天皇杯を考えてみる。

といっても,当然「権威を引き上げる」方向で考えたいというのが基本的なスタンスです。


 と言いますか,“プロフェッショナル”という世界が成立した段階で,いままでの天皇杯の開催スタイルが実情に合わなくなってきているのではないか。それゆえに,天皇杯という伝統あるカップ戦が,ステータスを落としつつあるのではないか,とちょっと思ったりするのです。


 たとえば,ベニュー(開催地)の問題です。


 JFAサイドとしては,プロフェッショナル・レベルのゲームを地方で開催することで,フットボールという競技の魅力を積極的にアピールしていきたいという意図がある,というような趣旨の記事を読んだような記憶があります。


 ですが,地方開催にプロモーション効果が本当にあるでしょうか。


プロフェッショナル・レベルのクラブが出てきた段階のことを考えてみます。


 対戦相手が地元代表のクラブであれば,足を運ぶひとも出てくるとは思います。ですが,実際のゲームはプロフェッショナル同士,しかもまったく関係ないエリアに本拠地を持っているクラブ同士が対戦することになったとして,足を運んでくれるでしょうか。今季においても,この問題は積み残されたままになっていると思うのです。


 また,心情面は別として,「元日決戦」ということも“プロフェッショナル”が成立した時点で再考するべき問題になっている。そこで,プロフェッショナルとアマチュアがうまく共存し,しかもカップ戦の権威が非常に高い“FAカップ”を参考に考えてみよう,というわけです。


 でありますから,リーグ戦だけを重要視して,カップ戦を一段低く見ようというわけではありません。と言いますか,イングランドにせよ,スペインだろうがドイツだろうと,カップ戦とリーグ戦を制覇する“DOUBLE”であったり,リーグカップまでを奪取する“TREBLE”を達成しようと思えばハードな日程をこなさなければならないのは同じですからね。リーグ戦にだけ集中できるように,カップ戦の権威はどうでも良い,などとは思っておりません。むしろ,ステータスを引き上げるために,必死になってJFAとJリーグは努力してほしいと思っているくらいです。


 ま,こんな話ですからちょっと長くなります。さすれば,ちょっと畳ませていただきますです。


 まず,最も大きな問題は開催時期であり,開催期間だと思います。


 プロフェッショナルのスケジュールをもとにして考えてみましょう。


 リーグ・チャンピオンが決定するのは,現行のスケジュールを考えると12月第1週の土曜日であります。そして,契約非更新の選手に対してクラブから通告があるのが,11月末日であります。来季に対して不安を抱え,あるいはオフ・シーズンな意識が支配し,天皇杯に対するモチベーションが低い状態で5回戦以降を闘わなくてはならない,というのはあまりに酷な話ではないでしょうか。


 また,12月がはじまってからのマッチ・スケジュールは正直無理があるようにも感じます。今季大会を例にとれば,5回戦(12月9日)から準々決勝(12月23日)までは良いとして,準々決勝から準決勝(12月29日),準決勝から決勝戦(1月1日)へというスケジュールは決して理想的なものだとは言えません。


 この点,FAカップは肝心なトコロをおさえるようにトーナメントが設計されているな,という印象があります。


 まず,プレミアシップを主戦場とするプロフェッショナル・クラブがFAカップへと参戦してくるタイミングであります。彼らがFAカップの舞台へと上がってくるのは,おおよそリーグ戦が折り返した時期にも重なる1月であります。日本にこの状況を当てはめれば,8月最終週から9月第1週にかけて,ということになります。


 この時期を考えてみると,興味深いことが見えてきます。


 リーグ・テーブルが大まかに3分割をはじめる時期と重なっていくわけです。当然,ひとつはチャンピオンシップ(イングランドの話なのにドイツ語で書けば,マイスターシャーレ)を争うグループであり,もうひとつは残念ながら自動降格圏から逃れる争いを展開しているグループであります。彼らにとって,リーグ戦は熾烈な闘いの場であり,モチベーション・クラックが発生することはありません。ですが,この2つのグループに挟まれたクラブにとっては,明確な目標を立てられないままにシーズンを過ごしてしまうことにもなりかねない。


 そんな状況を回避するために,FAカップ3回戦はリーグ・スケジュールの中間あたりに組まれているのです。そして,カップ・ウィナーがウェンブリー(最近はカーディフミレニアム・スタジアムですが。)で決定するのは,2005〜06シーズンにおいてはリーグ・スケジュールが終了した1週間後。カップ戦と,リーグ戦を間延びさせないためには,この程度のギャップしか作れない,ということではないか,と思うのです。これを念頭に日本のスケジュールに当てはめてみれば,どのあたりが落とし所になるか,想像が付くのではないでしょうか。


 もうひとつ,開催地についての問題でありますが。


 基本的に,イングランドでは“カップタイ・ドロー”が大きな意味を持っています。


 つまり,抽選によって対戦カードを決めるだけではなくて,ホーム開催権を持つクラブも同時に決めるわけです。あらかじめ開催地が決まっていて,そこにクラブを当てはめていく,というアプローチではないのです。ですから,抽選自体の注目度も上がるし,その抽選によって“ホーム・アドバンテージ”を生かすことができたり,逆にアウェイの洗礼を受けることにもなる。たとえば,プレミアシップを闘うクラブは概して観客収容数の大きなスタジアムを保有していますが,対戦相手のリーグ・チャンピオンシップ,あるいはリーグ・ワン以下のクラブがホーム開催権を付与されて,とんでもなく狭いアウェイ・エンクロージュアに押し込められるケースもあれば,その反対に,下部リーグのクラブがプレミアシップの雰囲気を味わえるケースもあるわけです。これが抽選で決まるんですから,ちょっと面白いじゃあないですか。加えて,ゲームを引き分けに持ち込めば,第2戦(リプレイ)は自分たちのホームで開催することができる。ちょっと面白い形になっていますが,“ホーム・アンド・アウェイ”の要素も合わせ持っているカップ戦なのです。地元密着度を高めることで基盤を強化しようとしているJリーグにあって,このやり方は何らかのヒントになるのではないか,と個人的には思います。


 もちろん,FAのアプローチだけが「正解」なはずもないですし,これよりもいい解法があるかも知れません。


 ただ,天皇杯に権威を取り戻し,同時にリーグ戦に対する“カンフル剤”としても天皇杯を巧みに織り込んでいくためには,いまのままでは難しい部分があるのも確かです。天皇杯決勝を元日から移した方が良いんじゃあないですか,なんて言った時点で相当ドラスティックな気もしますが,権威を必要以上に貶めることのないトーナメントへと変化させていくこと,そのためにいろいろなことを考えてみるのは大事かな,と思うのです。