第3セッション終了(ル・マン24時間耐久)。

この段階までは,「速さ」のお話しです。


 ここから,「強い」のかどうか,が問われることになります。

 
 もちろん,本戦にあっても「速さ」は重要な要素です。けれど,耐久レースは早いだけで乗り切れるわけではありません。レーシング・マシンが持っている強さも問われることになるし,レース・オペレーションを担当するチームの強さも問われることになるのです。速さと強さを,どれだけ高い水準でバランスさせられるか,が耐久レースでの鍵かな,と思うのです。


 ポールを奪ったアウディスポーツ・チーム・ヨーストは,チームとしての強さを持っているのは間違いありません。その強さを,新たに投入される“e−tron”においても表現できるか,が問われるのだろう,と思います。そして,トヨタ・レーシングはどこまでアウディの脅威になれるのか,という意味での強さを表現してほしい,と思います。ポールとのタイム差が,本戦を意識してのタイム差であるならば,確かに今季は面白くなるかも知れない,と思ったりします。


 さて。今回はフットボールを離れまして,オートスポーツさんのニュース記事をもとに,ル・マン24時間耐久のお話を書いていこう,と思います。


 予選の第3セッションが終わって,グリッドが決まった,という段階でありますが,さすがに経験豊かなレース屋さんのチームの仕事だな,と感じます。アウディ・チームを実際に動かしているヨーストであり,トヨタ・チームのオペレーションを担当しているオレカであります。


 今季のLMP1クラスは,ハイブリッド・システムを搭載するTS030とR18e−tronクワトロが勝負権を持っているマシンと位置付けられていますが,公式予選の各セッションを見る限りヨーストとオレカはe−tronクワトロとTS030を戦えるレーシング・マシンに仕上げてきた,と見ることができるかな,と思います。であれば,楽しみなのは,どこまで「強い」マシンに仕上がっているか(速さを安定して表現できる状態にまで,マシンを煮詰められているかどうか),という部分であります。アウディが掛けた保険(と,ある意味見ることのできる),R18ウルトラが必要ないくらいの戦いをトヨタと展開してほしい,と思っているわけです。


 と,まとめにかかりましたが,今季はこれ以外にも注目している部分はありまして。


 まず,ペスカローロがオペレートする,童夢さんであります。童夢さんは長く,ル・マンへと挑戦し続けてきたマシン・コンストラクターでありますが,振り返ってみるとどうも,レース屋に恵まれていなかった,という印象が残っています。しかしながら今季は,ル・マンの経験が豊かなペスカローロがオペレーションを担当しています。これは大きいな,と思うのです。そして,LMP1のガソリン勢を眺めてみると,首位に立っているストラッカ・レーシング(HPD製エンジンを搭載するマシン)の4秒落ち,トヨタ・エンジンを搭載するレベリオン・レーシングで見ると2秒差程度,でありますから,ガソリン勢首位を狙える位置に付けているのではないかな,と見ています。24時間という時間枠の中で,なかなかノントラブル,というわけにもいかないかな,とは思いますが,どれだけ大きなトラブルを出さずに24時間を戦いきれるか,が,結果としてガソリン勢首位への勝負権を引き寄せられるか,にかかってくるのかな,と思っています。


 最後に,デルタウィングであります。


 予選順位は29位と,なかなかのポジションではないかな,と思います。と同時に,このマシンでは予選順位での「速さ」のインパクトではなくて,24時間を戦いきれる,という「強さ」のインパクトをぜひ表現してほしい,と思います。サルテを走っているデルタウィングを見ると,スポーツ・プロトタイプの挙動,と言うよりはフォーミュラ的な挙動でコーナを抜けていることが見て取れます。であれば,個人的に興味があるのは,どれだけのタイア攻撃性を持っているのかな,という部分です。タイアに対して優しいライドが実現できているとすれば,ルーティンを長くセットすることができるし,ドライブを担当するドライヴァにとっても優しいマシンになっている,と見ることができるかな,と思うのです。


 いずれにしても。いままでのフォーミュラとも,スポーツ・プロトタイプとも違う設計思想で仕上げられたレーシング・マシンが,24時間を戦いきることができるならば,いろいろな可能性が見えてくるように思うのです。そして個人的には,その可能性をぜひとも見てみたい,と思っています。