慶應志木対正智深谷戦(2008高校ラグビー埼玉県予選・準々決勝)。

後半に,このゲームのエッセンスが凝縮されたように思います。


 正智深谷の持つポテンシャルは,恐らく後半でも表現されきってはいない。そんな正智深谷の猛攻にさらされながらも,慶應志木は集中したディフェンスを展開する。


 戦術からこのゲームを見るよりも。むしろ,見えない要素である「ゲームに臨む姿勢」が勝者と敗者を分かつ要素であったと思います。


 再び楕円球,であります。しばらくラグビーな話が続きますが,よろしければお付き合いくださいませ。こんどは準々決勝の第4ゲームです。


 ファイナル・スコアは,35−31。


 1トライを奪われれば,その時点で逆転を許してしまう,「僅差」と言うべきゲームです。しかし,この僅差を詰め切れなかった正智には,どこか隙があったように思います。
 もともと,先制トライを奪取したのは正智です。実力差を冷静に考えるならば,ここで主導権を掌握していてもおかしくありません。ありませんが,逆にここから主導権を掌握するのは慶應サイドです。真正面からパワー勝負,ではなくて,スピードを武器に相手を揺さぶっていく,というイメージを押し出していきます。そして,相手がリズムを完全に掌握してしまう前に,リズムを奪い取ってしまう,というゲーム・プランを徹底していたのでしょう。それゆえに,前半にラッシュを仕掛けていったものと見ています。


 このことを反対側から見てみれば。


 どこか,正智には隙があったように見えるのです。


 ノン・シードから勝ち上がってきたとしても,ディフェンス,オフェンス両面において真正面からぶつかれば,恐らくは崩れてくれるはず。そんな意識を(潜在的に,だと思いますが)持ってしまったのではないか。それだけの「個」を持っていますし,鋭い攻撃も持っています。
 ただ,実際には相手の仕掛けに対して,有効な対策を打てなかった前半だったように思うのです。
 心理的な隙によって,「受ける」時間帯ができてしまった。そんな印象です。
 そんな相手を,冷静に突くことができた。できたけれど,そのままでゲームをクローズさせられるほど簡単な相手ではない。実際,正智は後半に猛攻を仕掛け,得点差を着実に縮めてきます。本来彼らが持っているパフォーマンスを表現してきた,とも言えるでしょうか。ボールを奪取すると,パワーを基盤としながら鋭く縦に仕掛けていく「らしい」仕掛けを見せてくる。
 ゲームの流れは,正智サイドへとかなり傾いていたように思えます。
 ともすれば,逆転を許しかねない。そんなタイミングで,慶應志木はもうひとつの姿を見せたように思います。


 「集中したディフェンス」です。


 後半はほぼ,相手の仕掛けを受け続ける形になってしまい,その結果として前半に築いたリードを大幅に削り取られることになります。ノーサイドが視界に収まる時間帯には,純然たる1トライで,ゲームを覆されるまでに詰められる。
 そこで,集中を失わずに守備応対ができた。自分たちの持つ仕掛け,そのスタイルを押し出すことに成功し,同時にしびれるような時間帯にしっかりとした守備応対で凌ぎきった。
 さらなる高みを狙うならば,「リズムの明確な波」は潰していかないといけないでしょう。そのためには,どのようにして相手のラッシュを減速させるか,意識する必要もある。「受けて」しまえば,実力差を真正面から受け止めざるを得なくなる。そうならないためのアプローチを作り上げておくことも,求められてくるでしょう。
 ですが,「形」を表現できていることは自信になるはず。先制トライを奪われながら,しっかりとリズムを奪い返し,主導権を保持した状態でリードを築いた。強豪相手に,自分たちの仕掛けが機能したのは間違いなく,先につながります。


 楽しみなチームが勝ち上がってきたな,と思います。