ダークサイド。

「倶楽部」に緊張感を持ち込んでみせた。


 “CLUB”を漢字表記すると,確かに「倶楽部」となります。しかしながら,フットボール・クラブという存在と,倶楽部という漢字表記は決して親和性があるとは言えません。プロフェッショナルな,戦う集団であるべきクラブに,「同好会」との近似性を持つ「倶楽部」という漢字表記は。


 このことを,現任指揮官は端的に指摘したようです。


 鹿児島での2次キャンプは,トレーニング・セッションの負荷を決して落とさず,同時にトレーニング・マッチを組み合わせることで,さらにファースト・チームへの負荷を高めているように感じられます。フィジカルな部分での負荷も高ければ,戦術的な理解を整理する,というインテリジェンスな部分での負荷も相当に高いでありましょう。トレーニング・マッチを戦うにあたっては,確かに条件が厳しいのですが,その厳しい条件下であっても,決して現任指揮官は要求基準を落とすことがない。むしろ,さらに厳しい言葉をチームに投げかけていたようです。


 前のエントリでも書きましたが,いまは徹底的にチームに負荷を掛け与えていい時間だと思います。


 戦術的な部分での浸透,フットボーラーひとりひとりの理解度も安定している。ちょっと見れば,チーム・ビルディングには決定的な綻びが出ていないようにも感じられます。ならば,今の時期は敢えて,「綻び」を作り出すべき時期ではないかな,と思います。TMにしてもPSMにしても,敢えて書けば,結果が最優先項目に置かれるべき時期ではあり得ません。もちろん,ファイナル・スコアも大事ではあるのですが,どれだけ狙うフットボールを表現しながら得点を奪取し,ゲームを動かすことができているのか,が評価基準になるはずです。厳しい条件下でもしっかりと戦術的な枠組みから外れることなく,描くべきフットボールが描けるか,が問われていい,と思います。現任指揮官は,「個」をベースとする組織,ではなくて,組織を基盤として「個」をアクセントに,という方向性を狙う指揮官でしょう。戦術的なバインドが緩むことは,描くフットボールが崩れていくことを意味するはずです。どんなに負荷が掛かろうと,戦術的なバインドが緩まないようにするためには,フットボーラーのダークサイドにも踏み込んだ,ある意味で徹底したメンタル・マネージメントをしていく,ということでしょう。


 フットボール・ジャーナリストである湯浅さんは,自身のコラムのなかでこの「ダークサイド」という言葉を使います。指揮官に対する反発心,であったりネガティブな感情を敢えて引き出し,チーム・ビルディングへとつなげていく。フットボール・コーチならばごく当然のアプローチ,かなと思うのですが,この当然のことがなかなかアウトサイドまでは伝わってこなかった,というのがいままでではないかな,と思うのです。


 戦術的な理解度でも要求基準を高くセットし,心理面においても厳しく要求すべき部分を要求していく。トレーニング・セッションの段階ではありますが,どんな形に仕上がっていくのか,実戦でどのようなフットボールを表現してくれるのか,楽しみであります。