ビジョン グランツーリスモ。

なかなかに,魅力的なレーシング・マシンです。


 けれど,特定の技術規則に合致させたレーシング・マシンではないことも明確です。DTMの技術規則を念頭にこのマシンを眺めてみると,まずリア・ウィングの形状が大きく違っていることに気付かれると思いますし,サイド・セクションの空力処理もDTMの技術規則では認められるものではありません。GT3の技術規則を思い浮かべてみても,恐らく認められることのない空力処理,と言いますか,空力的付加物が装着されているように見て取れます。


 では,ちょっとだけ歴史の針を巻き戻してみることにしましょう。レーシング・マシンに関する技術規則がグループAやグループB,などと区分される、その前段階にまで。すると,このレーシング・マシンがどの時期の技術規則を意識してデザインされたのか,見えてくるのではないか,と思います。


 


 今回はフットボールを離れまして,こちらの記事をもとに“ビジョン グランツーリスモ”について短めに書いていこう,と思います。グランツーリスモ,という言葉で気付かれた方もおられるのではないでしょうか。「実際に」ノルドシュライフェ(ニュルブルクリンク)やスパ・フランコルシャンを攻略するためのレーシング・マシン,ではなくて,ポリフォニー・デジタルさんが用意するノルドシュライフェやスパ・フランコルシャン,あるいはホッケンハイムなどを攻略するためにデザインされたレーシング・マシン,というわけです。そのために,特定の技術規則を意識することなくデザインされているわけですが,個人的には「あるモティーフ」が思い浮かびます。

 


 “3.0CSL(お借りしたオフィシャル・フォトに収まっているのは3.2CSLターボです。)”であります。


 1971年に発表された3.0CS(CSi)をベースとして,ヨーロッパ・ツーリングカー選手権などを戦うためにBMWが用意したホモロゲーション・モデルです。1973年シーズンにヨーロッパ・ツーリングカー選手権を初制覇すると,1975年シーズンから1979年シーズンまでヨーロッパ・ツーリングカー選手権を連覇するなど,ツーリングカー・レーシングにおいて多くの栄冠をもたらしたレーシング・マシン,というわけです。このマシンを意識して,“ビジョン グランツーリスモ”をデザインしたのではないか,と推理しています。


 パラレル・ワールドな話,ですが,たとえば当時のグループ5規定(あるいはグループ2規定)が現代においても効力を持ち続けていて,ル・マン24時間やスパ・フランコルシャン24時間,あるいはニュルブルクリンク24時間などの耐久レースがこの技術規則に準拠したレーシング・マシンで戦われるとすれば,ともすればBMWはこのようなデザインのレーシング・マシンを持ち込んでいたのではないでしょうか。グランツーリスモのホームページには,ちょっとだけこのレーシング・マシンのスペックが公開されていますが,そのスペックは当時のレーシング・マシンを思い起こさせるものが確かにあります。


 過去の技術規則,かも知れないけれど,意外に魅力的なレーシング・マシンを生み出す土壌になり得るかも知れない。DTMスーパーGT)は現代的に再解釈したシルエット・フォーミュラとして位置付けることができるように思いますが,正真正銘のシルエット・フォーミュラを復活させる,という方法論もあるのではないかな,などということを,ビジョン グランツーリスモを見ていると思ってしまうのです。