帝京大学対早稲田大学戦(第50回全国大学選手権・決勝戦)。

緻密なスカウティングによって戦い方を組み立てていたのは,早稲田ではないか。


 早稲田が仕掛けた攻撃を見ていて,そんな印象を持ちました。接点からボールを引き出して,ボールを動かしはじめる。この展開から縦を,という局面である「タイミング」を狙っていたように思うのです。このタイミングで早稲田は,鋭く縦を狙っていく。帝京の守備応対に隙がある,ということをすでに把握していて,この隙が見えるタイミングを狙っていたのではないか,と思うわけです。


 相変わらず遅筆堂なエントリでありますが,今回は大学選手権,その決勝戦のことを書いてみよう,と思います。


 では,大ざっぱに試合を振り返ってみますと。


 慎重に相手の戦い方を観察する,という段階を踏まずに,立ち上がりから積極的に仕掛けることで主導権を奪う。キックオフへのアプローチやシンプルな攻撃の組み立て,縦を狙うタイミングを含めて,早稲田は狙い通りにトライを奪ってきた,と感じさせるものがありました。ありましたが,前半終了段階で見ると,試合の主導権はニュートラル,あるいはチームに掛かっていた負荷を考えると,帝京に傾いていた,と見るべきかも知れません。


 トライを奪われたあとの時間帯,帝京にしても早稲田にしてもミスを誘発する局面があって,なかなか攻撃をトライ奪取へと繋ぎきれない,という印象がありました。となると,ペナルティからのリスタートが大きな鍵となってくるわけですが,日曜日の決勝戦も例外ではありませんでした。帝京は,なかなか攻撃的な部分,特にBKでリズムをつかみきれない(つかみかけるものの,なかなかミスで安定したリズムにならない)局面が見えていましたが,もともとの強みであるFWが,試合全体の主導権を早稲田から引き戻す,という部分で役割を果たしていたように思います。また,守備応対面から見ると,早稲田は低くボール・キャリアにアプローチする,という姿勢を徹底できていたように思いますが,帝京も強い圧力を早稲田に対して掛け与えることができていたように思います。それだけに,早稲田には決して小さくはない負荷(ダメージ)が加わっていたのではないかな,と思うのです。


 この印象は,後半立ち上がり直後からの時間帯で裏打ちされてしまったように思います。帝京は,後半立ち上がりから17分近くまでの時間帯,ほぼ完全に主導権を掌握してトライ奪取を重ねていきます。外野からすると,この段階で選手権の行方は決したのではないか,と感じさせる,そんな時間帯だったのも確かです。けれど,日曜日の決勝戦はこの印象だけで終わることはありませんでした。早稲田がリズムを再び引き戻すと,得点差を着実に詰めていくのです。結果的には,帝京が30分にトライを奪ったことが早稲田にとって重い意味を持つことになるのですが,それでも反撃する姿勢を失うことなく,ノーサイドを告げるホーンが鳴る,その瞬間まで勝負を仕掛け続けていたことは印象的です。


 さて。早稲田が発行する学内スポーツ紙(千駄ヶ谷駅から国立霞ヶ丘へと向かう道すがら,いただいたものです。)に掲載されていたインタビュー記事では,帝京のディフェンスには穴がある,という清宮さんの指摘がありました。当然ながら,このインタビューでは具体的な「穴」の内容には触れられていませんでしたが,個人的にこの指摘を推理するならば,守備応対時のポジショニングを指摘しているのではないか,と思います。


 ボール・キャリアに対して,どのようなポジショニングで守備応対を仕掛けるのか,明確ではない局面が出てくることがあるように思うのです。接点からボールが引き出される。この段階では,明確な隙にはなっていません。ボールが展開されはじめると,守備陣形がスライドしながらボール・キャリアにアプローチしていくように思うのですが,このスライドが機能しない(距離感が乱れる)タイミングがあるように思うのです。そのために,ファースト・ディフェンスが掛からない局面が発生してしまう。


 この局面を意図的に狙って,縦を突く。


 恐らく,早稲田は清宮さんが指摘していた「穴」を把握していたのだろう,と思いますし,帝京のウィークポイントを念頭に「縦」を強く意識して戦い方を組み立てていたのではないか,と思うわけです。


 対して,選手権を制した帝京大学は今季,トップリーグとの対戦を具体的に想定してチーム・ビルディングをしてきた,と聞き及んでいます。確かに,真っ向勝負を挑むことのできるチカラを持っているな,とも思うのですが,ならば早稲田に突かれた隙をしっかりとクリアしていくことが求められるだろうな,と思います。また,この決勝戦では「抜ける時間帯」がかなり明確でもあった,と感じます。相手の戦い方に対して後手を踏む。踏むのは仕方ないとしても,どれだけ早い段階で後手を精算し,自分たちの戦い方へと相手を引き寄せていくか。5連覇という大きな実績とともに,より高いレベルを狙うための課題を,早稲田が提示してくれた,とも言えるはずです。


 両校ともに,日本選手権で存在感を見せてほしい,と思っています。