国内基準と欧州基準。

最初に,アーセナルのチケッティング規約(アーセナル・オフィシャル),そのとある条項を引用してみることにします。

1.2 Home Match Tickets are for the use of supporters of the Club only. By applying for the Home Match Ticket and/or using the same you hereby warrant and represent that you are a supporter of the Club.


 おおざっぱに意味をとると,「アーセナルで売っているチケットは,すべてアーセナル・サポータ向けです。アーセナルのチケット・オフィスにチケットを申し込む,あるいは実際にそのチケットを使えば(=ハイブリーを訪れれば),そのひとがガンナーズ・サポータであることを保証されることになり,またクラブのサポータであることがチケット行使によって示されることになります(その自覚を持ってスタジアムに足を運ぶように!)」というような感じでしょうか。


 最近では,“メンバーシップ”制が広く用いられているためにこのようなある意味「優しい」表現が多くなりましたが,昔はもっと過激な表現がチケット券面には書かれていました。例えば,「アウェイ・エンクロージュアを除いて対戦チームのユニフォームやスカーフ,その他対戦チームを応援する意図を持ってスタジアムに入場されたことが確認された場合には,払い戻しなどを行うことなく退場いただきます。」などというような。


 恐らく,この状況に最も近いのが浦和でしょう。


 確かに「物理的には」ホーム側,あるいはアウェイ側という区別が成立しますが,チケッティングの実際を考えると,アウェイ側であろうと浦和サポータ,あるいはファンが陣取っている関係上,対戦チームのファンが「間違って」アウェイ側SAとかSBなどを買ってしまうと,その周辺の空気が微妙に張りつめてしまうことになるわけです。チケットぴあさんなどのチケッティングを見ていると,確かに中野田のピッチ,そのハーフウェイ・ラインをスタンドへと延長する形でホームサイド,あるいはアウェイサイドという線が引けそうな気がするけれど,「その競技場は,どこにあるんです?」という質問をしてみたい。中立開催のゲーム(例えば,カップセミ・ファイナル以降など)ならばまだしも,リーグ戦で真ん中からアウェイ席があるかのようなチケッティングをしてしまうチケットぴあさんのようなやり方は,正直「国内基準」かな,と思うのです。


 そして,イングランドのクラブはどこに自分たちの使っている競技場があるのか,という大前提をきちっと守っているわけです。かなり傲慢に見えるかも知れないけれど,互いに嫌な思いをせずに快適(かつ安全)な観戦環境を維持するためのひとつの知恵,という見方もあるように思うのです。長年の知恵,とも言える「欧州基準」を意識せずにスタジアムに立ち入れば,不要なもめ事を呼び込むことにもなりかねない。


 木村浩嗣さんのコラム(スポーツナビ)で触れられている日本人ファンは,そういう空気を読み切れなかったのか,それとも他意があったのか。この件に関しては実際に暴行に及んだフーリガンの責任をしっかり追及すべき,とまずは思うけれど,フーリガンではなくとも,ちょっとした揉め事に巻き込まれる種を持ち込んだようにも見えるのです。勝手な想像をするならば,このひとたちは「国内基準」でチケットを買った,つもりなのかも知れません。サポータではないのだから,アウェイ席に行く必要性は薄いはず。それならば,自由にスタンドを選べていいのではないか,と。でも,欧州基準で見てみると,この考え方は残念ながら,なかなか受け入れてもらえるものではありません。そもそも,バルサが見たければカンプ・ノウに行けば良いわけです。


 メジャーとは言えないクラブにも熱狂的なサポータは多いわけだし,何かのチャンスで競技場へと足を運べるならば,彼らに対して失礼のないように,とあらためて思うのです。