WEC第3戦。

「速さ」の段階では,明確に差を付けられてしまった。


 けれど,「速さ」が必ずしも「強さ」を意味するものではない。速さを補える武器があれば,「強さ」での勝負を挑むことができる。強さという部分において,存在感を示すことができるか。相手との差を詰めることができるか。相手との差を詰めるためには,序盤から積極的に仕掛け,主導権を奪いたい。


 などということを意識しながら,ロレックスのレース・タイマーが動き出すのを待っていたのではないかな,と外野は推理するわけですが。


 なかなか安定しないコンディションに翻弄された部分はあるにせよ,後手を精算できないままに24時間が経過してしまったような印象が残っています。


 いささか長くお休みをいただいてしまいました。書いておこう,と思うことは相変わらずいろいろとあるのですが,なかなか書いておけない状態でございまして,しばらくの間この状態は続きそうです。週刊,あるいはそれよりも長い更新間隔になってしまうこともあるかも知れませんが,ご容赦ください。


 さて。ひさびさのエントリはフットボールを離れまして,6月第4週の週末にフランスで行われるWEC第3戦,ル・マン24時間耐久レースについて書いていこう,と思います。


 まずは総合優勝を争う,LMP1であります。総合優勝への勝負権を持っているのは,ハイブリッド・マシンを持ち込んでいるアウディトヨタのファクトリー勢でありますが,アウディトヨタに対して,主導権を譲り渡すことなくレース・ウィークを終えることができたのではないかな,と思います。


 アウディが,トヨタに対して優位性を持っているのではないか,という印象は予選段階から見えていました。もちろん,「瞬間風速」的に速さを表現することができても,24時間を走破できる「強さ」を持っていなければ,表彰台の頂点へとマシンを導くのは難しいレースです。であれば,トヨタは決勝を強く意識してセッティングをはじめている,と見ることもできます。であるとしても,アウディの予選段階での先制攻撃に対して,カウンター・アタックを仕掛けることができなかったのも確かです。加えて,24時間を戦い抜くためには,TS030のベース・セットには不足する要素があるのではないか,という可能性も見えてきてしまった。アウディが,予選段階からそれほどタイムを落とすことなく,24時間を戦い抜けるチカラを持っているとすれば,トヨタは主導権を奪えずに終わる可能性がある,と。


 この懸念が,現実化していたように思うわけです。


 アウディは,トヨタの出方を見ながら戦いを進めることができます。対してトヨタは,序盤段階から積極的にポジションを奪いに行かないといけない。予選でのタイム差を縮めるためには,プッシュし続けることが必要になってくるわけです。マージンを取って戦いを進める,というよりも,マージンを可能な限り削って仕掛けに行かないといけない。けれど,今季のル・マンは不安定なコンディションに見舞われていました。なかなか仕掛けようにも仕掛けきれない。アウディにもトラブルが発生するなど,決して盤石な戦い方だったとは思いませんが,それでも主導権を掌握したままに戦いを進め,チェッカーを受けることができていた。トヨタからすれば,この差を埋めることが大きな課題ではないかな,と思います。


 続いて,LMP2でありますが,今季はモーガンシャシーが存在感を示しました。エンジン・サプライヤーとしては,日産以外にHPDやロータス,ジャッドなどがクレジットされていて,昨季はHPDがクラス優勝を飾っているのですが,今季についてはHPDはリタイアを余儀なくされ,ロータスとジャッドもなかなか上位へと割って入ることができませんでした。エントリ段階で,日産(と言いますか,VK45)というクレジットは多数派だったわけですが,決勝結果にあってもVK45の存在感は際立っていました。それだけに,BoPがいまから懸念材料となるわけですが,プライベティアにとって,信頼性の高いエンジンという評価はしっかりと確立されたかな,と思うところです。


 さてさて。いささか気の早い話となりますが,来季のル・マンには再び日産が「独創的な」レーシング・マシンで戻ってきます。と言っても,特徴的なフォルムに意味があるのではなくて,実際にはカウリングの下に大きな意味があって,ひょっとすればACOやFIAがスポーツ・プロトタイプの技術規則に“パワーユニット内燃機関,という意味に限らず)”についての条項を追加する,そのきっかけとなるかも知れない,と思っています。LMP1は現状,ハイブリッドに勝負権が付与されている状態です。この勝負権が,ガソリン・エンジンにも,レーシング・ディーゼルにも,そして“パワーユニット”を搭載するマシンにも付与されるようになると,LMP1はもっと賑やかなことになるのではないかな,と期待しています。