新国立競技場のことなど。

イメージ・スケッチから読み取れない要素。


 実際には,その読み取れない要素が重要だったりするように思います。国立霞ヶ丘がなぜ,陸上競技の国際大会をホストできなくなったのか,その大きな理由が「読み取れない要素」になると思うわけです。であれば,改築費用には読み取れない要素を整備するための費用も計上されていないといけないことになるはずです。


 達也選手の契約満了,というリリースもありましたが,まだシーズンも終わっていませんし,前節が最後の出場機会だとは思っていない(思いたくない)部分もありますので,今回はフットボールを離れまして新国立競技場のお話を書いていこう,と思います。


 2019年のラグビー・ワールドカップ(RWC)決勝戦の舞台,そして(招致活動が成功裏に終われば,という条件付きですけど)2020年のオリンピックの主競技場として位置付けられる,新国立競技場でありますが,そのデザイン・コンクールでUKに本拠を置く,ザハ・ハディド・アーキテクトの提案が最優秀賞を獲得した,ということであります。


 ロンドン・オリンピックですと,アクアティクス・センターのデザインを担当した設計家さんでありますが,なるほど曲線を特徴的に操る設計家さんだな,と思わせるものがありますし,相当にのびやかなデザインを提案しています。もともとの霞ヶ丘がどの程度の大きさであるのか,対してザハさんが描き出した競技場のシルエットがどの程度の大きさになっているのか,このイメージでは直接比較ができないのですが,現状の敷地だけではギリギリ,ひょっとすれば周囲のレイアウトを微調整しないと収まらないかも知れません。また,特徴的なルーフ形状が技術的なチャレンジになるかな,と思います。IAAFやIOC,そしてFIFAは観客のホスピタリティを意識して観客席をカバーするようにルーフを架けることを要求していて,このデザインもその要求に沿ったもの,と見ることができます。しかしながら,そのルーフを支持する構造はかなり複雑なものとなりそうです。加えて,通風性や光透過性も無視できる要素ではありません。フィールド,と言いますか,ピッチ・コンディションに直結する要素ですが,高温多湿から寒冷,というように気候面で大きな幅がある日本にあって,防風性や耐候性だけを意識した設計は難しいものがあります。いかにフィールド面に風を導き,その風を抜くか。そして,透過性を確保している(ように少なくともイメージからは受け取れる)ルーフ,その透過性を一定水準以上で維持するために,どんなメインテナンス手法を導入すべきか。


 というようなことを考え合わせると,このザハさんのアイディア,形にするのは相当な挑戦になるのではないかな,と感じます。たとえば,この建築デザインを実際のものとするためには,かつて代々木第1を手掛けたときのように,造船技術であったり架橋技術などを建築技術と巧みに組み合わせていかないと,ザハさんが描いたイメージを現実のものとするのは難しいかな,と思います。


 とは書いてみましたが。


 もうひとつ,個人的には気になっていることがあります。2020年の主競技場として位置付けられる予定,と書きましたが,「副競技場」をどう用意するのだろうか,という部分です。


 確か,JAAFの第1種公認要件(ほぼ,IAAFのクラス1要件と同じ要求基準だったはずです。)の中にも,副競技場の設置は明示されています。球技専用,という位置付けでもない限り,と言いますか,臨海地域への競技場新設をキャンセルして,国立霞ヶ丘の全面的な改修を考えているのであれば,副競技場をどのエリアに新設するか,が検討されていなくてはいけないわけです。かつては,東京体育館の敷地内にあるトラックがサブトラック,という位置付けだったようですが,いまはこの手法は要件を充足するものではありません。明治公園エリアを副競技場として整備するのか,それとも神宮第2を副競技場へと転換するのか,いろいろと検討されるのでしょうが,いずれにしても技術的に最も大きな課題は,この副競技場ではないかな,と見ています。