パナソニック・ワイルドナイツ対サントリー・サンゴリアス戦(13〜14TL・POT決勝戦)。

守備応対が印象的な試合でありました。


 ありましたが,守備応対の方向性はそれぞれ違っていたように思います。前半だけで見れば,サンゴリアスの守備応対が効いていた,という印象ですが,試合全体を通してみるとワイルドナイツの守備応対がサンゴリアスのリズムを断ち切った,という見方ができるかな,と思います。


 レギュラーシーズンでの対戦を振り返ると,ワイルドナイツサンゴリアスが繰り出す攻撃リズムに対して距離感を微調整する,たとえば接点に対して飛び込みすぎず,ある意味でゾーン・ディフェンス的なイメージで距離を保った守備応対を仕掛ける,という約束事を徹底していたように思います。この日のワイルドナイツは,前回対戦時と同じくゾーン・ディフェンス的な部分も意識していたように思いますが,同時にサンゴリアスの攻撃リズムを断ち切ること,しっかりとボール・キャリアを「止める」ことを意識付けていたように感じます。ボール・コントロールを奪う,その前段階としてしっかりと相手を止めること。そのためには「個」の強さが大事になってくる。今回の試合では,この「個」の強さがより明確になった,というように思うわけです。


 今回も楕円球なフットボールのお話,降雪によって9日から11日へと日程が変更されたPOT決勝戦について書いていこう,と思います。


 さて。今回はレギュラーシーズンの対戦と(必要最低限度で)比較しながら,ごく大ざっぱに試合の流れを振り返ってみよう,と思います。


 前半,ボールを動かす,攻撃フェイズを積み上げていくという側面から見ると,決してワイルドナイツの戦い方は悪くなかった,と見ています。むしろ,サンゴリアスの守備応対が的確に機能していたように思うのです。


 サンゴリアスは,この決勝戦に臨むにあたって戦術的な微調整をかけてきたように感じますし,守備応対に関しては自分たちの強みを再確認してきたように感じます。たとえば攻撃面で見ると,「斜め」のタイミングを柔軟に狙う,という方向性へと切り替えていたように思います。彼らは接点からボールを引き出すと,あるタイミングで相手守備ラインに対して斜めに仕掛けていく,というシークエンスを武器にしています。この「斜め」を繰り出すタイミングをもともとのシークエンスよりも早める,あるいは斜めのチャレンジを仕掛けるのではなく,シンプルに縦を狙う攻撃の形へと変えてきたように思うのです。そのためか,サンゴリアスの攻撃はフェイズを積み上げて相手を揺さぶり,縦を突くスペースを狙うというよりも,縦への速さを強く感じさせるものになっていたように思います。また,守備応対面ではボール・キャリアへの鋭いアプローチからボール奪取を狙う,いわゆるジャッカルを強く意識付けていたように思うのです。そして,このジャッカルが前半段階はワイルドナイツに対して機能していたように思うわけです。


 レギュラーシーズンの対戦を振り返ると,サンゴリアスは「斜め」を封じられるとともに,守備応対面でらしさを表現できない局面が積み重なっていたような印象が残っています。コンディショニング面に問題を抱えていたのか,チームとして表現すべき守備強度が保てていなかったように思うのです。サンゴリアスの戦い方に対して明確な対策を取ってきたワイルドナイツに,レギュラーシーズン段階では後手を踏んだ。このレギュラーシーズンの経験をもとに,守備応対面で修正すべき部分を修正する(加えて,自分たちの強みを再確認する)とともに,攻撃面では自分たちが構築してきたシークエンスだけを徹底するのではなく,局面に応じてリズムを変化させる,という方向性へと微調整をかけて前半を戦っていたように思うのです。


 このサンゴリアスの戦い方に対して,ワイルドナイツは,リードを許してハーフタイムを迎えても,大きな動揺をしていなかったように思います。むしろ冷静に課題をチェックして,自分たちの戦い方を修整することができていたように思うわけです。アウトサイドから見る限り,攻撃面では接点での数的優位を早い段階で構築してボール・ポゼッションを維持すること,守備応対面ではボール・キャリアへのアプローチ,その強さであったり鋭さを維持し続けることがハーフタイムではあらためて徹底されたのではないか,と見ています。相手の攻撃リズムを断ち切る,そのための強さであり鋭さを徹底してきたように思うわけです。そして,後半はワイルドナイツサンゴリアスを狙う戦い方へと嵌め込む,という形に持ち込んでいったように思うのです。


 守備応対面を重視して,後半の戦い方を組み立てる。


 前半,ジャッカルからトライ奪取へとつなげてきたことから見ても,サンゴリアスも強く意識付けていた部分ではないか,と思っています。しかしながら,後半に入るとサンゴリアスは接点への反応でファウルを犯す局面が多くなってしまった。守備強度を強く,そしてボール・コントロールを早い段階で奪い,鋭く縦を突きたいという意識が強かった,その裏返しかな,とは思いますが,決勝戦にあってサンゴリアスが見せた「隙」がこのファウルではなかったかな,と思います。


 ワイルドナイツは,この隙を的確に突いてきました。正確なキッカーを擁している,という武器を活かしてPGを狙う,というアプローチを徹底してきたように思うのです。後半,ワイルドナイツはペナルティを獲得すると,マイボール・ラインアウトからトライ奪取を狙って攻撃フェイズに,という形ではなく,かなり距離がある位置からもPGを狙って着実に得点を挙げていく,という戦い方を選んでいたわけです。前半の戦い方から,サンゴリアスに対して攻撃フェイズを単純に積み重ねるだけだと,かえって相手に攻撃のきっかけを与えることになりかねない,という判断も作用したかも知れません。また,後半に入ると相手はボール・コントロールを接点で奪い返すという意識を強めている(接点に飛び込むタイミングが早くなっている)けれど,この意識が結果としてファウルに結び付いている,とフィールドレベルで見て取っていたようにも思います。結果的には,PGによって得点を積み上げていく,というチームとしての判断が,サンゴリアスとの得点差を縮め,そして得点差を広げていくためのひとつの鍵となったように思います。


 フットボール・ジャーナリストである湯浅さんはよく,勝負はディテールで決まる,との表現を使われます。小さな差が勝負を分ける,という言い方もできるでしょうか。この日の秩父宮も,この言葉があてはまる,そんな試合だったように思うのです。守備応対面の重要性が大きな鍵となる,という認識は恐らく双方が持っていたものと思います。しかし,フィールドでどれだけ正確に自分たちが描くべき約束事を描き出せるか,という部分でちょっとした差があったのは確かなのだろう,と思います。加えて,サンゴリアスワイルドナイツともに相手がどう出てくるか,を意識した戦い方を組み立て,フィールドに持ち込んでいたように感じます。準備段階を含めた「戦略」としても,なかなかに見応えのある決勝戦ではなかったかな,と思います。