「浦和レッズの現状と今後について」とのリリースについて。

「行動基準」はすでに用意されています。


 観戦のルールとマナーというページに記載されている,重点禁止項目として浦和が位置付ける6項目をはじめとする各項目は,規制事項であると同時に「競技場へと足を運ぶひとたちへの行動基準」と位置付けることができるように思うわけです。では,この行動基準を実効性あるものとするために,何が必要なのか。たとえば,競技場へと足を運ぶひとたちにこの行動基準を周知することであり,守ってもらうことでありましょう。しかし,行動基準に抵触する行為が発生した場合,クラブはどのように対処すべきか,ということも重要な要素ではないでしょうか。


 であれば,求められるのは「クラブにとっての行動指針」ではないか,と思うのです。けれど,これまでの浦和に「クラブにとっての行動指針」があったのか。少なくとも外側から見る限り,あったというのは難しいように感じますし,あったとすれば,行動指針は決して機能してはいなかった,ということになるか,と思います。


 浦和レッズの現状と今後についてとのタイトルが付けられたリリースをもとに思うところを書いていこう,と思います,が,このリリースに書かれていること,と言うよりも,「浦和レッズの現状と今後について」というリリースに書かれていることに実効性を持たせるためには必要不可欠ではないか,と思うこと(ですので,難しい方面の話です。)を書いてみよう,と思います。


 さて。「観戦のルールとマナー」,その下部に,

試合運営管理規程で定める禁止行為やセキュリティ上問題となる行為が行われた場合には、退場や入場禁止の処分に従っていただく場合があります。
さらに、違反行為を行ったスタジアム以外の試合にも入場が禁止される場合がありますので予めご承知おきください。


との記述があります。行動基準に抵触する行為が発生した場合,クラブとしてはこのような処分を下す「可能性がある」という表現になっています。この曖昧な表現が,これまでのクラブ,その姿勢を示すものではないか,と思っています。


 以前も書きましたが,今回発生した問題は(行為者の真意がどこにあるか,を別として,外形を見る限りにおいて)浦和が定める重点禁止6項目に抵触する行為であると同時に,FIFAマターとなる行為と受け取れるものです。実際に行動基準に抵触する行為をした人間とは別に,クラブに対しても相当に厳しい処分が下される,そのような事項が「観戦のルールとマナー」のなかには含まれているのです。にもかかわらず,「退場や入場禁止の処分に従っていただく場合があります」との表記があるのみ,です。


 今回の問題発生と制裁を受けて,はじめて,

なお、ファン・サポーターの皆様に対しては、FIFAの指示に基づくJFA(日本サッカー協会)の懲罰規程に基づいた運用を行います。規程に抵触した行為者は、最低2年間、スタジアムへの入場を禁止します(【差別撲滅への強力な取り組み】・「浦和レッズの現状と今後について」より)。


というように,「場合があります」との表現では到底足りるものではない,厳しいペナルティが課されることが明記されました。厳しい対応が求められる事項がすでに「観戦のルールとマナー」,そこに示されている重点禁止6項目のなかにあるのですから,少なくともJFAの懲罰規程が策定された時点で,この禁止項目に抵触すればどのようなペナルティがあるのか,明記しておくべきだったはずです。感度の低さは,この点においても指摘できるように思います。


 また,今回のリリースでは,無観客試合の開催,というJからの制裁を受けるに到った直接的原因として,「その(=差別的と見られる行為発生)後の対応の失敗」が挙げられています。行動基準に抵触する行為が発生した直後から,どのような対応をクラブとしてすべきか,などは外部に示されるべき性質のものではありませんが,外部から推察する限り,これまでの浦和には「クラブとしての行動指針」が策定されていなかったのではないか,と感じられます。リリースでは,運営手法に問題があった,との認識が示されています。この運営手法における問題を具体的にイメージするならば,重点禁止6項目が現実に発生する可能性がどれほどあるのか,現実に発生した場合,クラブにとってどれほどのリスクとなるのか,という「評価」が抜け落ちていた状態で,今回の問題に対処しなくてはいけなかった,のではないでしょうか。たとえば,重点禁止6項目の評価が適切に行われているならば,最もクラブにとってリスクになり得る項目などの「優先順位」が見えてくるはずです。また,過去においては発生した問題に対して適切な対応ができなかったがためにJから制裁を受けてきてもいるわけです。過去から学ぶべき教訓を見出していた,とも言いがたいし,重点禁止6項目を仔細に評価し,優先順位を付けていたとも言いがたい。問題の重要性を思えば,「慣習」に基づく対処では足りないはずですし,その重要性は重点禁止項目に対する内部評価ができていれば,理解できたはずです。であれば,この評価に基づく行動基準が抜け落ちていたとも言えるはずです。問題発生に際してクラブとしてどのように動くか,という統一的な基準が描けていなかったとすれば,問題行為に対する対応が場当たり的であったとしてもそれほどの不思議はありません。


 新たにルールを,ファン・サポータやさまざまなひとと協力しながら策定していくことも重要ですし,「規制・抑止と自主性とのバランス」を取り直すことも重要です。と同時に,このリリースではそれほど明確には見えていないこと,クラブがどのように行動すべきか,という基準,ルールを実効あらしめるための“Code of Conduct”を策定することもまた重要であり,喫緊の課題なのではないか,と見ています。