2012ル・マン24時間耐久レース(LMP1版)。

確か,数季前だったかと思いますが。


 アウディも,自分たちからリズムを崩したことがあります。ライバルの後手を踏んでしまったから,ではあるのですが,その後手はサルテへとマシンを持ち込んだ段階から始まったこと,ではないでしょう。もっと前の段階,新たなマシンを煮詰め,戦えるマシンへと仕上げていく準備段階でいい準備ができていなかったから,ドライヴァのみならずチームが焦りを見せてしまった。


 同じことがトヨタに起きていた,と見るのがフェアなのかな,と思うのです。


 フットボール方面で積み残しになっている話もありますが,今回はフットボールを離れまして,こちらのニュース記事をもとに,ル・マンの話を書いていこう,と思います。思いますが,相変わらず情報が多い(と言うか,長く書く傾向に拍車がかかる話である)ので,昨季と同じようにLMP1とLMP2,そしてグループ56枠の話を分けて書いていこう,と思います。まず,LMP1であります。


 さて。まずはトヨタから振り返ってみましょう。


 予選段階までを見る限り,アウディに対してある程度いい勝負を挑める状態にまで仕上げてきたのかな,と思いましたが,決勝を見るとやはりリードタイムが不足してしまっていたのだな,と感じます。この記事をまとめられた島村さんも指摘していますが,トヨタの開発スケジュールは大幅にズレてしまっていました。テスト・セッションの最中にマシンがクラッシュしてしまったり,その影響でマシン製作のスケジュールまでが影響を受け,結果としてスパ・フランコルシャンへの参戦をキャンセルすることになったり。それでも,ル・マン本戦に向けた準備が動いていればそれほど大きな問題にはならなかったのかも知れませんが,実際には2台目のマシンが仕上がったのはテストデイ直前だった,とのことです。これでは,マイナー・トラブルを潰しきれない状態でサルテに乗り込まざるを得なかったのではないかな,と感じます。準備をし尽くした,という感触を得られないままに本戦を迎えてしまった,しかもハイブリッド最上位(つまりはポール)をアウディに奪われた,という意識があったとすれば,ドライヴァだけでなくチーム全体に焦りという要素が入り込んでいたとしても,それほど不思議な話ではありません。


 他車との接触でサルテから姿を消してしまった,という部分を見て,かつてアウディが準備不足でニュー・マシンを持ち込んだときとほぼ相似形を描いてしまったように感じたわけです。であるならば,もっと徹底した準備をして,来季のサルテに戻ってきてほしい,と思います。来季,アウディが焦りからレース・オペレーションに綻びを見せるほどの徹底的な準備をしてほしい,と思うところです。


 対して,“e−tron”(ハイブリッド・システムによってクワトロを実現させたスポーツ・プロトタイプ)を1−2体制でフィニッシュ・ラインにまで持っていったアウディであります。


 彼らにしても「混走」の問題から逃れることはできませんでした。それでも,レース・オペレーションに焦りを感じるような事態には陥らなかったように感じます。主導権を持ってレースを動かせていた,という部分もあるか,と思いますが,失敗を含めた「経験」が生きているのだろう,と思います。


 今季は,新たな技術的要素をレース・トラックへと持ち込んでいます。当然,トラブルが発生する可能性も昨季に比較すれば高いはずです。ここまでを取り出せば,アウディトヨタと同じ条件です。しかしながら,トラブルに対する意識が違っていたかも知れない,と感じるところです。


 やはり,ヨーストの存在感なのかな,と思うところなのですが,トラブルを「発生するもの」と考えているように思うのです。潰しておくべきトラブルもあるけれど,避けきれないトラブルもあるのだ,と。特にル・マンは速度域が違うマシンが同じコースを走っているのですから,レーシング・アクシデントの可能性もかなりのものです。接触程度にはじまり,大規模な事故もあり得る話です。リスク・マネージメントとして,ドライヴァに指示が飛んでいる(プッシュするなとは言わないが,決してマージンを削ってまでプッシュするな,速度域が低いバックマーカーには気をつけろ,など)だろうことは当然として,ある程度のアクシデントまではピットレベルで対応できるように準備をしておく,という意識が徹底されているように思うのです。これはアウディ,というよりも,ポルシェ時代からの経験を蓄積しているヨースト,彼らの知恵ではないか,と見ています。


 最後に,プライベティアであります。


 まずは,童夢にとっては厳しいレースになってしまったかな,と思います。LMP2の中位でも350周前後をクリアしていますが,今季の童夢は203周をクリアするにとどまっています。それだけ,トラックよりもピットにいた時間が長い,ということになるかな,と思いますが,シャシーの持っている能力がこの順位,というわけではないだろう,とも思っています。ボスである林さんがどう見るか,ですが,個人的にはジャッドではないエンジンを搭載してみては,と思ったりもします。


 続いて,トヨタの存在感を見せたレベリオン,ではなくて,JRMであります。


 今季,HPDエンジンを搭載するLMP1を走らせているチームでありますが,昨季まではニスモとのパートナーシップでGT−RをFIA−GT1選手権に持ち込んでいたチームです。彼らは国産車メーカ各社とのパイプが相当に太いように感じます。実際,欧州でGT−R(FIA−GT3仕様)販売の窓口になっているのは彼らですし,開発を担当していたのも彼らです。日産との関係も決して終わっているわけではなく,HPD(つまりはホンダ)との関係も悪くない。絶妙な距離関係を維持しつつ,同時にレース・オペレーションでは経験豊かなレース屋としての存在感を存分に示す。今季のル・マンは彼らにとっても,なかなかの成果なのではないかな,と見ていますし,来季はひょっとすると,プライベティアというよりは,どこかのファクトリーのサテライト,という感じになるかも知れない,などと見ています。