深谷対浦和戦(第93回全国高校ラグビー埼玉県予選・決勝戦)。

7−14というファイナル・スコア。


 1トライ1コンバージョン差,ですが,両者の実力差はこの得点差ほどにはない,と思っています。それほどの「僅差」な試合ではなかったか,と思うのです。実際,インジュリー・タイムの攻防を取り出してみても,2つのチームの間に決定的な差がある,とは言えないように思います。けれど,浦和は深谷の強みを抑え込むことができていたし,深谷は浦和の持っている強みの前に自分たちの強みを押し出しきれなかった。ちょっとした差,がこの試合を分けたのかな,と思っています。


 ちょっとばかり時期に遅れておりますが,深谷と浦和で戦われた全国高校ラグビー埼玉県予選,その決勝戦について書いていこう,と思います。とは言え,時期に遅れておりますので,試合の流れを追って,というのではなくて,チームの印象を中心に書いていこう,と思っています。


 まずは,深谷の印象から書きはじめますと。


 浦和がどのような戦い方をしてくるか,明確なイメージを持っていたはずです。であれば,相手の守備応対が厳しいだろうことも,相当程度にイメージできていた,とも思います。けれど,守備応対の強度が,ちょっとだけ深谷の想定とは違っていたのかな,と思います。強い方向に違っていたのではないか,と思うのです。この守備応対に対して,後手を踏んでしまった。また,先制点を奪われたことで,主導権を引き戻すためのチカラを必要とする展開に持ち込まれてしまった。計算外の状態で前半を終わったのではないかな,と思うのです。


 この計算外の状態を解消する,そのきっかけは7−7に追い付いた直後の時間帯ではなかったかな,と思います。思いますが,深谷は大事な局面でファウルを犯すなど,なかなか攻撃面でのリズムをつくることができなかった。むしろ,相手に対して隙を見せてしまったように思うのです。


 試合終了間際の時間帯,深谷が仕掛けてきた攻撃は迫力あるものでした。であれば,近鉄花園への切符を奪うためには何かが足りなかった,という印象はありません。むしろ,チームとしての心理面で,後手を踏まされた部分があったのではないか,と見ています。読み通りの部分と,読みを上回っていた部分と。その読みを上回った部分が,自分たちから浦和に付け入る隙を見せてしまう,そのきっかけとなってしまったのではないかな,と感じています。


 対して,54年ぶりの全国選手権となる浦和ですが。


 戦い方の微調整,その方向性が決勝戦にあっては違っていたように思います。今季,浦和はFWだけでなく,BKで攻撃を,という意識付けをしていたように感じます。この意識付けをちょっと抑える一方で,本来の戦い方に調整をかけてきたな,と思うのです。


 端的に書けば,守備応対が「攻撃的」な形になっていたように感じられるのです。


 守備応対面から戦い方を組み立てる,というのは浦和の戦い方ですが,決勝戦段階になると守備応対面から攻撃への転換が,必ずしもスムーズではない(守備応対だけに追われる)時間帯が長くなる傾向があったかな,と思うわけです。なかなか,自分たちの形で攻撃を仕掛ける時間帯を積み上げられない,という部分があったように思うのです。対してこの決勝戦では,相手が仕掛ける攻撃を抑え込むだけの守備応対ではなく,自分たちが狙う攻撃を仕掛けるための守備応対,という意識が徹底されていたように思います。この意識面が,出足の鋭さへと結び付いていたかな,と思います。そしてもうひとつ。マイボール・ラインアウトの保持率がこの決勝戦では高かった。相手エリア深くでマイボール・ラインアウトを取り,ラインアウトからモールでさらにエリアを奪いに行く。浦和のリズムで戦いを進めることができた,大きな要素となっていたのがラインアウトからの攻撃ではなかったかな,と見ています。


 後半,7−7へと追い付かれたあとの時間帯。


 最も難しい時間帯ではなかったかな,と思います。戦い方を間違えれば,恐らく深谷が主導権を奪い返してくる。そんな時間帯だったかな,と思うのですが,浦和はこの時間帯をしっかりとハンドリングしていたように思うのです。単純に,相手の攻撃を抑え込むだけでなく,攻撃圧力を高めるがためにどこかで生じる隙(チーム・バランスのちょっとした乱れ),その隙を突く機を窺いながら守備応対を繰り返すことができていたように思うのです。守備面のバランスを崩さない,という意味では,浦和の戦い方から外れるものではありませんが,攻撃という部分をしっかりと意識している守備応対だった,と思うのです。とは言え,相手の攻撃圧力が強まってくると,どうしても攻撃へとつなげるための守備応対,ではなくて,相手の攻撃を抑え込む「だけ」の守備応対へ追い込まれてしまいます。試合終了間際の時間帯,浦和は相手の攻撃を抑え込む守備応対へと追い込まれていたように思います。それでも,守備応対が決定的な破綻をきたすことはありませんでした。自分たちの戦い方を,ノーサイドまで徹底することができた。このことは,本戦へとつながる内容面での収穫だったのではないか,と思います。


 ただひとつ。ディテールな話をしますと。


 冷静に,ボールをタッチラインの外へと蹴り出すことができれば,その時点で試合をクローズできるのに,なかなかボールがタッチを割ることができない。試合を決定付けるキックでもあり,緊張感が支配していたかも知れませんが,微妙なタッチを修正する,その意識を徹底しておいてほしいな,と思います。


 さて。ついに壁を突き崩してきました。


 本戦を実際に戦う,そんな立場になったわけです。けれど,「1回戦突破」だけを目標としてはほしくないな,と思っています。今回,浦和が退けたチームは,全国の1回戦レベルだけを視野に収めてチーム・ビルディングしてきてはいません。そんなチームを破っているのですから,自信を持って本戦を戦っていってほしい,と思っています。もちろん,本戦での「シードの壁」はなかなかに高いものがありますし,そう簡単に突き崩せるものでもないかな,とは思います。けれど,突き崩せない壁はない,ということを決勝戦で証明したのも確かです。再び,壁を突き崩してみせてほしい,と期待しています。