パナソニック・ワイルドナイツ対帝京大学戦(第50回日本選手権・2回戦)。

見ているひとたちが,何を期待しているのか。


 メインスタンドであったりバックスタンド,あるいはサイドスタンドで見ているひとたち,だけではありません。ゴールエリア背後のスペースに位置しているカメラマンのひとたちが,何を期待しているのか。ワイルドナイツがトライを奪いに行くべきエリア,その反対側のエリアにカメラマンのひとたちが多く構えていたことだけでも,ある程度推察できるはずです。


 秩父宮の空気は,帝京に対するアドバンテージとして作用していた,かも知れません。かつて早稲田大学が演じてみせたアップセット,その再現を帝京大学に期待していたように思うのです。であれば,ワイルドナイツにとっては秩父宮はちょっとしたアウェイ・マッチだったかも知れません。そんな雰囲気も影響したのかも知れませんが,前半段階の戦い方はらしくなかった。けれど,そんな状態を的確に修正できたこと,がアップセットの再現を阻んでみせた,その要因であったように思います。


 日本選手権2回戦,その第2試合であります。


 まず,帝京大学について,であります。


 前半終了段階までで見るならば,ワイルドナイツとの真っ向勝負はしっかりと機能していた,と見ていいと思います。帝京大学は,ワイルドナイツがどのように立ち上がってくるか,どのような戦い方をしてくるか,を意識した戦い方をしてきた,というよりも,自分たちのラグビーで真正面からワイルドナイツと勝負しよう,という姿勢が強かったように思います。守備応対面でも,ワイルドナイツの圧力に対してしっかりと対応していたように思いますし,ワイルドナイツが攻撃を仕掛けている局面でも,ボールが展開されている,その早い段階で鋭くインターセプトを仕掛ける姿勢が徹底されていたな,と感じます。ワイルドナイツの攻撃に対してしっかりと距離を詰め,パスコースを読み切っていたことがインターセプトにつながっていったものと思いますし,このインターセプトからの攻撃は,帝京がTLレベルでも通用する,そんな印象を持たせるものであったように思います。


 前半終了段階で,ワイルドナイツとは純然たる1トライ差。


 後半の立ち上がりでリズムを奪えれば,ともすれば,があり得る状態だったか,と思いますが,ワイルドナイツとの差は後半立ち上がりの段階にあったように思います。ワイルドナイツは,攻撃面でのズレであったり,守備応対面でのズレ,ちょっとした抜けをしっかりと修正してきた。圧力が1段階強まった状態で後半を立ち上がってきたように思うのです。この立ち上がりに対して,なかなか反撃のきっかけをつかめずにゲーム・クロックが進んでしまったし,得点差も広がってしまった。ワイルドナイツが前半終了段階ではともすれば持っていたかも知れない違和感,その違和感をさらに強める形で後半を立ち上がれるかどうか,という部分が,アップセットをモノにできるかどうか,ということにつながっていくのかな,と見ています。


 続いて,準決勝へと駒を進めたワイルドナイツであります。


 1回戦では,ワイルドナイツらしい攻撃的な守備応対が戻ってきた,という印象を持っていただけに,2回戦でも守備応対からリズムをつかんでいくのかな,と見ていました。確かに,守備応対の鋭さが戻ってきたような印象もありましたし,試合立ち上がりの時間帯も,モチベーション・ギャップという言葉は当てはまらないのかな,と思わせるものがありました。POTでは,BKが持っている縦への鋭さを組織的に封じられてしまっている,との印象が残りましたが,この試合では早い段階から,BKが持っている縦を活かせていたようにも思います。


 しかしながら,守備応対に鋭さが戻ってきたことよりも,帝京の圧力に押されている,ミスを誘発させられているような印象がより強くなっていったのも確かです。立ち上がりから,トライ奪取を重ねていったことで,ちょっとばかり「抜ける」時間帯が出てきたように思うわけです。


 対戦相手である帝京大学は,立ち上がりの段階からワイルドナイツに対して真っ向勝負の姿勢を前面に押し出していましたが,その姿勢を「受ける」形になってきた,といいますか。チームとしての意識が,自分たちから仕掛けていく,というものではなくて,相手の仕掛けを受け止めていくような形に変わっていって,そのためにミスが発生するようになってきたように感じるのです。ファウルでリズムを寸断してしまったり,パス・ワークを相手に見切られて,逆襲からのトライ奪取,そのきっかけをつくってしまったり。前半終了段階で見れば,決してよくない流れにあったように思います。


 その流れをしっかりと断ち切り,守備応対面,攻撃面におけるセットの微妙なズレを的確に修正してきたこと,帝京の姿勢を受けるだけでなく,跳ね返していく姿勢を押し出していくことが徹底されてきたように思うのです。後半立ち上がりからのワイルドナイツは,鋭さや厳しさが1段階以上上がっていったように思うのです。


 秩父宮が持っていた雰囲気を思えば,浮き足立つのも決して不思議ではありません。帝京大学を後押しする,その雰囲気に飲み込まれてしまえば,ともすれば,もあり得たかも知れません。その意味で,スターター変更は難しい判断だったかな,とも思うのですが,結果的にはハーフタイムで難しい試合を自分たちの側へと引き寄せ直す,そのための修正ができていたようにも思います。実力差,という側面で見るならば,決して不思議なファイナル・スコアではありませんが,やはり実力あるチームであっても心理面は試合を動かすにあたって大きな要素である,と感じさせる試合であったように思います。