大型車にも小排気量。

大型車ならば,大排気量。


 ある種の不問律,のように受け取っていることであります。


 もちろん,まったく根拠なき話,というわけでもありません。重量面を考えれば,あまり小排気量なエンジンでは運動性能を必要以上に落としてしまうし,無理してパワーを絞り出すような形になってしまえば,それは高級車がまとっていていい「余裕」,その反対側に行ってしまうことになります。そして当然,静粛性や制振性を意識して設計したとしても,エンジンに余裕がないのですから期待するほどの効果が得られない,と。ドライヴァのことよりも,どちらかと言えば後席などに乗るひとへの「おもてなし」が重要視されるセグメントですから,この不問律はなかなか崩れにくい,とも言えましょうか。


 ただ,この要件を逆から読めば,違った結論もあるはずです。


 車体重量が軽ければ,必ずしも大排気量エンジンにこだわる必要はないし,小排気量でもしっかりとしたパワーを,余裕を持って発生できるようであれば,無理に大排気量エンジンを搭載することはない,と。要は,「おもてなし」空間を維持できるのであれば,技術的なフリーハンドは意外に大きい,というのが高級車セグメント,と見ることもできるはずなのです。


 そして,モータがこのアイディアをあと押しした,と。


 ・・・「理」で言えば,確かに心配ないのですが,固定観念を崩すのは難しい,かも知れませんね。





 シーズン開幕を目前に控え,思うところもありますが。今回はあえてフットボールを離れて,クルマの話をこちらのニュース(webCG)をもとにしながら書いていこう,と思います。


 アウディのトップレンジを担うのが,A8であります。このA8をもとにハイブリッド・システムを搭載したコンセプト・モデルがA8ハイブリッドです。オフィシャル・フォトを見る限り,ショー・モデルとしてのコスメティックを感じられませんし,量産化をある程度前提にしたスタディ・モデルと見るべきか,と思います。このモデルを特徴付けるのが,インライン4エンジン(2リッターガソリン直噴ターボ・エンジン)を組み合わせたハイブリッド・システム,というわけです。エンジンで211ps,モータだけで45ps(モータと組み合わせた状態では245ps)を発生,動力性能的にはかなりのものを持っている,と言うことができるかと思います。


 同じセグメントに位置するBMW,あるいはメルセデスを見ても,純然たるコンセプト・モデルは別として(=技術的な方向性だけを考えるならば,アウディと似たような方向性も当然,考えているでしょう。),市販を意識したクルマに小排気量エンジンを搭載してくる,という選択はなかなかしてきません。「想定顧客層」を考えると,小排気量エンジン搭載は「理」としてアリだけれど,商業的に成功する可能性がなかなか見いだせない,という判断をしているのだろう,と想像します。


 顧客層の「固定観念」であったり,「意識」というのはなかなかに変わるものではない。


 フォルクスワーゲンが高級車セグメントに“フェートン”を投入したときは,「大衆車メーカがつくる高級車」という意識を振り払うことができなかったからか,商業的には成功したとは言いがたいところがあります。VR6を進化させた,W12という12気筒エンジンを搭載していたにもかかわらず,です。確かに,技術的な可能性は広いセグメントですが,イメージが占めるパーセンテージもまた,大きいのでしょう。
 対してアウディは,“プレミアム・スポーツ”という路線で徹底してきました。単なる高級車ではなくて,スポーティでもあるのだ,と。それだけ,イメージは確立しているという自信もあるのでしょう。


 アウディは,スポーツ・プロトタイプにディーゼル・ターボを積極的に持ち込むなど,環境対応技術として新世代ディーゼルを機軸としているだろうことが,容易にうかがえます。しかし,もうひとつの機軸も日本市場や北米市場でさらなるプレゼンスを狙うにあたって大きな要素になる,と考えているのではないか。
 であるならば,「なるほど」と思わせる戦略でありますが,個人的にはフランス車メイクスのように,“ディーゼル・ハイブリッド”という方向性も提示してくれるとさらに魅力的ではないか,と思ったりします。