日産、2014シーズンに再びガレージ56。

日産が,“ゼロエミッション・テクノロジー”と表現するものは何か。


 ハイブリッド・システムを搭載したレーシング・マシンを持ち込むのであれば,この表現は使わないし,そもそも先進技術枠であるガレージ56を利用する必要性もないわけです。2014シーズンからの技術規則で,ハイブリッド・システムについての技術規則は明記されていますし。また,今季のガレージ56は,FCEVレーサーをグリーンGTが持ち込むことがすでにアナウンスされています。


 となると,恐らくは“リーフ・ニスモRC”の流れにあるレーシング・マシン,と見るべきでしょう。


 ACL初戦,と言いますか,2013シーズン初戦が迫っているタイミングではありますが,今回は屋号な話,日産からのリリースをもとに,2014シーズンのル・マンな話を書いていこう,と思います。


 日産からのリリースは,2013シーズンのモータースポーツ計画に関するもので,どちらかと言えばSGTへの参戦体制が本題です(本山選手とミハエル選手がニスモを離れた,というのがトピックですが,これはまた別の話。)。ですけれど,個人的に本題にしたいのは,リリースの冒頭に記載されている,

 日産の社長であるカルロス・ゴーンは、同社がゼロエミッション・テクノロジーを用いた革新的なコンセプトのレーシングカーにより2014年のルマン24時間レースにガレージ56車両として参戦することを発表しました。このルマンへの参戦は新しいパワートレインをテストすると同時に、最新のテクノロジーを採用したレーシングカーが将来ルマン24時間のトップカテゴリーに復帰する際の、ACO(西部自動車クラブ-ルマン24時間レースのプロモーター)とFIA国際自動車連盟)への必要なデータ提供、という目的があります。


とのアナウンスメントであります。


 淡々とした記述ですが,相当なインパクトのある話ではないか,と思います。


 見逃せないのは,日産がル・マンのトップ・カテゴリに「復帰する」と書いていること,です。つまり,2014シーズンにガレージ56枠で参戦するレーシング・マシンは,2014シーズンからのLMP1マシンと同等程度のパフォーマンスを想定して開発されるだろうこと,加えて書けば,ACOはEVをパワートレーンとする場合の技術規則を追加,新規に策定する意向を持っていることが,このリリースから読み取れるように思うのです。何年後にLMP1へ,という具体的なスケジュールは示されていませんが,ガレージ56で可能性を感じられ,技術規則面で勝負権を確保できるならば,ともすればLMP1なEVが見られるかも知れない(いささか気が早いですけど。),そんな話のようです。


 2012シーズン,ガレージ56枠でサルテへと持ち込まれたデルタウィングは,小排気量エンジンを搭載しても,パッケージングによってLMP2と同等程度の戦闘力を持ち得ることを証明しようとしたものです。対して2014シーズンにル・マンに持ち込まれるマシンは,リーフ・ニスモRCをLMP1規定に合致させる形に書き換える,という感じではないか,と見ています。


 リーフ・ニスモRCは,カーボン・モノコックシャシーと車体中心近くに搭載されたバッテリ・ユニット,そしてパワー・ユニットで構成されたレーシング・マシンです。ある意味,スポーツ・プロトタイプ的なレイアウトを持ったレーシング・マシン,というわけです。この「基礎構造」をもとに,(恐らくは,ですけど)EVなLMP1マシンを仕立てていこう,と考えているのではないでしょうか。


 歴史を振り返れば,日産はカーボン・モノコックを自製した経験を持っています。ローラ・カーズが手掛けたR89C,その後継マシンであるCPには,日産自製のカーボン・モノコックが採用されています。もちろん,スポーツ・プロトタイプ開発からは離れて久しいわけですが,LMP2シャシーがどのようなものなのか,ザイテックやグリーブスを通じて理解しているのも確かでしょう。どこかのシャシーコンストラクター(たとえば,ザイテックとか。)とマシンを共同開発する,という形もあり得るかも知れませんが,個人的には日産自製を期待したいところです。


 とは言え,レーシングEVには課題もあるだろう,と思います。たとえば,モータの能力を最大限に引き出す駆動系をどう設計するか。バッテリ重量をどれだけ抑えられるか。また,バッテリ容量をどれだけ大容量なものとできるか。そして,どれだけ短時間で充電を完了できるか(現実的には,ユニット交換できるか),など多岐にわたる課題が見えてくるように思うのです。


 高性能なモータを搭載して,このモータが持っている能力を最大限に引き出す。そのときに,最も「美味しい」回転数から外れないような制御をするには,どのような駆動系が必要なのか。コンベンショナルなギアボックスだけでなく,モータとの相性がいい駆動系(ひょっとすれば,VVVFとか。)を見つけ出す必要性があるでしょう。レーシング・スピードである程度の周回を走破するためには,大きなバッテリ(キャパシタ)容量が必要です。けれど,容量は重量に関わりますし,重量は車体重量(マシンの運動性能)に直結する要素です。大容量であって,でも軽量であることが求められる。加えて,燃料補給のように充電,となると,この時間だけで相当なタイムロスが出てくるはずです。恐らく,短時間でバッテリ・ユニット(あるいはキャパシタ・ユニット)を交換できるようなマシン設計を施してくるはずです。そして,実際に開発部隊となるのは,と考えると,ニスモは当然として,そのパートナーとしてデルタウィングのオペレーションを担当したRML(レイ・マロック)であったり,デルタウィングの車両製作を担当したハイクロフト・レーシングが思い浮かびます。実績ある技術屋集団,と言いますかレース屋とのコンビネーションが,水面下では進んでいるのではないでしょうか。


 いずれにしても。デルタウィングについての活動を終了して,今度はどのようなチャレンジをしてくるのだろうか,と思っていた日産が,いよいよLMPのトップ・カテゴリを視野に,新たなレーシング・マシンを開発してガレージ56枠での参戦,と。楽しみであります。