富山第一対星稜戦(第92回全国高校選手権・決勝戦)。

守備応対面を基盤に,戦い方を組み立てる。


 基本的なゲーム・プランには,大きな変化はなかったと思います。思いますが,心理面が戦い方に微妙な影響を与えたように思います。相手の攻撃に対して守備応対面での安定性を徹底させる,という戦い方そのものが変化したというよりも,意識の部分が微妙に変化したのではないかな,と思うのです。相手の隙を突くための守備応対ではなくて,相手の攻撃に対してある意味,真正面から「受ける」守備応対になってしまった。


 0−2から,前後半終了までの戦い方には,心理面がフットボールという競技に与える影響,その大きさをあらためて感じさせるものがあった,と思います。


 2019,そして2020に向けた全面改築に伴い,現在の姿では最後となる国立霞ヶ丘での決勝戦,北陸勢同士の対戦となった,高校選手権であります。今回は,決勝戦へと駒を進めてきたもうひとつのチーム,星稜の印象からはじめよう,と思います。


 自分たちの強みを表現するにあたって,相手の強みをまずは抑え込むところからはじめる。そのために,富山第一がどのような戦い方をしてくるか,しっかりと把握する。星稜は決勝戦を戦うにあたって,いい準備をしてきただろうことがうかがえる,そんな立ち上がりだったように思います。相手の仕掛ける攻撃を高い位置で抑えるのではなくて,敢えて低めの位置で抑えることを意識する。トランジットからの攻撃にしても,早い段階で相手がプレッシャーを掛けてくることを意識して(実際に,ビルドアップの初期段階で相手のプレッシングに引っ掛かる局面も決して少なくはなかった,と思います。),シンプルに縦を狙うことも意識付けておく。そんなゲーム・プランが相当程度に機能していた,と思うわけです。


 であれば,先制点の奪い方にしても,追加点の奪い方にしても狙い通り,だったかな,と思うのですが,2得点を挙げたことで心理的なバランスが微妙に変わったことが,結果的にこの試合を決定付ける,大きな鍵になってしまったように思うのです。


 大ざっぱに言えば得点差がチームに与える,心理的な影響です。


 星稜は,守備応対を基盤として戦い方を組み立てていたように受け取れます。しかし,この守備応対は「逆襲を仕掛ける(相手の隙を冷静に突き,ゴールを奪う)」という部分とセットになっていたものと思います。この,「逆襲を仕掛ける」という部分が,2点のアドバンテージを構築したことで,無意識的なものだとは思いますが,抑え込まれることになってしまったのではないか,と感じます。相手が見せる隙を的確に突いて,逆襲を仕掛けるための守備応対ではなくて,相手の攻撃を抑え込むだけの守備応対に傾いていってしまう。ラグビーフットボールで言う,「受ける」状態へと嵌り込んでいったように思うのです。


 続いて,この選手権を制した富山第一の印象でありますが,個人的には心理面での強靱さが強く印象に残る,そんな決勝戦での戦いぶりでありました。


 相手からボールを奪う位置も高く設定されていて,トランジットから繰り出す攻撃もかなりの鋭さを持っている。これまでの戦い方と同じく,立ち上がりから自分たちの戦い方へと相手を引き込み,先制点を早い時間帯に奪う,という狙いが明確な戦い方でした。ではありましたが,月曜日の決勝戦ではゴールを奪う,というピースだけがなかなか埋まらない。


 高い位置からのボール奪取も機能しているし,攻撃面で表現すべき要素は表現できている。けれど,ゴールがなかなか奪えない。不思議なことではあるのですが,試合の主導権をつかんでいるようでも,先制点を奪えないと主導権を本当の意味で奪ったことにはならなくて,むしろ後手を踏むことにもなる。フットボールの魅力でもあり,怖さでもある部分かな,と思いますが,心理的な要素が微妙に戦い方へと影響を及ぼしていくように思うのです。攻撃面で主導権を掌握していても,実際に得点が奪えないとなると,さらに攻撃圧力を掛けようとして,チームのバランスを攻撃方向へとさらに傾ける。この微妙なバランスの違いは,隙となって出てくることがある。この隙を,相手は守備応対を丁寧に繰り返しながら狙ってくる。この日の決勝戦も,そんな図式に嵌り込みかけていた,と言うべきかも知れません。


 知れませんが,富山第一はこの図式から抜け出すことができた。


 恐らく,この試合での最も大きな鍵,かも知れません。相手がみせた心理的な隙,その隙を突くにあたって,パッケージに微調整を掛けることで,シンプルに攻撃圧力を高めていくというギアチェンジを仕掛けてきた。このギアチェンジと,相手の心理的な要素が絡み合って,アディショナル・タイムの同点劇へと結び付いていくわけです。


 追い付かれた側と,追い付いた側と。


 前後半終了段階で,主導権をつかんでいるのはどちらか。ビハインドを跳ね返してみせた(自分たちの戦い方への確信を,アディショナル・タイムの段階で再確認した)チームが主導権を握っている,と見るべきでしょうし,実際に試合を決定付けるゴールを奪ったのは富山第一,でありました。


 自分たちが狙う戦い方に,相手を嵌め込む。そのときに,誤算が生じることもあるし,嵌め込めたとしても,そのまま相手を嵌め込み続けられるとは限らない。逆に,相手に嵌め込まれたからと言って,抜け出せないとも限らない。自分たちのリズムではないとしても,相手が見せた隙を突く,その姿勢を失わなければ,相手の戦い方から抜け出すきっかけをつかむことはできる。


 そんな強い意思を,富山第一は国立霞ヶ丘のピッチに表現してくれたように思うのです。