東海大仰星対桐蔭学園戦(第93回全国高校ラグビー・決勝戦)。

相手は,自陣からでも積極的にボールを動かす。


 のみならず,エリアを奪うためにキックを使うことをしない。


 そんな対戦相手を,自分たちの戦い方へと嵌め込むためには,どのような守備応対が求められるか。明確に,戦術的な約束事を描き出していたのではないかな,と感じます。相手の攻撃に対して後手を踏むような守備応対ではなくて,相手の戦い方に楔を打ち込むような,攻撃的な守備応対を繰り返す。この守備応対によって,相手の攻撃に綻びを生じさせ,その綻びを的確に突く。


 立ち上がりの時間帯,東海大仰星がフィールドに描き出した攻撃の形は,桐蔭学園の戦い方に対して,東海大仰星が明確な対策,ゲーム・プランを描き出していることを示していたように思います。恐らく,桐蔭学園としても,東海大仰星が自分たちの戦い方を研究して,どのような守備応対からリズムを引き寄せようとしてくる(している)か,この時間帯だけで感じ取ったはずです。けれど,彼らは自分たちの戦い方に微調整をかけることをしなかった。微調整をしなかったことに対しては,確かにさまざまな見方ができるかも知れませんが,決勝戦にあっても「普段通りの戦い方」を貫く,という判断をしたこと,その背後にあるだろう自分たちの戦い方への確信の深さは,さすがにAシードだな,と感じさせるものがありました。


 かなり時機を外してしまいましたが,高校ラグビーの決勝戦について書いていこう,と思います。今季も一時は,「西高東低」な状態に嵌り込んでしまうのかな,と思うようなトーナメントの進み方(特に,準々決勝から準決勝への段階は,関東エリアのラグビー・フリークとしては不安でありました。)だったのですが,東の牙城を桐蔭学園が守り,西の代表校として東海大仰星が上がってくる,結果としてはAシード校の対決となった決勝戦であります。


 まずは,桐蔭学園について書いていこう,と思います。


 決勝戦「だけ」で見るならば,自分たちの戦い方を微調整する,その有効性は確かにあったかも知れない,と思います。対戦相手である東海大仰星は,ボール・キャリアに対してプレッシャーを強く掛け与える守備応対を徹底していました。たとえば,ボール・キャリアが強い圧力によってパス・スピードやパス・レンジについての判断をちょっとだけ躊躇してしまう。小さな隙,とでも言うべきものかも知れませんが,この隙を相手はつくろうとしているし,この隙を狙って鋭く攻撃を仕掛けようとしている。この相手の戦い方に真正面から勝負を挑むのではなくて,背後を狙っていく(つまりは,キックを使う)こともあり得べき戦い方だったかな,と思う部分があるのですが,彼らはあくまでも,真正面から仰星の圧力に対して勝負を挑み,この圧力を跳ね返す,というアプローチを選んでいたように感じます。


 残念ながら,真正面から相手の圧力に勝負を挑み,跳ね返すという戦い方は結果を引き寄せることはできませんでした。後半,攻撃的な部分でリズムをつかみながら,局面を東海大仰星の守備応対によって抑え込まれ,鋭い縦への攻撃を許す,という形を重ねてしまったことで,ビハインドを背負ってその後の時間帯を戦わなくてはいけなかったからです。


 とは言え,自分たちの戦い方で真っ向勝負を挑み,純然たる1トライ差にまで追い込んだのは確かです。恐らく,彼らは自分たちの戦い方を微調整して結果を引き寄せる,というアプローチよりも,ひとつひとつのプレー,その精度を高めてより積極的にボールを動かす,というアプローチを選ぶのではないでしょうか。そして再び,決勝戦の舞台である第1グラウンドへと戻ってくるつもりではないか,と思っていますし,そんな姿を期待したい,とも思っています。


 続いて,この選手権を制した東海大仰星であります。


 冒頭にも書きましたが,桐蔭学園がどのような戦い方を狙っているのか,この戦い方に対してどのような守備応対を仕掛ければ自分たちの戦い方へと相手を嵌め込むことができるか,かなり具体的なイメージを描き出してきただろうことが感じ取れる,そんな立ち上がりだったように思います。


 相手が持っている特徴的なシークエンスを封じるためのポジショニング(ラインの距離感を重視したポジショニング),と言うよりも,相手ボール・キャリアに対して鋭くプレッシャーを掛け,ボール奪取から攻撃へのスムーズなトランジットを狙う,そんなポジショニングを意識した守備応対だったように感じます。そして,トランジットからの機動性も,この決勝戦での大きな鍵になっていたように感じます。


 機動性と書くと,この決勝戦の対戦相手を形容する言葉であるように感じます。実際,前半24分の場面や,リードを奪うべく仕掛けていた後半立ち上がりの戦い方を思い浮かべてみると,機動性という言葉は確かに桐蔭学園の戦い方を形容する言葉でもあります。ありますが,個人的にはチームが表現すべき機動性,特に守備応対でのバランスを整え続けるための機動性が,この決勝戦での鍵ではなかったかな,と思うわけです。先制トライを奪った場面では,相手パスをスティールしたLOがそのまま縦を突いてトライ奪取へと結び付けたわけですが,この局面からちょっと前を思い浮かべてみると,相手の展開に対して的確なディフェンスを仕掛け続けていたことが見て取れます。相手の機動性に対してしっかりと追従するだけでなく,相手が見せた小さな隙を見逃さない守備応対を仕掛ける。そのためにも,ライン・バランスをとり続けるための機動性が求められてくるはずですし,当然ながら高い守備圧力を維持し続けることが求められるはずです。立ち上がりの時間帯,桐蔭学園東海大仰星のディフェンスが剥がれる局面が見えてくるかどうか,見極めようとしていたはずです。この時間帯,東海大仰星はディフェンスを剥がされるような形には嵌り込んでいませんでした。むしろ,自分たちの狙う形へと,桐蔭学園を嵌め込むことができていました。この形を,東海大仰星はゲーム・タイムを通じて維持し続けることができたように思うのです。


 チーム・ビルディングや戦い方の組み立て方として,好対照をなす2つのチームが決勝戦へと駒を進め,自分たちの強みを真正面からぶつけ合うような形で試合を動かしていった。「勝って終わる」ということを基準にしてみるならば,違うアプローチ(相手の強みを抑え込むことを基準に,戦い方を組み立てる)もあり得るかも知れませんが,個人的には,自分たちが狙う戦い方を真正面からぶつけ合う,今季の決勝戦のような形は魅力的に映ります。決勝戦が終わって,それほど時間が経過していない段階で言うべきことではないかも知れませんが,来季もこのような「個性」がぶつかる決勝戦を期待したい,と思います。