対FC東京戦(14−11)。

守備応対面を基盤に,試合を組み立てる。


 浦和が表現してきた戦い方からすれば,「らしくない」かも知れません。


 相手を自分たちが狙う戦い方へとなかなか引き込めない,逆に浦和が持っている強みを相手に抑え込まれてしまって,「らしさ」が表現できない形になっている(加えて,相手のゲーム・プランから抜け出すことが難しい),ということは確かにクリアすべき課題ですが,守備応対面を基盤として戦い方を組み立てる,ある意味「らしくない」戦い方によって「勝負強さ」が表現できるようになっている,ということは決して小さくない足掛かりではないか,と思います。昨季までならば,自分たちからリズム,あるいはバランスを崩してしまうような局面でも,大きくバランスを崩すことがなくなりつつある。タイトル奪取を現実的な目標として設定するのであれば,内容面で課題が残る,自分たちが狙う戦い方から距離がある試合であろうとも,「勝ち点3」を着実に積み上げていくことが求められるはずです。その意味で,昨季までは欠けていた,と言わざるを得ない要素が充足されつつある。最もポジティブに評価すべきは,このことではないかな,と思います。


 連休真っ最中ではありますが,相変わらずの遅筆堂状態でございます(時期に遅れたエントリで申し訳ありません),のFC東京戦であります。今回は,相手が描いてきただろうゲーム・プランを含めて,「戦い方」にフォーカスして試合を振り返ってみよう,と思います。


 まずは,ちょっと反対側の目線で見てみます。


 相手(より正確には,相手指揮官)はおそらく,「欧州的なアウェイ」の戦い方をイメージしていたのではないか,と思います。浦和の強みを的確に抑え込み,浦和がバランスを崩して攻撃を仕掛けてくる,その隙を狙う,と。このゲーム・プラン,浦和の強みを抑え込む,という側面で見るならば相当程度に描き出せていたのではないか,と思います。1トップ,そしてアタッキング・ミッドフィールド(インサイド・ハーフとアウトサイド・ハーフ)に対して数的同数な状態をつくり出すために,セントラル・ミッドフィールドのポジションを変化させて対応する。ビルドアップの初期段階を抑え込む,というよりも,ビルドアップから攻撃リズムを変化させるタイミングを狙って抑え込む,という守備イメージを描いていたように思います。


 この守備応対から,縦に鋭く攻撃を仕掛ける,という戦い方をイメージしていたものと思います。しかしながら,浦和が守備応対面を基盤とする戦い方から大きくバランスを変化させることがなかった(浦和に対して,心理面でのプレッシャーを有効に掛け与えることができていなかった)ためか,攻撃面で精度を欠いていたように感じます。


 そこで,浦和の戦い方を振り返ってみます。


 やはり,槇野選手が離脱している影響は,攻撃面に感じることができるように思います。相手は攻撃ユニット,特に1トップとインサイド・ハーフに対して厳しくマークを付けてきています。アウトサイドでの数的同数を打開し,相手の意識を各々のマーカーだけでなく,たとえば外側へと引っ張り出す,あるいはパス・コースの選択肢を広げるためにも後方からの攻撃参加が大きな意味を持つように思うのですが,前節からのパッケージを考えると積極的な攻撃参加を強く意識したパッケージの微調整には(結果的に,であるとしても)なりきれていない。後方から攻撃参加を仕掛ける局面も確かにあるのだけれど,コンビネーションが熟成しきれていないためか,縦方向でのポジション循環がスムーズさを欠いてしまう。結果として,相手の意識を外側に引っ張り出してセンターでの攻撃を機能させる(インサイドや1トップが自分たちのリズムでボールを動かす),という形には持ち込みにくかったように感じられます。距離感や視界を含めて,攻撃ユニットは相当に窮屈な状態を強いられていたように思うわけです。


 対して,守備応対面を考えると,パッケージの微調整による影響は最低限に抑え込まれている,むしろ,パッケージ構成が変わってもポジショニング・バランスへの意識は変化がない,という部分でポジティブな要素が見えてきているように思います。今節も,後半立ち上がりから60:00前後の時間帯は守備応対面で課題となる時間帯であるように感じます。ボール・コントロールを取り戻しても,トランジットがなかなか安定しないために,相手の攻撃を受け続けてしまう,という形に今節も嵌り込んでしまったように思うのです。しかしながら,チーム・バランスそのものが低い位置に抑え込まれたままではなく,戦術交代を含めてチーム・バランス(ポジショニング・バランス)を整える,という意識がしっかりと機能していたように思うのです。アウトサイドから見る限り,後半立ち上がりから相手は中盤のポジショニング・バランスに調整を施してきた,という印象を持っています。攻撃ユニットへの対応だけでなく,セントラル・ミッドフィールドへの対応も意識してきた,と言いますか。この変化によって,トランジションから攻撃リズムを整える,という段階が影響を受けるようになってしまいます。後手を踏みかけた時間帯,と言うこともできるか,と思います。この時間帯を,戦術交代を含めた調整によって乗り切った。縦に仕掛けていく,という方向性とともに,守備ブロックの安定性に意識を振り向けた戦術的なメッセージをベンチワークによって送る。ルーティンとしての側面も指摘されがちな戦術交代ですが,今節の戦術交代は攻撃面と守備応対面,双方にしっかりと意識が振り分けられたものだったように思います。


 主導権,あるいはリズムという側面から今節を振り返るならば,浦和の描いた戦い方と言うよりも,相手が描いてきた戦い方に嵌め込まれていた時間帯が多い,と見るのがフェアかも知れません。それだけに,前節に引き続きセットプレー(CK)から先制点(決勝点)を奪い,「勝ち点3」を積み上げることができたのは大きな意味がある,と思います。昨季は,自分たちのリズムで戦えていない試合で無理にリズムを引き寄せようとしてチーム・バランスを決定的に崩し,勝ち点を積み上げることができなかった。タイトル奪取を現実的な目標として意識するならば,悪いリズムなりの戦い方で勝ち点を積み上げていく,という現実主義的な姿勢も求められるものと思います。そんな姿勢が,今季の浦和からは見えてきている。


 これまではなかなか表現できていなかった要素をピッチに表現して,勝ち点を積み上げることができている,ということが最も大きな収穫ではないか,と思っています。