童夢、ル・マンへ復帰。

やはり,持つべきは経験豊かなレース屋ではないか。


 童夢さんをレース屋として見るのであれば,経験豊かなレース屋が必要なピース,という見方はちょっと違うのかも知れませんが,個人的にはレース屋としての側面よりも,技術屋集団,マシン・コンストラクターとしての側面を重要視してみたい,と思うのです。そして,かつての童夢さんを思えば,決して実際のレース・オペレーションを担当するレース屋に恵まれてきた,という印象は強くありません。足りないピースが,今季に関してはしっかりと収まった,そんな印象を受けたりします。


 今回もまたフットボールを離れまして(とは言いながら,それらしい屋号を掲げてはいるわけですが。),オートスポーツさんのニュース記事をもとに書いていこう,と思います。


 ちょっとばかり時計の針を戻すところから,話をはじめますと。


 童夢のボスである林さんが,ル・マンからの卒業を明言したのは2010年のことであります。林さんは自身のコラムで,どれほどの財政的な負担がル・マンへのチャレンジに際して掛かるのか,そして,レース・トラックでのトラブルよりもトラックの外側でのトラブルがどれだけ大きなものだったのか,をかなり明確に書いていた記憶があります。端的に書いてしまえば,パートナーとなるべきレース屋に恵まれず,自分たちでル・マンに参戦「せざるを得ない」状態に陥ってしまったにもかかわらず,その参戦に対する評価が不当なまでに低い,と。加えて書けば,ファクトリーという存在がなければ,なかなか露出度が上がっていかない,という部分などが絡まり合う形で「卒業(このとき,林さんはこんな言葉を使っていました。)」に至ってしまった,ということのようです。


 しかしながら,童夢さんはオリジナル・マシンであるS102,その発展型を仕立ててもいたわけです。


 レーシング・ディーゼルを搭載していなければ,実質的な勝負権を持てなかった,そんな技術規定から,ガソリン・エンジン勢にもチャンスが,という技術規則へと書き換えられたタイミングを捉えて,S102のモディファイを進めていたのです。今回,ル・マンへと再び持ち込まれるオリジナル・マシンは,このときの発展型S102をさらにモディファイした,S102.5であります。


 ちょっと俯瞰で見れば,絶好のタイミングでのル・マン復帰,かも知れません。


 もともと発展型S102が狙っていたのは,昨季のル・マンであるはずです。この段階でもレーシング・ディーゼルとガソリン勢との性能差縮小,という方向で技術規定が書き換えられてはいたのですが,実際にはガソリン勢が勝負権を,という形にはなりませんでした。リザルトを眺めてみても,アウディプジョーだけに勝負権があった,と言わざるを得ないほどの差がありました。対して今季は,さらにディーゼル勢とガソリン勢の距離を縮める方向で技術規則が書き換えられている,とのことです。今季については,アウディスポルトトヨタと同じくハイブリッドを投入,ファクトリー勢は“ハイブリッド”で勝負を挑む,という構図が見えてきていますが,現段階では,24時間という時間枠での信頼性などが未知数である,技術規則からすると,残念ながらハイブリッド・システムを4WDとして使うことはできない方向になりつつある,などという部分を考えていくと,プライベティアとしてもチャンスがうかがえるのではないか,と見ています。


 そして,最も大きな意味を持ってくるかな,と思うのが,パートナーとしてクレジットされたペスカローロの存在であります。シャシーコンストラクターとしての側面(オリジナル・マシンをル・マンへと持ち込んでいますね。),そしてレース屋としての側面を合わせ持つ,思えば童夢のような技術屋集団であります。特にペスカローロは,ル・マンにはこだわってきている,という印象を持ちますし,しっかりとしたレース・オペレーションをしてくるプライベティア,という印象があります。童夢のマシンに対する技術的なサポート,ではなくて,実際のオペレーションを担当する,とのことですから,童夢にとっては「やっと」経験豊かなレース屋,というピースが収まったのではないかな,という印象を個人的には持ちます。


 童夢は,ル・マンに先駆けて,WECのスパ・フランコルシャンラウンドにマシンを持ち込む,とのことです。どれほどのパフォーマンスを見せてくれるのか,そしてそのパフォーマンスからどれほどの上積みをル・マンに向けてしてくるのか,楽しみにしたいと思います。