日産、来季からLMP1。

ちょっとだけ,時計の針を巻き戻してみます。


 日産は,「2013年 日産グローバルモータースポーツ活動計画を発表」とのリリースにおいて,2014年のル・マン24時間耐久にガレージ56枠から参戦する,と表明しました。このリリースを読み返してみると,興味深い表現が複数見られることに気付かれるか,と思います。たとえば,「将来ルマン24時間のトップカテゴリーに復帰する」というフレーズであり,あるいは「将来の日産のLMP1カテゴリーへの復帰の可能性」という表現です。前後の文脈を合わせてみると,相当に慎重な表現となっていますが,少なくとも2013年時点でLMP1復帰への道筋を探る,少なくとも水面下での動きは始まっていたと見ていいように思うのです。


 もうひとつ。2014シーズンのル・マンに持ち込まれる予定の“ZEOD RC”だけを見ると,LMP1との直接的な関係性は薄いものがあります。ありますが,ある言葉を持ち出すことで,LMP1との関係性が見えてくるように思うのです。


 「効率性」であります。


 フォーミュラ1についての技術規則,あるいはLMP1についての技術規則を見てみても,現代のレーシング・マシンには高い効率性が求められます。エンジン単体での効率性のみならず,エネルギー回生システムを含めての高い効率性が求められる技術規則が策定されているのです。この効率性を徹底して高めるための布石として(そして,小排気量ターボ・エンジンでどの程度のラップタイムを刻むことができるのか,を実戦において確認するために),オン・デマンド型のEVスポーツ・プロトタイプ,というアイディアを持ち出してきたのだな,と思うわけです。


 いささか長いマクラ,部分的には本題に踏み込む形となってしまいました。今回はフットボールを離れまして,日産からのリリースをもとにスポーツカー・レーシングな話を書いていこう,と思います。


 さて。当然と言えば当然ですが,このリリースではディメンションやパワーユニットなどの情報は提供されていません。いませんが,今回発表された“GT−R LM nismo”というマシンの名称,そして日産がどのようにスポーツ・プロトタイプ活動を位置付けてきたか,を考えるに,WEC制覇に軸足を置いてマシンを設計しているのか,それともル・マン24時間制覇を意識してマシン設計をしているのか,透けて見えているように思うのです。


 再び,歴史を紐解いてみます。


 日産は,実際には実戦投入されることがなかったスポーツ・プロトタイプ,NP35に搭載されるエンジンとして3500cc・V型12気筒エンジンを選択します。当時のグループCはエンジンについての技術規則がフォーミュラ1と共通化されたこと,加えて耐久色が強かった競技規則からスプリント色を強めた競技規則へと変更を受けたことによって,フォーミュラ・マシンの技術要素を落とし込んだ設計思想へと大きく変化してきていました。カーボン・モノコックにしてもフォーミュラとの相似性を強く感じさせるものでしたし,ボディシェルもグループCで要求される最低限度をカヴァする,という発想に変化してきていました。対して日産は開発の優先順位をスプリントには置かず,耐久レースに置いていたようです。そのために,振動面などで優位性を持つ12気筒エンジンの搭載,という判断に至ったようです。あくまでも優先順位はWEC制覇ではなく,ル・マン制覇に置かれていた,と見て取れるように思うのです。


 この歴史は,恐らく現代にも引き継がれているのではないか,と思います。


 “GT−R”という名称を使う,という判断の背景には,欧州や北米でのマーケティング,スポーツ・プロトタイプのイメージとGT−Rとを強く結びつけたい,という意図があるものと感じます。であれば,名称に「過去を引き継ぐ」というメッセージが打ち出されなかったことに不満がないわけではありません。ありませんが,“LM”という名称には,日産の優先順位がル・マン制覇に置かれている,ということには変わりない,という「追浜」のこだわりが透けて見えるようにも感じるのです。


 WEC制覇よりも,ル・マン制覇により強くウェイトを傾けてマシンを開発すると仮定すれば。そして,このマシン開発に際して,“ZEOD RC”に落とし込まれた技術要素が生かされる,と推理するならば,です。


 現在の技術規定ですと,ファクトリー・チームが持ち込むLMP1マシンにはエネルギー回生システムの搭載が義務づけられています。反面で,エネルギー回生システムとエンジンとのバランスについて,メーカごとのアプローチを許容する技術規定となっています。たとえばモータ・アシストを増加させる,という判断もできるし,逆にエンジンを軸としてエネルギー回生システムを過給器的に位置付ける,という判断もできるのです。この判断をもとに,エンジンの燃料使用量と燃料の瞬間最大流量が決まってくる,という技術規則となっているわけです。現代的に,「燃費フォーミュラ」と呼ばれたグループC時代の競技規則を書き換えた形となっているのです。ここで日産の動向を考えると,すでに布石を打ってきているのではないか,という推理もできるように思うのです。12ラップを1つの循環として位置付け,1ラップを純然たるモータ駆動で走破させる,とのことですから,バッテリ性能やモータ性能を徹底してチェックしてくるはずですし,であればモータにより多くの仕事をさせるつもりでしょう。となると,エンジンはあまり大きなエンジンを搭載することを想定していないのではないか,と思われます。ZEOD RCに搭載されるエンジン,“DIG−T R”は1500cc・直列3気筒ターボとアナウンスされています。このエンジンがそのままLMP1に引き継がれるかどうか,は当然ながら未知数ですが,どの程度の戦闘力を持つのか,実戦環境で小排気量エンジンの持つ可能性を見るつもりではないか,と思います。


 さてさて。個人的にはプライベティアへの支援,という日産の活動方針は好感をもって見てきましたし,これからも「側面支援」を継続していってほしい,と思っています。と同時に,フォーミュラ1を含めたトップ・カテゴリの技術規則は「効率性」を重視したものとなり,メーカとしては市販車との関係性を訴求しやすいものへと変化してきている,と思います。加えて,LMP1についての技術規則はメーカごとの個性を表現することのできるものとなっています。であれば,日産としても「機は熟した」という判断があったとしてもそれほどの不思議はありません。


 ならば,です。


 短期間で結果を求めることも重要かも知れませんが,しっかりと日産の存在感をLMP1カテゴリにおいて示し続けることもまた,重要なことではないか,と思います。そのためにも,長期にわたる参戦ができる体制を構築してほしい,と思っています。