ZEOD RC。

ホンダ的に書けば,どのような“パワーユニット”を搭載するのか。


 日産からのリリース,そのタイトルにヒントが隠されているのではないかな,と個人的には推理しています。今回はフットボールを離れまして,日産からのリリースとこちらのニュース記事をもとに,2014シーズンのル・マンに“ガレージ56”枠を使って持ち込まれる“ZEOD RC”について書いていこう,と思います。



 2014型デルタウィング,と表現したくなるフォルムであります。


 日産からのリリースを読むと,“ZEOD RC”の開発指揮を執るのは,デルタウィング・プログラムで主要な役割を果たした(と言いますか,デルタウィングのデザインを担当した)ベン・ボウルビーさんなのであります。であれば,デルタウィング的なデザインになるのもある意味当然,であります。前回,ル・マンへと持ち込まれたデルタウィングはオープントップ・ボディを採用していて,スポーツ・プロトタイプと言うよりは,フォーミュラをスポーツ・プロトタイプの技術規則に合致させるべく,最低限度においてモディファイした,という印象が強いものでした。対して,今回のマシンはクローズドトップ・ボディとシャークフィンを装備していますから,スポーツ・プロトタイプとの距離が縮まった,という雰囲気を持っています。


 ではありますが,ZEOD RCが持っている意味は,デルタウィング直系のフォルムではなくて,パワーユニットにある,と思っています。では,どのようなパワーユニットを搭載するのか,でありますが,前回のリリースにおいて明記された,“ゼロエミッション・テクノロジー”というフレーズ,そして電力駆動という言葉が,鍵を握っているのではないか,と思っています。端的に書けば,発電用に限定した(駆動軸とは完全に切り離されている)小排気量エンジンを搭載する,レンジエクステンダーEVという可能性もあるかな,と思うのです。


 たとえば,駆動軸に直結させる形でエンジンを搭載すれば,現行のLMP1についての技術規則の範囲に収まるはずです。であれば,規定排気量も明確ですし,モータ出力などについても規定が置かれています。日産が狙うのは,現行のLMP1が発揮する性能と同等の能力を持つEVシステムではないか,と考えるわけです。だからこそ,ACOに対してデータを提供,技術規則策定に協力するという話が出てきたのだろう,と思うのです。


 ガレージ56枠を離れて,EVのLMP1を具体的にイメージすると。


 アウディトヨタが搭載するハイブリッド・システムがどの程度の出力を持っているか,ということから,モータにどの程度の性能が必要なのか,導き出せるはずです。また,駆動軸に対して1個のモータを搭載するのが得策か,それとも駆動輪ひとつに対して1個のモータを搭載するのが有利か,など,検討すべき課題は多いだろう,と思います。これらの課題とは別に,バッテリ容量をどの程度に設定すべきか,が技術規則を策定するにあたっては大きな意味を持ってくるはずです。容量面で理想を追えば,恐らくマシン重量で大きな不利を背負うことになるはずです。反対に,重量面だけを意識してバッテリ容量を設定してしまえば,レース・ディスタンスどころか1スティントも持たない,そんな可能性が見えてきます。


 そこで考えられるのが,発電用エンジンの搭載です。


 つまり,通常の燃料搭載重量を,バッテリ重量と発電用エンジン用の燃料重量に振り分けて考えるわけですね。複数のモータを搭載,そのうちの1個を発電用モータとして利用する。当然,“ゼロエミッション・テクノロジー”を標榜しているのですから,EVが絶対的な基盤であるのは間違いないでしょう。そのためのマシン設計が施されるはずですから,バッテリ交換をも見据えたシャシー・エンジニアリングの可能性もあります。たとえばスティント後半,バッテリ残量が厳しくなって,エネルギー回生だけでは残量を効果的に回復させられない,というタイミングに限定して,発電用モータを駆動するために小排気量エンジンを搭載する。当然,燃料タンクは相当に小さくなるはずですから,発電用とは言いながら,高効率性を追求したものが求められるはずです。


 個人的には,フルEVでどこまでできるのか,という技術アプローチも見てみたいのでありますが,バッテリ容量を考えると,「勝負権」という部分で大きな問題を抱える可能性が否定できません。現実的な落としどころとして,レンジエクステンダーEV,という可能性が高いのではないか,と見ています。