Q50 Eau Rouge.

プレミアム・ディビジョンとして,どのような立ち位置を狙うのか。


 市場参入にあたって,当然に検討されるべき課題であるように思うのですが,意外に明確なイメージを描き出すことが難しい課題でもあるようです。高級車であっても高い運動性能を持たせたい,というメッセージは,インフィニティ・ディビジョンがはじめて手掛けた“Q45”にも込められていたとされます。であるならば,このメッセージは明確なものだったでしょうか。ブレることなく想定顧客層のみなさんに発信し続けられていたでしょうか。


 残念ながら,メッセージが明確だったとは言えないし,ブレずにメッセージを発信し続けてきたとも言えないように,少なくとも外野には感じられます。乗れば分かる(つまり,外側だけでは分かりにくい,かも知れない)ライド感を,どのようにシルエット,あるいはデザインで訴求するのか。この部分で,日産(インフィニティ・ディビジョン)は大きく揺れ続けてきたのではないかな,と思います。もっと厳しい言い方をすれば,最初の段階で「高い運動性能」を端的に訴求するデザインを採用しなかったことで,ブランドとしての個性を確立できないままに揺れ続けざるを得なかったのではないか,とも思うのです。


 しかし,このコンセプトによって「明確な個性」が見えてきたようにも感じます。それだけに,単なる「コンセプト」に終わらせることなく,フラッグシップとして量産化する必要性も高いように思うのです。



 今回はフットボールを離れて,こちらのページ(インフィニティ・オフィシャル(英語))をもとに,インフィニティQ50をベースとするコンセプトモデル,“オールージュ”のお話を書いていこう,と思います。


 さて。立ち位置の話を掘り下げてみましょう。


 高級車,というカテゴリを細かく見ていくと,各メーカが絶妙な位置取りをしていることに気付かれるか,と思います。たとえば,超高級車を手掛けるメーカであり,高質な実用車としても位置付けることのできる高級車を手掛けるメーカであり,スポーティさを強く訴求する高級車を手掛けるメーカであり。この位置関係がそのまま,想定顧客層の「社会的認知」と重なっていくわけです。であれば,新たな市場領域へと踏み込んでいくとして,この既存イメージとどう違うのか,逆にどう同じなのかを明確に描き出す必要がある,と思うのです。それだけに,レクサスは明確な戦略を立案して高級車市場へと参入していった,という印象があります。徹底した静粛性を個性として位置付け,同時に高級車の基本的文法から大きく外れることをしない。このような戦略が,インフィニティ・ディビジョンからは感じ取ることが難しかった。スタートアップの段階で,ブランドとしてのメッセージ(つまりは,立ち位置)が明確に打ち出されていなかったのではないか,と思うのです。挑戦的なデザインではあったけれど,そのデザインが,開発陣が狙う高い運動性能をプレゼンテーションするものであったのか。出発点の段階で,コンセプトの表現ができなかったことが,のちのコンセプトのブレにつながったものと見ています。


 インフィニティ・ディビジョンとして,最も強く打ち出したいイメージとは何か。単純かも知れませんが,最も重要な出発点に立ち返る作業のなかで,“Eau Rouge”というコンセプト・モデルが出てきたのではないか,と思うわけです。


 やっと,前提論が終わって“Eau Rouge”であります。


 Q50(国内市場では“スカイライン”として投入されております。)をベースに,パートナーシップを締結しているレッドブル・レーシング,彼らがオペレートしているレーシング・マシンのフォルムから着想を得たモディファイが施されたコンセプト・モデル,という位置付けであります。当初,デトロイト・ショーにおいて発表された段階では,どのようなエンジンを搭載するのか,などの技術的な情報はアナウンスされておらず,あくまでもインフィニティが持っているスポーティなイメージを強く訴求するためのコンセプト,との説明がなされているだけ,でありました。


 未公開となっていた技術情報がリリースされたのは,ジュネーブ・ショーであります。このページにもあるように,“3800cc・V6ツインターボ”を搭載する,とのことです。こちらのニュース記事を読むと,GT−Rのパワートレーンが移植されている,とのことです。確かに,エンジン単体を考えるとGT−Rとの共通性が明確ですし,その発生するパワーを冷静に考えれば,4輪駆動であることも必須要件だろう,と考えられます。ではあるのですが,この記事をもってしても判断が難しい部分が残ります。


 トランスミッション,であります。


 GT−Rに搭載されているのは,6速のデュアルクラッチ・トランスミッションです。対して,このコンセプト・モデルには7速ミッションが搭載され,4WDシステムについてはトルク配分比率が50:50のフルタイム4駆が採用されている,とあります。GT−Rに搭載されているミッションをさらに多段化する,というアプローチも想定できますが,セダン・ボディであることを考えると,ミッション搭載位置はGT−Rとは違うのではないか,という推理もできるように思います。もうひとつ,フルタイム4駆とありますが,前後のトルク配分比率が常時50:50なのか,それともアクティブ・トルクスプリット型なの(最大で50:50となる)か,この記事だけでは判断が難しいように思うのです。


 セダン・ボディではあるけれど,スポーティなライドを狙う,ということが基本コンセプトのようですから,恐らくはアクティブ・トルクスプリット型の4WDではないか,と(かなり好意的に考えておりますが)見ています。


 さて。再び位置付けの話に戻りますと。個人的な推理ではありますが,インフィニティはBMWで言うMレンジ,アウディならばRSレンジを中心にブランドを構築していこう,ということではないか,と思うのです。BMWも高級車市場では「隙間」を狙うメーカだとされますが,インフィニティはさらなる「隙間」を狙っていく,というメッセージがこのオールージュには込められているように思います。