ネーミング・ライツのことなど。

いつものように,ちょっと小難しいことなどを。


 今回は,ネーミング・ライツ命名権)のことを考えてみようかな,と思います。


 海外の例で言えば,アーセナルがアシュバートン・グローブに建設中(もうすぐ竣工)のスタジアムは“エミレーツ・スタジアム”という名前を持っていますし,現在ワールドカップのベニューとして使用されているFIFAワールドカップスタジアム・ミュンヘンは“アリアンツ・アレーナ”という名前になっています。


 実はこの2つ,大きな違いがあるように思うのです。


 大ざっぱに言ってしまえば,競技場を使うクラブ数であります。


 エミレーツ・スタジアムの場合,ガンナーズ以外のクラブがエミレーツ・スタジアムを使うということは考えられません。ですから,2006〜07シーズンからガンナーズプリンシパル・パートナーとなることが決まっているエミレーツ航空の名を冠することに何の問題もないし,加えて言えばスタジアムを所有,管理しているのはアーセナルですから,エミレーツのコーポレート・カラーとガンナーズのイメージカラーを組み合わせたデザインを採用していたとしても,違和感を持つことはないわけです。


 対して,アリアンツ・アレーナは建設費用を折半で負担しているとのことですから,事業主体(実質的な所有者)をバイエルン・ミュンヘンとTSV1860ミュンヘンと考えて良いもののようです。ファンディングだけを考えると,ちょっとJVのようにも見えますけどね。また面白いのは,建設に関する賛否を住民投票に諮っているということ。もともとオリンピアシュタディオンを持っているからでしょう。これとのバランスをミュンヘン市は考えていたということではないでしょうか。


 それはともかくも。


 新競技場の命名権を同じくミュンヘンを本拠としている保険会社,アリアンツに売却します。ヘルツォーク&ド・ムーロンの特徴的な外観,具体的に言えば半透過樹脂膜フィルムを通してバイエルン・ミュンヘンのイメージカラーである赤,TSV1860ミュンヘンのイメージカラーである青を幻想的に映し出す,というのはサービスなどではなく,必然であるということなのだろうと思います。


 さて,日本の場合,ネーミング・ライツは1つのクラブが主としてその対象となる競技場(球技場),あるいは球場を使っているケースに該当するように感じられます。どちらかと言えば,ガンナーズのケースに近いでしょうか。


 野球ですと,直接的に球団を所有する会社がネーミング・ライツを取得し,コーポレート・カラーを前面に押し出す,というイングランドの競技場のような感じが強いですが,フットボールのことを考えると,それほど母体企業が前面に立つという感じはしません。味の素しかり,フクダ電子しかり。


 そこで気になったのが,「日産スタジアム」のスタンスだったりするわけです。


 浦和というクラブに強く共感する人間である以上,一定のバイアスがかかっていることは否定しません。しかし,横浜FCというクラブが実際に存在し,今回のように(回数はかなり限定されているものの)日産スタジアムを使用するケースがある,ということに対してはアウトサイダーとしても違和感をどうしても持ってしまう。


 極端な言い方かも知れないけれど,マンチェスター・ユナイテッドのホーム・スタジアムであるオールド・トラフォードで,マンチェスター・シティのホーム・ゲームを開催するというくらいに変な感じがするわけです。


 日産が必死になってマリノスをサポートしようという姿勢は十分に理解できるし,横浜でのプレゼンスを強化していきたいという日産の戦略と,横浜市の思惑とが一致したことも理解できるところです。スタジアム・ショップのウィンドウやメイン・スタンド,バック・スタンドサイドのADウォールは,そのことを端的に示しているようにも感じます。


 横浜にひとつのクラブだけがあるのならば,これでも良いと思うのです。


 ある意味,ネーミング・ライツで実質的にホーム・スタジアムを自前で建てるのと同様の効果を生むことができるのですから,ほかのクラブにも積極的に同様の手法を提案したいくらいです。個人的にも,「本来の姿」を考えればこの方がありがたくもあるでしょうか。つまり,言うまでもなく浦和がらみで足を運ぶということ。そうなると,単に「敵地」に足を踏み入れただけのことであり,ここまでの違和感を感じることはありません。むしろ,「負けたくない」という意識を高めてくれる,格好の舞台装置のようにも感じる程度でしょうか。


 ただ,横浜にはもうひとつのクラブがあるのです。


 そのもうひとつのクラブ,横浜FCにも「マリノス仕様」になっている日産スタジアムを使わせる,という判断はいかがなものか。違和感の根っこはここにあるわけです。


 横浜市三ツ沢公園にも立派な球技場を持っていて,横浜FCを追いかけているひとたちにとっては「聖地」という意識は三ツ沢にあると感じます。ならば,大阪のケースのように明確な住み分けをすべき時期だと思うのです。シティにとっての本拠地は,かつてはメイン・ロードであり,現在はシティ・オブ・マンチェスター・スタジアムです。間違ってもオールド・トラフォードではありません。その逆もまた真なり。そういうフットボール・フリークの意識を,横浜市も汲み上げてやってほしいものだと感じますし,クラブサイドも「筋」を通した方が良い。そんな感じがしました。