対神戸戦(12−06)。

スコアレスで折り返したとして,焦りが見えていないのだから問題なし。


 そんな印象を,相手守備ブロックの組み方から持ちました。自分たちの攻撃を仕掛けるために,相手からボールを奪わなくてはいけない。そんな発想の守備応対ではなくて,むしろ浦和の攻撃から逆算した守備ブロックの組み方をしてきたように思うのです。浦和の攻撃ユニットに対して,しっかりとしたマーキングを,という意識だと思うのですが,この相手の意識が結果的に,後半にリズムをつかむきっかけとして作用してくれたのではないかな,と感じます。


 今季は2日以上遅れて,が標準仕様になりつつありますが,中野田での神戸戦であります。


 今回は,相手がどのようなゲームプランを描いてきたのか,を振り返ることからはじめよう,と思います。前半,早い段階でのゲーム・プランは高いエリアからボールを奪いにかかる,という戦術イメージだったように感じます。感じますが,相手は「高いエリア」で素早くボールを奪ってトランジションを,という意識だけでこの試合に入ってきたわけではなかったようです。実際,浦和の攻撃ユニットをどう抑え込んでいくか,という要素を出発点とする戦術イメージへと切り替えてきたな,と感じます。端的に書くならば,伊野波選手のポジショニングです。伊野波選手のポジショニングを,セントラル・ミッドフィールドではなく,最終ライン,特にCBで描かれるラインに下げてきたのです。中野田のディスプレイに表示されていたスターター,そこから読み取れるパッケージは4ですが,実際に相手がピッチに描いていたのは3,あるいはSBをも含めて考えるならば5である時間帯が,前半途中からは増えていたように感じるわけです。


 相手は,中盤,あるいはさらに低い位置での数的不利を嫌って,伊野波選手のポジショニングを変えてきたのだろう,と思うのですが,守備バランスを意識すれば逆に自分たちが表現すべき攻撃面がなかなか出せなくなる,ということにもなります。決定的に守備バランスが崩れる,そんな局面を抑え込むことはできるかも知れないけれど,同時に攻撃面で「らしさ」を出すのは難しくなる。


 「勝ち点3」を積極的に奪いに行くためのゲーム・プランではなく,「勝ち点1」確保をファースト・プライオリティとするゲーム・プラン,に感じられたわけです。


 そんな相手の戦い方に対して,冷静に対処していたという部分が今節の鍵,そのひとつではないかな,と思います。相手守備ブロックがボールに対してアプローチを仕掛け,守備バランスを崩す,そのタイミングを狙いながらボールを動かし,相手が大きく守備バランスを崩して仕掛けてこないとなれば,冷静に攻撃を組み直す。リズム,という意味では確かにスローですが,このスローな動かし方ができていた,というのが鍵になっているように思うのです。また今節は,攻撃面でのアンバランスさが整いつつあるように感じます。それまでは,アウトサイドからの攻撃が一方に偏る時間帯がかなり多かったのですが,今節に関してはアウトサイドの双方がしっかりと攻撃面で機能していた。イニシャルで高い位置を取れた,というのは相手が低く構える形へとプランを切り替えてきた,という部分と無縁ではないように思いますが,その部分を差し引いてもポジティブな変化だな,と思うところです。


 ただ,試合後の記者会見,その質疑応答にも指摘されていた部分ですが,“Unforced Error”(いわゆるテニス用語ですが,単なるミス,と言うよりもより明確に意味が取れるように思うのです。)が見えていたのはクリアすべき課題でしょう。相手が厳しくプレッシャーを掛けているわけではないエリアから繰り出されるパス,そのパスが相手に対するプレゼント・パスになってしまう。ビルドアップ,その初期段階を受け持つべきエリアからのパスが,“Unforced Error”としてカウントされてしまう。今節に関しては,このエラーがクリティカルなミスとなることはありませんでしたが,この回数を最小限に抑え込むことは,狙うフットボールをより熟成させていくためにも大きな要素かな,と思います。


 対して後半は,自分たちが狙うべきフットボールをしっかりと表現できたのではないかな,と思います。そしてここ数季,なかなか浦和が表現できずにきた要素であるセットピースからの得点奪取を,「勝ち点3」と結び付ける形で表現できたことが,最も大きな要素だろう,と思います。


 CKからの先制点奪取によって,相手は「勝ち点1」を確保するためであるとしても攻撃を仕掛けざるを得なくなるわけです。相手はボールに対してより鋭くアプローチを仕掛けていかなくてはならないし,であれば守備バランスが崩れる時間帯が増えてもくる。ビルドアップから加速して,という仕掛け方ではありませんが,カウンターを仕掛けていくことのできる時間帯が増えていったように感じます。さらに,今節はFKからの追加点,しかも復活が待ち望まれていた“エクストラ・キッカー”(と書きましたが,要はマルシオ・リシャルデス選手でありますな。)からの追加点であったことが大きな意味を持ってくれるように思うのです。


 ここ数季の浦和は,セットピースという要素が決定的に欠けていました。そのために,相手に主導権を握られかけている試合を,自分たちへと引き戻すきっかけをつかむことができなかったし,もっと端的に書いてしまえば,「勝ち点3」を奪い取るであったり,「勝ち点1」を確保することができなかった。たとえば,機動性を高いレベルで表現し続けることが難しい時期,試合を決定付ける要素として,セットピースはより大きな意味を持ってくるはずです。最小得点差の試合をイーブンな状態へと引き戻したり,イーブンな状態から「勝ち点3」へと勝ち点を積み増したり。この要素が埋まりつつある,というのは,狙うフットボールをより徹底して熟成させるためのリードタイムを確保する,という意味でも大きい,と思うのです。


 さてさて。「勝ち点3」に直結したのは後半ですけれど。


 チーム・ビルディングをより熟成させるにあたって,大きなヒントとなるのは恐らく,前半かも知れないな,と思います。引いて構えてくる,のみならず,無理にボール・ホルダーに対してアプローチしてこない相手,高さという物理的な部分で有利な部分を持っている相手に対して,どのような対処法を描き出していくべきか。よりスローな,相手をある意味「誘う」ようなポゼッションが意味を持ってくるのかな,と思いますし,そこからのギアチェンジで,どれだけ多くのフットボーラーが同じイメージをピッチに描き出せるだろうか,と。


 いずれにしても。ディテールにかかわってくるようなフットボールの話を,シーズン序盤の段階で書ける,というのはそれだけでもしあわせなことだな,と思います。