BMWになるアウディ(ドゥカティ買収)。

数年前までだと,「になる」と言い切るのはおかしかったでしょう。


 しかしながら,SUVなどの展開などを見ていて,「なる気」があるように感じられました。真っ向勝負を挑む気だ,と。そして今回,その印象はさらに強くなったように思うのです。


 今回は,フットボールを離れまして,経済紙的なバイクの話を書いていこう,と思います。ドゥカティをアウディが買収する,という話(ロイター)であります。


 まずは,ちょっと経済紙的に考えてみます。


 アウディが,どのメーカをライバル視しているのか。タイトルにも掲げましたが,BMWであることが,この買収劇から明確になったように思います。しかも,BMWに対して真っ向勝負を挑み,勝とうとしている,ということが見えてきたように思うのです。


 たとえば,両社の車種展開を見てみると,どれだけ両社がお互いを意識しているか,透けて見えてきます。最も分かりやすいのが,SUVとスポーツ・セダンでしょう。まずSUVですが,BMWはローバー社を傘下に収めていた時期に,ランドローバーを通じてSUVについての基礎技術を吸収,オンロードを強く意識したプレミアムSUVとしてX5を投入します。その後,Xレンジを拡充していくわけですが,アウディはこのXレンジに対応する形で対抗車種を投入していきます。逆に,BMWはA5スポーツバック,そしてA7に対抗する形で,新たなスポーツ・セダンを市場投入していきます。と,BMWアウディのモデルレンジは見事なまでに重なり合っていて,商品コンセプトも“スポーティ・プレミアム”という部分で重なり合っています。重なり合っていない部分は2輪部門だけだったのです。そして,今回の買収が当局の承認を受ければ,2輪部門も含めて完全に,モデルレンジが重なり合っていくことになるわけです。


 では,BMWモトラッドとドゥカティが重なり合う要素を持っているのか,考えてみます。


 現時点において,本気でWSBにコミットしている,という意味では重なり合っている部分もある,とは言えるでしょう。ドゥカティは古くからWSBにLツインを持ち込んでいて,レーシングな環境から逆算するような設計(端的に指摘すれば,排気量設定です。技術規則で許容される最大の排気量設定になっています。)をしてきたメーカです。ではBMWはどうだろう,と考えると,数年前までは決して,レーシングな世界だけを意識したバイクづくりをしていたわけではないように思います。どちらかと言えば,ツアラーに軸足を置いていたように思うのです。強くバンクさせる必要がないからこそ,ボクサー・エンジンを個性とし続けることができたのだろう,と。


 それでは,アウディのようにBMWキラーばかりをドゥカティが用意することになるのかな,となりますが,そうはならないだろう,と思います。


 たとえば,BMWが傘下に収めているハスクバーナ,彼らのマシンがBMW的になったでしょうか。レーシングな環境とごく近いオフローダー,と言いますか,モタードとしての個性は相変わらず維持されていますし,その個性こそ,ハスクバーナを支持するひとたちの嗜好でもあるはずです。であるならば,ドゥカティというメーカにこだわりを持つドゥカティスタたちの嗜好を,アウディはしっかりと理解していなくてはいけないし,個性を尊重したコントロールをしていかなくてはいけない,と思うのです。


 と考えるに,ドゥカティがらしさを失う心配はないかな,と。むしろ,フィナンシャルな部分での不安定性が解消される,というメリットがありましょうし,であるならば,motoGPマシンの開発速度が上がる,という副次効果がある,かも知れません。