シルエット・フォーミュラ。

GTマシンのご先祖さま,なのはある意味分かりやすいですが。


 スポーツ・プロトタイプのご先祖さまでもあるのです,と書くと,違和感を持たれる方も多いかな,と思います。エンジンの搭載位置も違うし,モノコック・フレームの仕立て方もまったく違う。それより何より,市販車の面影など,プロトタイプ・マシンにはないではないか。そういう指摘もありましょうし,その通りでもあります。けれど,意外や意外に,スポーツ・プロトタイプとの共通項があったりするのです。


 中断期間に入っていること,だけではありませんが,ちょっとばかり長くお休みをいただいてしまいました。ビンボー暇なし,な状態が継続中である,というのがその理由であります。残念ながらしばらくの間この状態は続きそうでありまして,であれば,これからも更新間隔は相当に広めになってしまうかも知れませんが,ご容赦くださいませ。と,ちょっとばかり業務連絡をしつつ,フットボールの話を離れまして,レーシングな話を書いていこう,と思います。


 シルエット・フォーミュラ,あるいはグループ5。


 1970年代中盤から1980年代前半にかけて施行されていた,技術規則であります。この技術規則と,グループC規定とが直線的に結び付く,ということは当然ありません。技術要素に分割することで,関係性が見えてくるわけです。


 スポーツカー・レーシングで存在感を示し続けているメーカ,となれば,ポルシェであります。彼らはグループ5規定に合致するマシンとして935を仕立て,グループC規定に合致するマシンとしては956,その後継となる962Cを仕立てています。これらのマシンに共通する要素は,「空力」だったりするのです。


 “レーシング・オン”誌(462号)でシルエット・フォーミュラについての特集が組まれたときに,興味深い写真が掲載されていました。ちょっと見ると,実戦投入された935/78とほぼ変わらないフォルムを持っているのだけれど,どこかが違う。ドア・セクションの処理が大きく違うのです。フロントのオーバーフェンダーからリアのオーバーフェンダーにかけて,スムーズなラインがつくられています。実戦には投入することのできなかった,ドアカウルを装着していたのです。そのために,ウィングがセットされている位置は明らかに低く,のちのグループCマシン,956(特に,ル・マンに持ち込まれたロングテール仕様)との共通性をどこかに感じさせるデザインになっていたのです。この特集記事には,当時のポルシェ技術陣がボディ底面の空力処理をも意識して,935/78の開発をしていたことが指摘されていたりするのですが,細かいことはレーシング・オン誌を読んでいただくとして。


 シルエット・フォーミュラは,思うよりも短命に終わった技術規則でした。勝負権を持ったメイクスがほぼ,ポルシェに絞られてしまった(有力なコンテンダーであったはずのBMWが,なかなか勝負権を維持できなかった)のが,その大きな要因ではないか,と思います。けれど不思議なことに,国内選手権レベルで見ると,その血統が現代へと引き継がれている部分も多いのではないか,と思うのです。たとえば,ドイツ・ツーリングカー選手権であり,スーパーGTであります。車両についての技術規則は大きく変化をしていますが,市販車の面影を残すレーシング・マシンで戦われるという意味で言えば,DTMもSGTもシルエット・フォーミュラの血統にあると言えるはずです。


 1970年代中盤の話ですから,古い競技規則であるのは確かです。でも,「時代遅れ」と評価するのはフェアではない。要素技術面から見れば,スポーツ・プロトタイプの基盤を提供し,レースのフォーマットから見るならば,DTMやSGTの基盤ともなっている。オープンホイーラーだけが,レーシングの技術を引っ張ってきたわけではない,という意味でも,見直されるべき時期ではないかな,と思うのです。