京都橘対桐光学園戦(第91回全国高校選手権・準決勝)。

自分たちの時間帯を,ゴールという形に結び付けられるか。


 それとも,ゴールという形に結び付けられずに,自分たちの時間帯を手放してしまうのか。


 これらを分けるのは,恐らく「僅差」とされるものかな,と思います。しかしながら,その僅差を詰めることができないと,結果を引き出すのは難しい。


 ファイナル・スコアは,実力差をそのまま反映しているものではない,と思います。思うのですが,詰め切るべき要素を詰めることができたか,それとも詰め切れなかったか,という僅差を示しているようには思うのです。得点差から受ける印象よりもはるかに,緊張感のある試合だったように思います。


 国立霞ヶ丘での第2試合,京都橘と桐光学園の試合であります。


 第1試合から国立霞ヶ丘にいたわけではないので,天候条件の変化までは感じ取れなかったのですが,この時期にしては比較的,季節風の影響は軽微だったかな,と思います。スタンド上部であったり,ディスプレイ上部に掲揚されている旗がはためく,そんな時間帯もあるにはあったのですが,コーナーポールに取り付けられているフラッグが大きくはためく,そんなコンディションではなかったように思います。むしろ難しかったのは,視界に鋭く入ってきていただろう,西日ではなかったかな,と思うところです。


 では,桐光学園の印象からはじめることにします。


 京都橘が描いたゲーム・プランに,嵌り込んでいってしまったかな,と思います。


 立ち上がりから,どこか京都橘が仕掛けてくる守備応対に対して,「受けてしまっている」時間帯が見えていたように思います。ボールを保持している桐光に対するアプローチが鋭く,なかなか安定してポゼッションのリズムがつくれないし,ボール・コントロールがルーズになったときの対応にしても,京都橘の鋭い出足に対して,後手を踏んでいたように思います。そのために試合を動かす,という部分で先手を取れなかったようには思いますし,結果的にはこの先手を取れなかったことが,リズムを決定的に引き寄せきれなかった,そのひとつの要因になっているかな,と思います。


 とは言え,リズムを引き寄せられるかも知れない,という時間帯が,前後半を通じて複数見られたのは確かです。


 ちょっとばかりラグビー的な書き方をしますが,ボールを動かしながらエリアを高め,攻撃を分厚くしていくという形はしっかりとピッチに表現されていたかな,と思うわけです。思うのですが,フィニッシュの前段階,あるいは2ステップくらい前の段階がかなり窮屈になっているな,という印象が付きまとったのも確かです。シュート・モーションに入ろうとする選手,その選手には京都橘の選手がマークに付いていたし,フィニッシュで終わるとしても,ゴールマウスを的確に捉えるような形でフィニッシュへ持ち込む,そんな局面がかなり限定されてしまっていたように感じます。


 この窮屈さを,チームとしてどう打開するのか。


 戦術的な調整幅をどう広げるか,という課題もあるでしょう。けれど,あえてもっと早い段階での話をしたいと思います。桐光が狙う戦い方を効果的に抑え込むための約束事を徹底してきただろう京都橘に対して,真正面から勝負を挑んでいった,その姿勢は尊重されるべきものです。ならば,立ち上がりの段階から京都橘を自分たちが狙う戦い方へと引き込んでいく,そんな姿勢がもっと前面に出ていてよかった,と思うところです。自分たちの形に相手を引き込むための小さな要素,という部分で,詰める部分があるように感じられるところです。


 対して,京都橘であります。


 彼らが持っている強みと,相手が持っている強みを効果的に抑え込むための戦い方と。この2つの要素が,しっかりとかみ合った印象があります。対戦相手は,ボールを動かしながら相手守備ブロックを揺さぶる,という方向性を持っているけれど,京都橘は,縦への鋭さで相手守備ブロックの隙を突く,という方向性を持っているように感じます。シンプルに,縦への鋭さでエリアを大きく奪い,攻撃を組み立てる形です。この形をしっかりと表現するための,約束事が徹底されているな,と感じました。ボールを奪うための機動力,と言うよりは,縦にエリアを奪いに行くための機動力,フリーランを徹底しているし,ボールへの反応,その鋭さが試合後半にあっても落ちることがなかった。この試合を振り返ってみて,ひとつの鍵は縦を鋭く突きに行くためのハードワークにあったかな,と思います。


 そしてもうひとつ。守備ブロックが崩れなかったことも大きな鍵だったと思います。


 中盤で,桐光のリズムを抑え込めている時間帯は当然,守備ブロックのバランスが大きく崩れることはなかったわけですが,相手のリズムで試合が動いている,そんな時間帯もありました。その時間帯に,相手に釣り出される,あるいは引き出される局面が抑え込めていたこと,マークすべき選手を的確にマークし,フリーな形でボールを収めさせない,収めることができたにしても相手の間合いや距離でフィニッシュに持ち込ませない,という意識が徹底されていたように思います。この試合,京都橘は守備応対でリズムを構築していたように感じるところです。


 さてさて。第1試合では鵬翔がペナルティ・シュートアウトを制し(実を申せば,PK戦のタイミングだけは第1試合を見ることができています。そのことについてはのちほど。),決勝への切符を奪っています。どのチームが勝ち上がっても,初めての国立霞ヶ丘での決勝戦,であったわけですが,興味深いチームが勝ち上がってきたな,と思います。