都市型クラブと個性。

「市場規模」というマーケティング的な発想に基づけば,東京同様に大きな人口を抱えているだけに確かに高いポテンシャルを持っているだろうな,と思います。


 将来的な発展性を考えれば,間違いなくトップクラスに名を連ねていていいとも。


 ただ同時に思うこととしては,単純に「市場規模」だけで発展性を考えることが果たして妥当なのか,という部分もあるのです。「守備範囲がいささか広すぎるのではないか,もっと集中しても良いくらいではないのか」ということがあります。それは恐らくクラブの個性に直結する,かなり重要な要素に対する問いなのかも知れないな,と思うのです。


 今回は,忘れた頃に思いついたように書きはじめる「クラブ論」のようなものを書いていこうか,と思います。そこで,まるで関係なさそうなロンドンの郵便番号を説明することからはじめますと。


  アルファベットと数字の組み合わせによる郵便番号表記なのですが,先頭に表記されるアルファベット(1文字ないしは2文字)によって東西南北が分かるようになっています。地図検索のとき,あるいはキャブ・ドライヴァに行先を伝えるときにかなり便利になっているわけです。たとえばW(西地区)とか,EC(中心街区の東側)とか。そして,その街区分けに相当するようにエリアでの個性が分かれています。


 そして,この郵便番号に対応するようにロンドンのフットボール・クラブは存在しているわけです。


 大ざっぱに書くと,ロンドン西部,スタンフォード・ブリッジを本拠とするのがチェルシーであります。南西部,という感じになるとテムズ河畔にクレイヴン・コテッジを構えるフルハムでしょうか。反対側の東部だとアップトン・パーク競技場を本拠地とするウェストハム・ユナイテッドが代表的ですし,テムズを挟んだ反対側にはチャールトン・アスレティックが本拠を構えています。そして北部にはガンナーズとスパーズ。


 いわゆるトップクラスだけを取り上げてみても,これだけのクラブが「ロンドン」という街にはあるのだけれど,不思議にクラブの個性に対応したサポータ,ファンがいて,互いにバッティングすることがない。この部分にこそ,クラブが将来的に発展できるかどうかの鍵があるように思えるのです。


 思うに,コミュニティの個性は大きくなりすぎると希薄なものになってしまうのかも知れません。


 ロンドンはやはり“クラス”がどこかに顔を出す社会ですから,一概に日本と状況を比較できるわけではありません。ノッティングヒル,あるいはチェルシー地区を歩いて感じられる空気とアップトン・パーク付近で感じられる空気とは確かに違いがあるし,同じ北部でもフィンズブリー・パークの辺りとホワイトハート・レーン周辺の雰囲気には違いがある。だけど,政令指定都市で,しかも物理的に大きな街だと同じように個性がどこかで違ったりするのではないか,と思うところがあるわけです。


 そう考えていくと,例えば,スパーズに対するガンナーズのような“強力なカウンターパート(地域のプライドをかけたライバル)”が育つことで個性がかえって際立つ,ということも言えるのかな,と感じたりします。


 価値判断は別として,フットボール・クラブというのは地域(そして,そのクラブに共感するひとたち)のアイデンティティを明確なものとするところがあります。そして,そのアイデンティティとクラブの個性はワンオフで対応していくように感じます。その地域のアイデンティティがエリアの大きさのためにちょっとハッキリしないできている,ということなのかな,と思うのです。


 ・・・当然,「浦和」の話ではありません。「横浜FM」の話であります。


 でありますれば,“フットボール・フリーク”の目線で書き進めていくことにします。


 個人的なことを言えば,あまりクラブの形態に対する原理主義的な発想はありません。その意味で,バルサのようなソシオ・スタイルに対する敬意はあるけれど,イングランドのクラブが採用している「メンバーシップ」という考え方にも一定の理がある(=クラブ運営を安定させるためには,プロフェッショナルに経営を委ねるべき,というのもひとつの解)と思っているし,PSVアイントホーフェンのように特定の企業との関係が非常に強いクラブであっても問題はないと思っています。ただし,「地域に対して積極的に開かれている」のであれば。


 その意味で,日産のHQ予定地近く(MM21地区)に大規模な施設を建設し,3月から一部供用開始という記事(ワールドサッカープラス)は興味深く思うのです。“マリノスタウン”が例えばチェルシー・ヴィレッジのようなイメージであるならば,想定されるサポータ,ファン層というものが自ずと明確なものになっていくのではないか。そして,そういうひとたちが多く住んでいるエリアがホームタウンの核となっていけるのではないか,と考えるのです。


 そして,カウンターパートである横浜FCが違う軸を狙っていくならば,将来的に理想的な形での“ダービーマッチ”が復活するのではないか。違っていることが当然のこととして受け止められるようになると,大都市のクラブも増えていくのかな,と思うわけです。