2013型TS030。

フロント・セクションのさらなる最適化,と。


 やはり,フロント・セクションにはハイブリッド・システム搭載を想定した補強が施されていた,ということです。確か,TS030の開発がスタートした時点では,ハイブリッド・システムについての技術規則が明確ではなく,フロント・セクションへの搭載も可能性があったはずです。要は,モータを使って実質的な4輪駆動化が可能だったわけです。けれど,技術規則が明確になると,ハイブリッドをどう使うか,という部分でメーカの戦略が分かれてきます。


 アウディはやはり,“クワトロ”であることにこだわり,フロント・セクションにモータを搭載する,という判断をします。けれど,レギュレーションでは120km/h以下での使用が禁止されます。低速コーナでの脱出速度を高める(トラクションを高める)など,4輪駆動のメリットを生かせる領域でのハイブリッド/システム運用を禁止したわけです。このレギュレーションを見て,トヨタはリア・セクションにモータを搭載するという判断をします。


 となると,モノコックは4輪駆動を前提としたものだけれど,実際にはモータなどが搭載されず,モータ・ブラケットなどの重量分だけ,余分なものを搭載していた,となるわけです。この部分を削って,さらには空力面でのリファインもする,と。


 今回はフットボールを離れまして,トヨタ・モータースポーツのリリースをもとに書いていこう,と思います。


 2012シーズンからWECへの参戦を開始した,トヨタのLMP1マシンがTS030であります。3400ccの自然吸気エンジンに,キャパシタを使ったハイブリッド・システムを組み合わせたスポーツ・プロトタイプであります。この基本デザインは,GT1規定でル・マン24時間が戦われていた時代のTS020との共通性をどこかに感じさせるものですが,冒頭書いたようにフロント・セクションにはモータの搭載を想定していたために,最適化,という部分では詰めた設計にはできなかったようです。そこで,フロント・セクション(カーボン・モノコックを含めて,のようですが)の最適化と,パフォーマンス方向での最適化を狙ったのが2013型TS030,とのことです。



 この2013型,ル・マンでは2台体制のようですが,WECラウンドは基本的に1台体制で戦うようです。このリリースでは,ル・マン優勝とともにWECタイトル獲得が目標として掲げられてはいますが,参戦体制からはWECタイトルに対する重要性はル・マンほどには強くなさそうだな,と思います(個人的には,少なからずガッカリする体制ではありますね。)。とは言え,好意的に解釈すればそれだけ今季のル・マンに注力している,と読むこともできますから,ぜひともル・マンアウディといい勝負,そして望む結果を,と思っています。