対鹿島戦(10−01A)。

ミース・ファン・デル・ローエさんでしたか。


 “Less is more.”という言葉を残したのは。


 ローエさんは建築家ですし,建築という文脈でこの言葉は語られます。そのままフットボールにあてはめるつもりはないけれど,今節,特に戦術交代後のチームを説明するためには,この言葉が適切ではないかな,と思います。


 さて。大家が変わっても相変わらず,1日遅れが標準装備でありますが,鹿島戦であります。2季連続の開幕ゲームであり,09シーズンの最終節での対戦相手でもあります。であれば,彼我の距離を測るのに適切な相手,という見方も成り立とうか,と。


 では,書いていきますと。

 攻撃面で,ある程度表現できてきている要素と,まだ未整理の要素が混在してしまっている,という印象を受けています。ある程度表現できている,と感じられるのは,サイドでのコンビネーションであります。アタッキング・ミッドフィールドは基本的に,ポジションを固定することなく流動的に動きながら,SBとの位置関係を意識しながら攻撃の構築にかかわっていく,という形です。この部分に関しては,決して悪くはないな,と。


 ただ,未整理の要素も残されているように思うのです。


 大ざっぱに言うならば,組織と「個」のバランスであり,仕掛けイメージであります。


 ボール奪取からビルドアップ,という段階で,しっかりと組織的な動きができているか,と見ると,ちょっと不安定な時間帯が多い,という感じになるでしょうか。昨季は,「時間帯限定」で狙うフットボールが表現できている,なんて表現をしましたが,今季もまだ,その印象から大きく外れるところがありません。
 ビルドアップの段階で組織的な戦術イメージがしっかりと機能していないから,ボールをどこに展開させるのか,という部分で時間を使ってしまう。また,ビルドアップ段階で「個」を大きく使ってしまって,むしろ,「個」が生きてほしいエリア,相手守備ブロックを揺さぶっていかなければならないエリアで,「組織面」が強く顔を出してしまう。1トップが,「縦」方向への動きを積極的に引き出すためのステーションとしてしっかりとした機能をしてくれていなかった,という部分も大きいか,と思います。ボールを収めて,さらにアタッキングが縦に仕掛けていく動きを促していく。そのための距離感,が意識されていた時間帯は少なく感じましたし,1トップがサイドに大きく流れてしまう時間帯も多く,結果として1トップを戦術パッケージとしていながら,「縦」で揺さぶる形に持ち込めなかった。動くことでスペースを,という形になっていないから,どうしても窮屈な形で展開をすることになるし,その窮屈さを打開するために「ひと」を掛ける形になり,チーム・バランスが前掛かりになっていく。そして,バランスが崩れたところを,相手に狙われる,と。


 リズムをつかみかけているように見えて,リズムを失うのと紙一重


 立ち上がりの時間帯は,そんなチーム・バランスを示していたように感じます。


 1−0,という形でゲームを折り返し,ベース・ノートとしては相手のリズムになっている流れを変えるためには,戦術交代が必要になってきます。そのときに,仕掛けた戦術交代は,確かに攻撃面に関するメッセージ,ではありました。ありましたが,チームにとって,「本当に」攻撃面を強める,というメッセージとなって伝わるものだったか,と。


 むしろ,「不要に」選択肢を増やしてしまう結果になってはいなかったか,と感じます。
 ビルドアップから仕掛けに,というタイミングでの窮屈さが前半の段階でも見えていたにもかかわらず,さらに攻撃面での選択肢を増やしているわけですから,ゴールへ到達するためのプロセスが不要に増えてしまう,ということも意味するはずです。また,ボール奪取,という側面が落ちてしまうことにもなります。攻撃的なタレントを投入することも重要ではあるけれど,どのエリアでボール奪取を狙うのか,という理解が徹底されていないように見えて,ボール奪取位置が落ち着かない状態になってしまった,という印象も残っています。


 ・・・自らの武器を知悉している対戦相手と,武器を模索するチームと。


 少なくとも,現段階における距離は縮められていない,ということになりましょう。1トップ,というパッケージが悪いとは思いませんし,ミッドフィールドのタレントを思えば,逆に積極的に熟成させるべきパッケージ,という印象も持ちます。けれども,1トップが,そのミッドフィールドを「生かす」という意識になっていないと,「縦」方向の変化がなかなか表現できない。
 「縦」への動きがどれだけピッチに表現できるのか,が10スペックの機能性を決定付ける,と言うべきなのかも知れない,と感じます。