PK戦の怖さ(鵬翔対星陵戦)。

勝戦の切符に,名前が書き込まれるとして。


 途中まで,星陵という名前が書き込まれるのかな,という印象でした。あともうちょっとで,星陵という名前が完全に書き込まれる,というタイミングで流れが微妙に変わってくる。すると,流れの変化が次第に大きくなってしまう。


 所用があって,PK戦「だけ」しか見ていない,準決勝第1試合です。にもかかわらず,観戦記扱いしておりますが,心理的なアヤをこれでもか,と感じることのできた,かなり濃密な時間がこの試合のペナルティ・シュートアウトにはあったな,と思います。


 90分で決着が付いているならば,恐らくインターバルの時間だな。


 そう思いながら,アウェイサイドのゴール裏方向(実際には,応援席はバックスタンドに用意されるので,ゴール裏はほぼ自由席ですが。)へと歩いていました。すると,歓声が聞こえてきます。近くのゲートから入ってみると,ディスプレイに表示されているスコアは2−2。アディショナル・タイムを戦っていたわけです。鵬翔,そして星陵ともに90分で決着を,という意識で戦っていたものと思いますが,残念ながらフルタイムで決着を付けることはできず,ペナルティ・シュートアウトに切符の帰趨が委ねられるわけです。


 ペナルティ・シュートアウトに備えて位置を変更しているTVカメラ。このカメラを操るクルーのほぼ延長線上で,PK戦を見ていたわけです。


 このPK戦,星陵は明確な戦略を描いていたようです。キッカーから見て左上隅を狙う。チームとして,どういうコースを狙うのか,明確にしていたようなのです。この戦略,途中までは見事なまでに機能していました。この戦略が微妙にズレを見せるのは,鵬翔がPKを失敗して,アドバンテージを持ったあとのことでした。鵬翔のゴーリーが,星陵の狙いを見抜いた,という側面もありましょうし,星陵のキッカーにしても,アドバンテージを守りたい,早い段階で勝負を決めたい,という意識が作用したものと思います。そんな心理面が,コースを狙う精度に小さな,でもクリティカルな狂いを生じさせたようです。


 クロスバーを大きく超える。あるいは,クロスバーを直撃する。


 コースを狙って,その狙い通りにPKを決められていたものが,急激にそのリズムを崩してしまったわけです。必ずしも,鵬翔がそのままリズムを取り戻したか,と言えば,リズムを持って行かれるのではないか,と思う時間帯もありました。優位に立ちつつある,と言うタイミングで,シュートがゴールマウスを捉えられなかった。難しい展開になってしまうのか,と思ったのも確かですが,それ以上に星陵のリズムの崩れ方が大きかった,ということでしょう。


 優位にPK戦を戦いながら,その優位さゆえにプレッシャーを感じ,リズムを失っていく。局面での流れがPK戦全体の流れをも大きく変えていく。ひさびさに,PK戦の怖さを実感したように思うのです。