国立代々木競技場。

新国立競技場も,恐らく建築技術「以外」が必要でしょう。


 新国立競技場をデザインした,ザハ・ハディドさんはかなり意欲的なデザインをされています。であれば,建築技術「だけ」を駆使していては建築不可能,などということになりかねない,かも知れません。建築とは直接的に関係のない(とちょっとすると思われる)造船技術であったり架橋技術,それらの技術を重ね合わせていくことが求められるように思います。


 というような,建築技術以外の技術を必要とする建築物,すでに存在しております。しかも,霞ヶ丘からそれほど遠くないところに。


 その建物をデザインした人物が,丹下健三さんです。100年前の9月4日が誕生日である,日本を代表する建築家,と言いますか,都市計画の専門家であります。今回はフットボールを離れまして,丹下さんのことをちょっと書いておこう,と思います。


 と書きましたが,丹下さんについては不思議な設計家というタイトルでエントリを書いております。そこで今回は,夏季オリンピック開催地決定も近いことですので,丹下さんの代表作,そのひとつである国立代々木競技場に注目して書いていこう,と思います。


 丹下さんの建築には,どこか宗教的な雰囲気が漂います。


 東京カテドラルは当然として,都庁舎などを眺めてみても,どこか教会が持っている雰囲気を感じさせるように思うのです。その雰囲気,国立代々木競技場にも漂っているかな,と思います。サブライム(至高性)という,丹下建築を形容するときに持ち出される言葉ですが,この時期の丹下さんの建築には権威,という言葉に近い至高性ではなくて,宗教的な気高さに近い,至高性が漂っているように思うのです。と同時に,あくまでも個人的な印象ですが,伝統的なデザイン言語からモティーフを持ち込んでいるような,そんな印象を持ったりもします。西欧的なモダン・デザインではあるのだけれど,西欧的な要素だけでデザインを構築するのではなくて,日本の古典的なデザイン要素を落とし込んでいるように感じるわけです。


 機能からこの建築を眺めてみれば,いまの競技場設計に通じる要素を読み取ることができます。「観客席からの視界」です。この代々木競技場の個性でもある吊り屋根は,観客席から屋根を支える柱を取り払う,という効果をもたらしています。どの観客席からもフロア(1964年当時は,プールだったはずです。)がしっかりと視界に収められることを狙って,屋根の構造を決定した。そこで持ち出されたのが,2つの主柱によって屋根全体を吊り上げる,という技術であり,この技術は架橋技術に通じるものでもあります。構造設計面でも相当な挑戦だったでしょうし,施工面にとっても大きな挑戦だったか,と思います。


 1964年当時に,ここまで挑戦的な建築物を設計し,単に設計するだけでなくて竣工させた。丹下さんの手腕も相当だったのでしょうが,彼のアイディアに数値的な裏打ちをした構造設計家の方や,実際に施工を担当された方々,彼らのチカラもまた,大きなものだったのだろうと思います。