六甲ファイティングブル対北海道バーバリアンズ戦(全国クラブ大会決勝)。

実質的には,20分前後で試合が決定付けられてしまった。


 そんな印象が強く残っています。


 バーバリアンズはともすれば,「普段着」なラグビーを強く意識して試合に入っていったのかも知れません。けれど,ファイティングブルは大きく戦い方が違っていたように思うのです。どう相手からリズムを奪い去るか,どれだけ早い時間帯で主導権を奪うか,徹底的に意識して試合に入ってきたように思います。


 試合の入り方,という部分で生じた違いが,試合を決定付ける差につながっていった。個人的には,そんな印象を持っています。


 さて。フットボール,と言っても楕円球の話であります。


 大学選手権を制した帝京大学など,すでに日本選手権への切符を確定させたチームもありますが,日本選手権への切符が同じく用意されている全国クラブラグビーフットボール大会,その決勝戦であります。


 決勝戦へと上がってきたのは六甲ファイティングブルに,北海道バーバリアンズであります。今回は,立ち上がりの時間帯,冒頭にも書きましたが20:00前後までの時間帯にフォーカスして戦い方を振り返ってみよう,と思います。


 試合の立ち上がり,全体をコンパクトにしながらゲームを進めよう,という意図がバーバリアンズの戦い方からは感じられました。この戦い方を,ファイティングブルは冷静にスカウティングしていたように思います。「戦いながら」観察している感じではありませんでした。すでに「分かっている」相手の戦い方に対して,明確な崩しのイメージを持っているように感じられたのです。


 日曜日の秩父宮は,神宮球場方向から伊藤忠方向への季節風が時折強まる,そんなコンディションでした。この季節風の存在を意識しながら,同時にバーバリアンズの戦い方を意識した攻め方をしてきたように思うのです。バックスのポジショニングによって生じるスペースを的確に突き,トライを奪うための連携を徹底していたように思うわけです。ボールを動かし続けて,相手守備ブロックの隙を突いて縦を狙う,のではなくて,キックで積極的に縦を狙ってきた。相手バックス背後,あるいは横に生じているスペースを狙ってキックを繰り出し,このキックに反応したパス・レシーバが縦を積極的に狙う。バーバリアンズのバックスがポジションを崩してボールを追い掛けるような形で守備応対に入るわけですが,この段階ですでにファイティングブルの選手はキックパスに対して反応していますから,ボールだけでなくひとへの応対も求められます。ボールとひと,2つを同時並行で追い掛ける守備応対に持ち込まれてしまっていたわけです。


 もったいない,と思ったのは,バックス背後,あるいは横を意図してキックパスで狙うこの形に複数回持ち込まれてしまったこと,です。それだけ,バーバリアンズにとってはボールの奪われ方がよくなかった(チームが前掛かりになる,そのタイミングを狙われていた),という見方もできるでしょうし,ファイティングブルが徹底して試合をコントロールしていた,と見ることもできるように思います。


 それでも,反撃を仕掛けられる(トライ奪取によって,六甲に握られた主導権を引き戻すことができる)かも,という局面があったのも確かです。しかしながら,自分たちが攻撃を仕掛けている局面にあって,自分たちからファウルでリズムを寸断してしまったところがある。早い時間帯にトライを奪われてしまったことで,リズムが崩れた部分があって,その崩れたリズムが攻撃を加速させなくてはいけない局面で,ファウルという形になったようにも感じるのです。


 風上から攻めおろすことのできる試合前半,この段階でリズムを決定的に奪い,試合を決定付けてしまう。そのためには,北海道が狙うラグビーを抑え込む必要がある。ならば,彼らが持っている弱点を冷静に突き,リズムを可能な限り早い段階で奪い去ること。そんな,ファイティングブルの意図が感じられる戦いぶりであったように思います。


 さてさて。この決勝戦を制し,日本選手権への切符を奪取した六甲は,1回戦で大学選手権覇者である帝京大学との対戦が決定しています。過去数季を思い出してみるに,なかなかクラブチームは選手権で存在感を見せられていない,という印象が残っています。それだけに,六甲にはこの決勝戦で見せた的確なスカウティング能力をぜひとも,帝京大学との1回戦でも見せてほしい,と思っています。帝京大学の強みを出させない,ちょっとした混乱状態に陥れるために,どの部分を突くべきか。そんな,インテリジェンスを感じさせる試合を期待したいと思います。