V8エンジンと不等間隔爆発。

アメ車を表現するときの「デロデロ」。


 欧州メーカのクルマでも,レクサス(ご先祖さまであるセルシオを含めて,でありますが。)でも感じ取ることができますよ,と言ったらどうでしょう。このデロデロ,実はバイクで鍵を握る要素であったりするわけです。今回はひさびさにバイクの話を,クルマの話と組み合わせて書いてみよう,と思います。


 さて。今回のお話の出発点はV8エンジンであります。


 このV型8気筒エンジン,クランクシャフトからコンロッド(正確には“コネクティング・ロッド”と表記すべき部品で,クランクシャフトとピストンをつなぐ部品です。)がどのように出ているのか,によって2種類に分かれます。クランクシャフトから見て,コンロッドが上下方向に出ているのがシングルプレーン,上下方向と左右方向に出ているのをダブルプレーンと言います。もうひとつ。4サイクル・エンジンの大原則ですが,吸気から圧縮,爆発に続いて排気という循環は720度(クランクシャフト2回転)で成立します。


 では,このV型8気筒エンジンを片側バンクだけに切り取ってみよう,と思います。この,片側バンクのピストンはどのような爆発間隔で動くでしょうか(オリジナルのエントリから,この部分を加筆,訂正させていただきます。)。


 シングルプレーンとダブルプレーン,大きな違いは片側バンクにおける爆発間隔にあるのです。上下方向と左右方向,その両方にコンロッドが突き出すダブルプレーンは,振動面で優位性を持っています。コンロッドを,爆発による振動を打ち消す方向に動かすことができるから,です。そのために静粛性や制振性が求められる高級車では,ダブルプレーンが採用されるケースが圧倒的です。


 反面で,爆発間隔が等間隔にはならない(たとえば,同じ長さの排気管を使うと排気干渉という問題が発生する),という特徴を持っています。そのために,高回転域へとスムーズに吹け上がっていくという部分で不利な部分を持っている,というわけです。このネガティブを意識している(振動面でのネガティブよりも,高回転域までしっかりと使えるメリットを選んで,シングルプレーンのエンジンを搭載している)のが,フェラーリというわけです。


 直列4気筒エンジン,その不等間隔爆発エンジンと,等間隔爆発エンジンとの違いになるのです。ここでやっとバイクの話へと入っていきます。


 自動車エンジン,V型8気筒を採用するエンジンですと,ひとつのピストンが受け持つ排気量も相当なものです。たとえば,4000ccの排気量を持っているとすれば,ひとつのピストンは500ccを受け持つことになり,その爆発力に耐えるだけの重量を必要とします。そのために,高回転化を狙うためのクランクシャフトを採用することにも意味があります。


 対して,バイクではどうか,と考えてみるに。


 WSBの技術規則(直列4気筒エンジン)で考えると,ひとつのピストンが受け持つ排気量は250ccが上限です。また,4輪車で同じ排気量を持つエンジンと比較しても,バイクのエンジンはコンパクトです。重量がマシンの運動性能に直結するわけですから,ピストンやコンロッド,大きな部分で言えばシリンダーブロックなどの構成要素が軽く設計されています。重いものを動かすよりも,軽いものを動かす方が有利なのは物理から見て,当然のことです。4輪と比較すれば,圧倒的に高回転を使いやすい,その前提条件を持っている。そこでさらなる高回転化が操縦性にポジティブな効果をもたらすか,と。ひとつのピストンが受け持つ爆発力はそれほどないし,等間隔爆発ですとすぐに次の爆発が付いてきてくれるわけではありません。そのために,低回転域でトルクを呼び出しにくくなる(駆動力を引き出しにくくなる)という印象をライダーに与えるのだとか。そこで,クランクピンの位相という考え方が出てくるのです。シングルプレーンですと180度の等間隔であるものを,ずらしていく。たとえば90度位相ですと最も短いタイミングで,90度の間隔で次の爆発を引き出すことができる。このクランクを採用することによって,絶対的な性能だけではなく,操縦性を引き上げる方向でエンジンを調律する,という方向性を打ち出した。


 古くは,確かホンダがRVFで不等間隔爆発を採用していたと記憶していますし,現在はヤマハがYZF−R1に不等間隔爆発エンジンを搭載しています。絶対性能だけを追い求めている,と思われがちなレーシングの世界,しかもスペック面を追求しがちでもあるレーシングな世界が,先駆けて不等間隔爆発を手掛け,操縦性へと舵を切っていたことを思うと,バイクにおけるダブルプレーン(クロスプレーン)は単純に爆発間隔だけの話ではないな,と思うのです。