ・オブ・マンチェスターはもともと,コモンウェルス・ゲームス(英連邦限定のオリンピックのようなもの)を開催するべく建設された,総合型スタジアムでありますが,この大会終了後にトラックをサブ・グラウンドへと移設しながらピッチ・レベルを下げ,スタンドを拡張する形で改修され,フットボール専用スタジアムへと生まれ変わっています。こういう形の改修ができるスタジアムもあるのではないか,と思うのです。


 加えて,スタジアムをもうちょっと広く捉え,周辺環境にも目を移していけば,ちょっと変わった考えもできるのではないでしょうか。


 野球にせよ,フットボールにせよラグビーにせよ。子どもたちの大会ではなかなか複数の開催地を確保するわけにはいきません。何より,移動するためのコストを各チームに負担してもらうわけにはいきませんし,時間的な問題もあります。できることならば,1ヶ所で集中して開催したい,という意向が強いようです。それゆえ,多くのコートやグラウンドが確保できる河川敷などが大会の開催地になったりするわけです。
 ならば,スタジアムを中心とするスポーツ施設の徹底した整備,そのきっかけにJリーグがなればいいのでは?と思うのです。
 スタジアムをセイン・ピスタにするかどうか,という話と同時に,改修計画を周辺のサブ・グラウンドやトレーニング・グラウンドを含むものにすれば,ひとつにはクラブの練習環境を確保することになりますし,ひとつには子どもたちのスポーツ環境を飛躍的に向上させることにもなる。小学校や中学校の校庭に,中野田や駒場水準のピッチを備えるのは難しいかも知れないけれど,スタジアムの周辺を機能的に整備すれば,プロフェッショナルに限らず子どもたちにも利益が出てくるに違いない。言うなれば,中野田のような機能を持ったスポーツ公園が増えてきてほしいな,と思うのです。


 スタジアムそのものが,プロフェッショナルであったりハイ・アマチュアにとっての“聖地”として位置づけられるのみならず,そのスタジアムの周囲にあるグラウンドが,子どもたちにとっての“聖地”としても存在できるようになればいい。その一翼を,Jリーグを目指すクラブであったり,現在JFLやJリーグを戦うクラブが担えるようになると,Jリーグが打ち出している「百年構想」がさらに現実味を持ってくるのではないか,と感じるのです。