帝京大学対六甲ファイティングブル戦(第49回日本選手権・1回戦)。

接点から,ボールを引き出して攻撃を再び動かし始めるまでの時間。


 全体から考えるならば,小さな要素ではあります。ありますが,この試合では「流れ」が変わるきっかけが,この小さな要素から見えていたようにも思います。


 ラグビー日本選手権,その1回戦(第1試合),であります。とか言いながら,実際には2回戦が日曜日に迫るタイミングで,遅筆堂の面目躍如どころではないタイミングであります。ありますので,手短に,かつマッチ・プレビュー的な要素を織り込みながら進めていこう,と思います。


 では,まず六甲の印象から。


 自分たちのリズムでゲームを動かせた時間帯が,ごく立ち上がりの時間帯に限定されてしまった。このことが,実質的に前半終了の段階で試合を決められてしまった要因かな,と感じます。そして,守備応対面で,時間退場が大きな影を落としてしまったようにも感じます。


 守備応対,と言いますか,ボール・コントロールをどう取り戻すのか,という部分で,帝京と六甲には残念ながら差があった,と感じます。その差を立ち上がりの時間帯,六甲は「時間をかけさせる」という部分で埋めていこう,と意識していたように思います。そして,実際にごく限られた時間帯,六甲は帝京のリズムでボールを出させることがありませんでした。立ち上がりの時間帯のように,スローに,ロースコアな展開に持ち込めれば,という意識があったのかな,と思いますが,ファースト・ディフェンスという部分と時間退場が絡み合ってしまったような感じです。アソシエーション・フットボールでも言える話ですが,ファースト・ディフェンスがしっかりと機能すると,「その先」の守備応対が分かりやすくなります。やるべき仕事が絞り込めるわけです。しかしながら,ファースト・ディフェンスの段階で帝京をつかまえられなくなってくる。その先の守備応対がスムーズにつながっていかなくなるのです。


 加えて書けば,時間退場によって,ディフェンス・ラインに物理的な「隙間」ができることになります。カバーしなくてはならないエリアが広がってしまう,と言うことになりますし,そのときにボール・キャリアに大きくファースト・ディフェンダーが引っ張られるようになると,その隙間はより広く広がってしまうことになります。その隙間を,帝京は見逃すことがなかった。六甲にとっては,あまりに厳しい状態の前半だったかな,と思いますし,その時間帯があまりにも大きな鍵になってしまったように感じます。


 続いて,帝京の印象であります。


 それまでの帝京の戦い方とは違って,縦への鋭さであったり,機動力を前面に押し出した戦い方が印象に残っています。恐らく,早い段階で六甲のゲーム・プランを見て取ったのだろうな,と。スローな展開にお付き合いしてしまっては,相手が描くゲーム・プランに嵌り込んでしまうことにもなりかねません。それならば,相手の守備応対リズムに合わせるようなボールの動かし方,ではなくて,自分たちが主導権を握ってボールを動かしていこう,と。


 当然,背後には接点では負けない,という意識があるはずですし,「個」に対する信頼もあるでしょう。立ち上がりこそ,六甲のリズムで接点での攻防を動かされてしまった(思うに,心理面でちょっとだけ,六甲の後手を踏んだのかも知れないな,と感じています。)けれど,次第に落ち着いて相手が見えるようになった,ということかな,と思いますが,接点からのボールの引き出しがスムーズになり,自分たちのリズムでボールを動かすことができてきます。そしてこの試合では,ボールを展開する,というテーマを徹底してみせた。帝京にとって,戦い方の幅が広がるきっかけが,この1回戦だったかな,という印象です。


 では,この「1回戦仕様」のラグビーが2回戦に引き継がれるだろうか,とみると,それもちょっと違うのかな,と感じます。ブレイブルーパスの守備応対(というよりは,圧力というのがより正確かも知れませんが。)は,かなりのものです。六甲にコントロールされかけた,立ち上がりの時間帯,そんな時間帯がスケールアップする形で継続する,と見るべきかな,と思います。であれば,第2試合でジュビロが表現してみせた要素(のちほど書こう,と思います。)をリファレンスにしながら,帝京らしさと繋ぎ合わせていく作業が必要なのかな,と思います。2回戦の段階で,ブレイブルーパスというトップレベルのチームと対戦する,というのもなかなか厳しいトーナメント・ドローだな,と思いますが,同時に大学チームがどこまでやれるのか,はっきりと距離が見て取れるのも確かだろう,と思います。


 あまりにも大きく,そして高い「2回戦の壁」ですが,必要以上に大きくその壁を感じることなく,言いゲームを展開してもらいたいな,と思います。