デルタウィングの2012ル・マン。

不完全燃焼な終わり方,であります。


 前面投影面積を徹底的に低減,空力的に詰めた設計であったこと,ブラックを基調とするカラー・スキームであることなどから視認性に問題があった,であるとか,TS030の後方視界に問題があった,とか。確かに,そういう側面もあるかも知れません。本山選手に中嶋選手が担当していたスティントで発生したこと,国産勢(と言い切るにはちょっとした躊躇もありますが)同士であること,などなど,偶然にしては偶然が多すぎるとも思いますが,それでもル・マンでは発生する可能性が決して低くはない,単なるレーシング・アクシデントであった,と思っています。


 でも,不完全燃焼な終わり方なのは確かです。であれば,ぜひとも「話の続き」をAARやハイクロフト・レーシング,そしてニスモや欧州日産には書いてほしい,と願っています。


 ル・マンの話,その第2回目としてデルタウィングについて書いていこう,と思います。


 スポーツ・プロトタイプとGTマシンが混走するレースに,フォーミュラが入ってきた。


 デルタウィングのコーナリング姿勢を見ての,個人的な印象です。クルム選手にしても,本山選手にしてもフォーミュラ的な挙動を示す,というコメントを残してくれていましたが,オンラインでの映像を実際に見てもやはり,フォーミュラ的なコーナリングだな,と感じたわけです。物理的にフロント・セクションがLMP勢とは比較にならないほどにナローで小さい,という部分が大きく効いているのだろうと思いますが,ノーズの入り方が確かに鋭いな,と感じるのです。また,ローリングの感じも,外側から見る限りではスポーツ・プロトタイプではなくて,フォーミュラにより近い。もともとフォーミュラの新たな姿を,という発想でベン・ボールディが設計したマシンで,シングル・シーターだったマシンですから,当然と言えば当然なのですが,このコーナリングは確かに武器だな,と思いました。


 反面,今回の参戦で課題なのかな,と思ったのがエンジンでした。


 環境対応を意識して,あえて小排気量であるDIG−Tを選択したのだろう,と思いますが,LMP2と互角に戦うにはちょっとばかりアンダーパワーであったように感じます。この非力さが,コーナリングで出てしまったかな,と見ているのです。


 コーナへの「侵入」には鋭さを感じるものの,「脱出」に鋭さを持たせることができていない。コーナを速く脱出しようと思えば,可能な限り速度を落とさずにコーナに飛び込み,その速度を殺さないようにラインを取って脱出していかないと,タイムを削ることができない。ラインが違う,という印象は恐らく,シャシー特性もありましょうがエンジンの出力特性であったり,ピークパワーの問題もあったのかな,と思うわけです。


 とは言え,小排気量でのチャレンジは,すごく興味深いものです。先頃ル・マンへの復帰をリリースしたマツダは,V型エンジンをLMP2に供給するのではなく,CX−5にも搭載されているスカイアクティブ−D(つまりは,低圧縮比ディーゼル)を供給するのだとか。LMP2にあっても,ダウンサイジングはひとつの流れになってきつつある,とも言えそうなのです。であれば,日産にはぜひとも,このプログラムを継続してほしい,と思います。たとえば,DIG−Tだけではなく,LMP2規定に合わせたエンジンを搭載(マツダが見せた方法論を踏襲するならば,X−トレイルに搭載されているクリーン・ディーゼルをレーシング・ディーゼル化する),という可能性を含めてレーシング・マシンとしての可能性を追求してほしい,と思っています。