ZEOD RC、実車公開。

確かに,ハイブリッド・システムとは違います。


 モータを搭載する,という意味ではハイブリッドと共通する部分を持ってはいるけれど,ハイブリッドはモータを過給器的に使う,と言うべきでしょう。対して,日産は純然たる“パワーユニット”としてモータを位置付けているわけです。であれば,モータ出力の規制も違った視点が必要になってきます。このパワーユニットを将来的にLMP1へと持ち込むつもりならば,確かにACOに技術的なデータを提供する必要があるでしょう。


 フォルムは正常進化型デルタウィング,とでも表現すべきものだけれど,その内側には,将来的なLMP1,その技術的な基盤になるかも知れない要素が収まっている。楽しみであります。




 今回はフットボールを離れまして,こちらの記事をもとに,日産のレーシング・マシン,“ZEOD RC”について書いていこう,と思います。


 さて。今回公開されたマシンは,来季実戦に持ち込まれるマシンそのもの,というよりはその前段階,開発を進めるためのテストベッドとして位置付けられるようです。ではありますが,発表当初と比較して実戦対応が強く意識されてきたな,と感じます。たとえば,リア・フェンダー上部には冷却用と思われるエア・インレットが確認できますし,テール・セクションには取り込んだ空気を効果的に抜くためのエア・アウトレットが用意されています。このような実戦的モディファイによって,このZEOD RCがデルタウィングの血統にあることがより強く感じられるようになった,と見ることもできるように思います。


 このZEOD RCはハイブリッド・システムとは異なるゼロ・エミッション技術を搭載する,と発表当初からアナウンスされていますが,どのような形でゼロ・エミッション技術をレーシングな環境に持ち込むのか,その具体的な形が,こちらの記事で紹介されています。単純に書くと,電力駆動状態とエンジン駆動状態をひとつの循環として位置付ける,ということです。1ラップは,純然たるEV状態で走行する。そのあとの11ラップは小排気量ターボ・エンジンを使って走行,このときの減速エネルギーをモータによって回収,バッテリへと蓄積させる,とのことです。電力駆動状態と,エンジン駆動状態を任意にドライヴァが切り替えることができる,このことをして“ZEOD(オン・デマンド型のゼロ・エミッション技術)”と表現するのだとか。


 レーシング・マシンにとって,重量は大きな要素です。そして,バッテリは大きな重量物として位置付けられるものです。


 そのために,バッテリ重量と航続距離,そして車体重量とのバランス,を意識したのではないでしょうか。電力駆動状態を長くするにはバッテリ容量を大きくする必要があると思いますが,重量面が大きなネックになってくるはずです。減速エネルギーを積極的に回収するとしても,モータへの持ち出しが相対的には多いはずですから,レース・スピードを維持できるだけの充電効率を確保できるかどうか,難しいところでしょう。ならば,モータからの持ち出しを一定程度ゼロにして,減速エネルギーの回収だけにモータを使う時間をつくり出そう,ということではないかな,と見ています。


 もともと,ベン・ボウルビーさんは「軽量なレーシング・マシン」というアイディアを,デルタウィングで形にしています。優れた空力特性を持つ軽量なマシンならば,小排気量エンジンを搭載していても,LMP1とLMP2の中間程度の性能を引き出すことができる。この発想をル・マンで実証しよう,としたわけです(実際には,ALMSで実証することになったのですが。)。ZEOD RCを,デルタウィングで実証しようとしたアイディアを進化させたレーシング・マシンと見るならば,物理的に軽量なことは前提条件のひとつであるはずです。実際,車体重量は600kgに抑えられている,との記述も見られます。ならば,発電用としてエンジンを搭載する(レンジ・エクステンダーEV)のではなくて,手許で駆動方法を切り替えられるようにして,エンジンも駆動用として使う。当然,車体重量を抑えるために小排気量エンジンを搭載する,と。となると,デルタウィングにも搭載されたDIG−Tをイメージするところですが,恐らく今回のマシンにはより小さなエンジンが搭載されるのではないか,と見ています。


 このマシン,FSWで開催されるWEC第6戦においてデモランをする予定,とのことですが,まだまだ煮詰めるべき部分が多いようです(その後,複数のメディアをあたってみたところ,WEC第6戦でのデモランは回避される方向であるようです)。本戦までの時間を思えば,決して余裕のある状態とは言えないのかも知れませんが,ぜひとも「戦える」マシンを仕立て上げてほしい,と思っています。