サントリー・サンゴリアス対パナソニック・ワイルドナイツ戦(第50回日本選手権・準決勝)。

勝ちに行くために選択したエンド。


 ワイルドナイツにとっては,試合の主導権を早い段階で掌握する(トライを奪う)ためにも,積極的に取りに行きたかったエンド,とも見ることができるはずです。対してサンゴリアスは,あえて取りには行かなかった。どちらのエンドを選択するか,ということよりも,条件に左右されることなく自分たちのラグビーを表現できるかどうか,に意識はすでに向いていた,と見ることができるでしょうか。


 強く吹き抜けていた季節風が,試合を動かす要素になるか,と思ったのですが,この風を味方に付けることができなかったのがワイルドナイツで,風を計算に入れる,というよりも,自分たちのラグビー,その表現度にこだわって試合に入っていたのがサンゴリアス,ということになるようです。


 秩父宮での日本選手権,その準決勝であります。


 まずは,ワイルドナイツから見ていくことにします。


 縦に突破を図るためにリズムを強める,あるいは波状攻撃を仕掛けるために重要な局面で,ミスを繰り返してしまったことが大きな要素になってしまったように感じられます。


 立ち上がりから,ワイルドナイツサンゴリアスに対して,積極的な守備応対を徹底できていたように思います。ボール・キャリアに対して積極的な守備応対を仕掛けられないと,相手は素早いボール出しから守備ブロックのギャップを突きに行く,そんな攻撃を仕掛けて行くし,この攻撃を止めるためにはどうしても「追い掛ける」守備応対の局面ができてしまう。そうなると,守備ブロックがラインを整えるまでに時間がかかるし,ラインが整っていない段階での守備応対が増えてしまえば,自分たちからスペースを提供する形へと追い込まれていく。そうならないためには,ボールを奪いに行く守備応対を徹底することが求められるか,と思うのですが,前半段階のワイルドナイツは,比較的この守備応対が徹底できていたように思います。


 PGで先手を取り,守備応対でも狙い通りの守備応対ができている。しかしながら,トライ奪取,というピースが足りなかった。BKが縦への鋭さや速さを使えるだけのスペースを持った状態でボールを収める形になかなか持ち込めなかった。サンゴリアス守備ブロックの圧力が高かったことも当然に作用していると思いますが,パス・ワークがレシーバに対して厳しいパス・ワークになっている時間帯が多かった。この厳しいパス・ワークと,サンゴリアスの守備応対によって,ハンドリング・ミスが誘発されてしまう。得点差を広げておきたい前半段階,ミスがリズムを潰してしまったように映ります。


 決めきるべき局面で決めることができないと,リズムを相手に持っていかれる。


 アソシエーション・フットボールでもよく言われることですが,この日の秩父宮も例外ではありませんでした。では,続いてサンゴリアスの印象であります。


 ワイルドナイツがどう立ち上がりから戦ってくるか,かなり具体的にイメージが描けていたように感じます。積極的な守備応対を仕掛けてくるだろうこと,早い時間帯でトライ奪取を狙ってくるだろうこと,などを予測していたように感じるわけです。ワイルドナイツの戦い方をイメージし,織り込んでいるから,ワイルドナイツの攻撃,BKが持っている縦の突破力を引き出す攻撃に対して距離感をしっかりと詰めた守備応対を繰り返すことができる。ワイルドナイツが自分たちから混乱していた,という部分もあるでしょうが,混乱を引き出すような距離感での守備応対が徹底できていたように思います。


 2つのPGによって6点を失いながらも,守備ブロックを崩されてトライを奪われる,という局面はつくられていない。むしろ,相手はリズムを自分たちから崩している。1点のアドバンテージという状態でゲームを折り返すわけですが,試合の流れ,という側面から見ると,風上から攻め下ろすことのできるサンゴリアスがリズムを掌握してくるだろう,と感じられる,そんな1点差であったように思います。


 攻撃面に関しては,過去印象に強かった「斜め」のシークエンスはそれほど表現されていなかったかな,と思います。けれど,相手の隙を的確に,鋭く突く,という姿勢はこの試合でもしっかり表現されていました。まず,接点からのボール出しが素早く,しかも安定している。この接点からの仕掛け方を複数持っているから,相手はどうしてもラインのバランスを意識せざるを得ない。接点からの素早いボール出しが繰り返されると,スペースが見えてくる。そのときに,高いフィットネスを基盤とする「縦」の機動力で相手守備ブロックを突破に行く,という戦術的なイメージには変わりがない,という印象を強く持ちました。


 さて。リーグ・チャンプであるサンゴリアスが決勝戦への切符を手にしたわけですが。


 彼らの,自分たちのラグビーへの確信は相当に深いな,と感じるものがあります。前半段階,ワイルドナイツに深いエリアにまで攻め込まれながらボール・コントロールを奪い返したあと,エリアを取り戻すためにキックを,という局面はごく限られていました。キックによってエリアを取り戻す,のではなく,パス・ワークによって相手の守備陣形を崩しに行く。ラインが薄くなるタイミングを冷静に待ち,縦に鋭く飛び出していくチャンスをうかがう。そんな姿勢が明確に見えていたわけです。


 誰が対戦相手であろうとも,自分たちのラグビーをしっかりと表現することが結果への最適解である。そのための,フィットネスや機動力に対する自信も備わっている。秩父宮での戦いぶりに,サンゴリアスのチームとしての熟成度が見えているように感じます。