本山選手、デルタウイングでル・マンへ。

確か,ガレージ56枠のゼッケンは0のはずですが。


 最終的にアナウンスされたラインアップを見ると,このゼッケン0が実際には,ゼッケン23なのではないかな,と思ったりします。もちろん,日産が主導しているプロジェクトではありませんが,このプロジェクトをどれだけ重要なものとして位置付けているのか,透けて見える陣容であるのも確かではないかな,と思います。


 今回はフットボールを離れまして,日産のプレスリリースオートスポーツさんのニュース記事をもとに,デルタウイングの話を書いていこう,と思います。


 ちょっとばかり,デルタウイングのことを復習しますと。


 もともと,オール・アメリカンな体制の話でした。マシン設計を担当したのは,ローラ・カーズに在籍していたことがあるベン・ボールディ。で,マシンの製作を実際に担当しているのがオール・アメリカン・レーサーズ(ペンスキー・レーシングのような,レース屋であり技術屋集団ですね。)で,レース・オペレーションはHPDとのパートナーシップで知られたハイクロフト・レーシングであります。さらに,このプロジェクトにはドン・パノスもコミットしているわけですから,エンジンを含めてオール・アメリカン,ということになるのかな,と見ていたわけです。


 すると,アンテナの鋭い欧州日産が,DIG−Tエンジン(1.6リッターの直噴ターボ,でありますから,恐らくジュークに搭載されているエンジンと基本は共通,でありましょう。)の供給、という形でこのプロジェクトへのコミットを表明した,ということであります。


 当初,デルタウイングのドライヴァにはマリーノ・フランキッティ選手とミハエル・クルム選手が決定していて,確かセブリングで実施されたテスト・セッションには彼らが参加していました。今回,彼らに加えて本山哲選手の名前がクレジットされた,というわけであります。要は,GT500(このマシンもある意味,スポーツ・プロトタイプですし,かつての言い方をするならばシルエット・フォーミュラですね。)のコンビにフランキッティさん,という形になったわけです。この陣容を見ると,高島町方面,と言いますか,ニスモの意向も相当程度反映されているように感じますし,欧州日産が出発点となったデルタウイング・プロジェクトへの参加が,日産本社も含めてのコミットメントへと大きく変化してきているかな,という印象です。従来のスポーツ・プロトタイプ,そのフォーマットに拘束されることなく,将来を見据えて開発されたレーシング・マシンでサルテを戦う,というプロジェクトに,日産本社も含めて魅力を強く感じているのかも知れない,と思うわけです。


 そんなデルタウイング,どんなライド感なのか,というのがオートスポーツさんの記事に書かれております。


 ごく大ざっぱにまとめてみますと,(フォルムからの印象通り,ではありますが)フォーミュラ的な挙動を示すようです。戦闘機のような鋭いノーズ,そのノーズに収まるような形でフロント・タイアが取り付けられていますから,本山選手としても,曲がってくれるのかどうか,という感覚があったようです。しかし実際には,速度域を上げていくと,ステアリングが重く感じられるようになるのだとか。外側から見る限り,垂直尾翼をのぞいて空力的なディバイスは取り付けられていなくて,ボディ下面で有効なダウンフォースを発生させている(ということは,ロータス78のようなアイディアを,ボディ下面に落とし込んでいるはずです。),とのことですが,有効なダウンフォースが発生している,ということのようであります。


 とは言え,徹底した軽量化を意識しているからかな,と思いますが,メカニカルな部分でまだまだ課題が残っているようでもありますし,サルテで存在感を示し続けるためにはクリアすべき部分がある,ということのようでもあります。


 かつて,フォーミュラと技術規則,エンジンについての技術規則が共通化されたとき,スポーツ・プロトタイプとフォーミュラとの距離感は急激に縮まってきた,ように映りました。実際,当時スポーツ・プロトタイプの設計を担当していたロス・ブラウンアンドレ・デ・コルタンツはフォーミュラ的なアイディアを持ち込んできました。たとえば,サスペンション・ジオメトリーであったり,カーボン・モノコックのデザインであったり。しかしながら,スポーツカーは長く,ブラウンさんやコルタンツさんが書き上げたフォーマットから動かなかった,と見ることもできます。そんなスポーツ・プロトタイプの文法に,このデルタウイングがどれだけのインパクトをもたらすことができるか。新たなフォーマットとして意識してもらえるかどうか。そのためにも,できるだけ長くサルテを走ってほしい,と思いますし,であればしっかりとテストで課題を潰していってほしい,と思います。