対名古屋戦(12−34)。

狙うフットボールへの確信を揺るがせることなく,12シーズンを終わること。


 ここ数季できなかった,リーグ戦を「勝って終わること」であります。


 首位を視界に捉えながら,その視界を強く意識し過ぎたのか,対戦相手が施してきた「浦和対策」を凌駕できる余力を残していなかったのか,失速を経験してしまったものの,今季は新たなフットボールをチームに浸透させながら戦ってきました。このことを思えば,失速だけが今季の印象となってしまうのはあまりにもったいない。失速を経験したことよりも,新たなフットボールで浦和が再びステップを上がりはじめた,ということを再び印象付けるためにも,最終節での「勝ち点3」奪取は大きな意味を持つ,と思っていたわけです。


 そして,「勝って終わる」ことができた。最終節に積み上げることのできた「勝ち点3」が,アジアへの切符を再び引き寄せることにもなった。名古屋戦であります。


 さて。今回は対戦相手の戦い方を見ていくことからはじめます。


 立ち上がりの時間帯はイーブン,と言うよりも相手が主導権を取りにきたという印象がフェアかも知れません。中野田のLEDディスプレイに表記された相手のパッケージは,「浦和対策」を意識させる3でしたが,キックオフ段階のパッケージは4。浦和の強みを抑え込むことよりも,自分たちの強みを押し出そう,という意識で試合に入ってきたようです。確かに,局面ベースで試合を切り取ってみれば,「個」のチカラを感じる部分はあったようには思うのですが,その個が組織という基盤によって活かされている,という印象が薄かったのも確かです。戦術的な約束事よりも,シンプルにボールを縦に,という意識だけがピッチに表現されている。そんな時間帯が多かったような印象です。


 そこで,守備応対面であります。


 ボールを保持して,相手を食い付かせてから攻撃へ,という形に早い時間帯から持ち込めなかった,という部分はありますが,相手の戦い方に対する対策はしっかりと意識されていたと感じますし,その対策に隙が出る時間帯もほぼ抑え込めていた,と思います。ターゲットが明確ですから,そのターゲットを自由にさせないこと,ターゲットからのリフレクトに対する反応で後手を踏まないことが強く意識されていたことは,守備ブロック,そのなかでもコンビネーションでの守備応対という原則を外さなかったことからも強く感じ取れます。セントラル・ミッドフィールドとの関係性でアタック&カバー,という形であったり,最終ラインをスライドさせる(と言いますか,アウトサイドをSB的なポジションに下げて擬似的な4にするといいますか)ことでアタック&カバーの関係性を作り出して,相手の攻撃に対する守備応対を繰り返していました。


 また今節にあっては,ゾーンに対する守備意識と,ひとに対する守備意識という部分でバランスが取れていたような印象です。今季を振り返るに,守備面でのバランスが崩れているときは戦術的な約束事「だけ」に意識が強く傾いてしまっていて,ゾーンをブレイクするタイミングが失われている印象があります。対して今節は,深めのエリアに押し込まれる局面も確かにあるのですが,ゾーンへの意識からひとに対してアプローチを仕掛けていく,という部分とゾーンでの守備応対という部分の切り替えがしっかりと機能していたように感じます。立ち上がりから自分たちの形に相手を引き込む,という部分から見れば,決して入り方が理想的な試合ではなかった,とは思いますが,守備応対面でやるべきことが明確になっていたこと,加えてゾーンとひとへの守備,という切り替えでスムーズさが失われなかったことで,相手が狙うフットボールを抑え込めたことは大きい,と感じるところです。


 次に攻撃面であります。


 スローなビルドアップから攻撃を加速させていく,という形を立ち上がりの早い時間帯から表現できたわけではありませんが,縦を強く意識しながら流動性と機動性を,という攻撃を狙っていたように感じます。ボールを保持して相手を引きつけ,相手が前方にバランスを傾けた局面を狙ってボールを縦に,というのが今季のベーシックな約束事ですが,今節は相手が積極的に縦を狙ってきたために,引きつけて相手のバランスを崩す,というよりも,もともとスペースが狙いやすい状態にあった,という見方がフェアかな,と思います。


 この縦を狙う姿勢,守備ブロックとセントラル・ミッドフィールドがビルドアップから攻撃を加速させる,という局面でかなり明確なものになっていたかな,と思います。


 相手が中央にフタをかけるというような守備応対を取り立てて意識していなかった影響もあるかも知れませんが,パスを繰り出す側,そしてパスを引き出す側の双方にとって,タイミングを取りやすい局面が多かったような印象です。そして,ビルドアップがパスという選択肢だけではなくなっていた,というのも大きな要素だったように思います。相手のマークを外すワンアクションを挟んで縦を狙い,そこからパスを繰り出す,であったり,縦に攻め上がっていくことで相手のマークを引きつけていきながらトラバースという形でフィニッシュに関与していく,という形がしっかりと描き出せていた。守備ブロックを含めて,チームが縦方向の循環を強く意識していて,その循環が攻撃面で機能していたように感じます。


 この縦方向の循環,攻撃ユニットに負う部分も大きいと思います。


 相手守備ブロック背後にあるスペースを狙うにあたって,いわゆる“0トップ”が流動性と機動性を意識していた,というのが(45:00までの)鍵になっていたかな,と思います。イニシャルのポジション,あるいはエリアだけを意識するのではなくて,縦への循環を促すようなポジショニングであったり,横方向での循環を意識していたことで,ボールを効果的に(相手守備ブロックに脅威を与える形で)動かすことができていた,と感じます。先制点を奪った局面,だけでなく,今節に関しては比較的「手数」を掛けることなく攻撃をフィニッシュへと持ち込むことができていたように見ています。当然,相手が「浦和対策」を意識することなく,自分たちのフットボールで勝負を仕掛けてきたという側面があるとしても,縦への意識が強くピッチから感じ取れたのも確かです。失速時には,やはりチームから流動性であったり機動性が失われているような部分があって,キックオフ段階でのパッケージがそのままゲーム・クロックが止まるまで維持されているかのような,硬直した状態に感じられていたのですが,今節にあっては,今季狙ってきたフットボールがしっかりとピッチに描き出せていた,という印象が強く残っています。


 さてさて。今節の「勝ち点3」によってACLへの切符を奪取,であります。


 対ACL,という部分を冷静に考えれば戦力面での整備は必要不可欠な要素でありましょうが,それはまた別の話。


 1シーズン,狙うフットボールに対して真正面から取り組み,浸透を強く意識してきた結果として,3位というポジションを得られたこと,ACLへの切符を獲れたことは大きな収穫であるように思います。狙うフットボールに対しての確信を深めることができずに悪循環に嵌り込み,低空飛行を余儀なくされた昨季からどのようにして浮上を図るのか,という部分が今季は問われていたように思います。浦和が狙うべきフットボールを再び明確にしなくてはいけない,そんなシーズンだったように思うわけです。ここ数季主戦としてきた4から3へとパッケージを変更,約束事にしてもかなり明確なものとなるなど,組織としての意識付けが強くなった今季でありますが,その狙うフットボールに対しての確信が,数字面に結び付いたシーズンだったかな,と思います。来季以降,その狙うフットボールに対する確信をより強め,深めていくことが求められるはずですし,基礎構造をもっと強くすることが求められるように思います。