ポスト・シーズンの怖さ(NHL 2012Playoffs・#1)。

怖さを魅力と言い換えることもできますが。


 魅力の大きさは,怖さにしっかりと比例している,ようには思えます。リーグ戦とは違う,カップ戦独特の魅力はやはり,この怖さにあるように思いますし,それは決して短期ではない,アメリカンなポスト・シーズンにあっても当てはまる話,だと思うのです。


 ひさびさにアメリカン・スポーツの話,毎年いくつかのエントリを上げておりますが,ポスト・シーズンが動き出したNHLについて書いていこう,と思います。タイトルに#1,と書いたように,今季はタイミングを捉えながらポスト・シーズンを追い掛けて,最終的にスタンレー・カップをどのチームが奪ったか,までをトレースしていこう,と思っています。


 さて。ポスト・シーズンであります。


 いわゆる「1回戦」に相当する“Conference Quarterfinals”は,最大で7ゲームが用意されるホーム・アンド・アウェイな短期決戦(要は日本シリーズと同じトーナメント形式ですね。),であります。試合数だけで見れば,単純なカップ戦とは比較にならないのですが,それでもカップ戦であることには違いなく,であれば,“UPSET”も当然にあり得る話,です。


 そして,今季はバンクーバー・カナックスが,“UPSET”の当事者になってしまった,というわけなのです。今回は,カナックスにフォーカスして書いていこう,と思います。


 カナックスは,恐らく最も安定した実力を持つチームではないかな,と思っています。アメリカン・スポーツでは必ずしもレギュラー・シーズンの成績は重要視されていませんが,カナックスは2季連続で“Presidents' Trophy”を奪っています。つまり,レギュラー・シーズンで最も多くの勝ち点を奪ったチームではある,のです。ですけれど,NHLではこれ「だけ」だと不足なのも,また確かなのです。


 “Champions”(とは書きましたが,実際にはカップ・ウィナー的な側面が相当に強いかな,と思うのは確かですね。)に与えられる,“Stanley Cup”。


 このカップを引き寄せるには,繰り返される短期決戦で,しっかりとチームを加速させることが求められるわけです。チームのチカラ,戦力的な基盤も当然に大事ですが,どう短期決戦でリズムをつかんでいくか,という部分もかなり重要であるように思うのです。


 しかしながら,カナックスのファースト・ラウンドを振り返ってみると,対戦相手であるロサンジェルス・キングスの後手を踏んだまま,その後手をなかなか解消できないままに追い詰められてしまった,という印象を持ちます。それだけ,キングスはカナックスの戦い方を研究し,カナックスの強みを消し去るためには何が求められるのか,彼らをリズムに乗せないためには何をすべきか,徹底してきたのだろう,と思うわけです。長期戦であれば,最終的にチームの総合力が見えてくるように思うのですが,短期決戦では決してチームのチカラがそのまま,結果へと反映されるわけではありません。的確なスカウティングに,スカウティング結果を戦術へと落とし込み,相手の強みを確実に消し去る,そんな戦い方がリンクに描けるのであれば,“UPSET”の可能性は決してゼロではなくなります。


 そして,自分たちの強みを抑え込まれたチームが,心理的な悪循環に嵌り込んでしまって,逆襲のきっかけをつかめないとしたら。そんな図式に,今季のカナックスは見事に嵌り込んでしまった,と感じるわけです。


 プレジデント・トロフィーを掲げたチームは,必ずしもスタンレー・カップを掲げられるわけではなくて,むしろ掲げられないケースが多い。過去の流れを見る限り,そんな見方もできなくはありませんが,反面で魅力的なチームがプレジデント・トロフィーを獲ってきていることも確かだし,コロラドアバランチデトロイト・レッドウィングス(も,今季はファースト・ラウンドで敗退であります。)などは,“Cup Double”(と書くと,欧州のフットボール的であって,たとえばFAカップカーリングカップの2冠のような感じがしますが。)を実際に達成しています。


 個人的には,カナックスが“Cup Double”を達成したチームとしてアバランチやレッドウィングスなどと並んでクレジットされることを(今季は当然無理ですから,来季以降の話ですけども)期待したいところであります。