TS030、ポール・リカールで2000km走破。

なかなかの滑り出し,ではないでしょうか。


 マシンにも,「手堅さ」を感じましたが,テスト・セッションにも同じように「手堅さ」を感じます。ただ,本格的に負荷を掛けていくのはこれから,という印象も受けます。


 今回はフットボールを離れまして,トヨタのリリース(オートスポーツ)をもとに,TS030の話を書いていこう,と思います。


 トヨタがWECに参戦するにあたって仕立てた,LMP1規定のスポーツ・プロトタイプが,TS030であります。このフォルムを眺めてみると,かなり手堅い設計をしているように感じます。たとえば,アウディはかなり攻撃的な空力処理をボディ・サイドに施してきていますが,TS030を見る限り,サイドの空力処理は「手堅く」まとめてきたように感じます。空力的に追い込んだ設計をすることで,必要以上にマシン・セッティングを難しくしてしまうよりも,まずはパッケージとしてのまとまりを重要視しよう,という意識が感じられるように思います。


 むしろ,「革新的」なのはやはり,駆動系ということになろうかな,と思います。言うまでもなく,ハイブリッド・システムであります。


 と言っても,環境負荷を低減するためにハイブリッド・システムを利用すると言うよりは,「過給器」的にハイブリッド・システムを利用する,と理解するのが正確ではないか,と思います。このTS030,後輪部分にモータを搭載しているだけでなく,前輪部分にもモータを搭載している,とのことです。恐らくは,技術規則として前輪を駆動することは許容されていないのではないか,と思いますが,少なくともエネルギー回生について見れば,後輪のみならず前輪もエネルギー回生に利用することができることになりますから,コーナ進入時のブレーキ制御がひとつの「タマ」であろう,と感じます。つまり,メカニカルなブレーキだけではなくて,モータの逆回転を効果的に利用しながらコーナに飛び込み,そのタイミングで溜め込んだエネルギーを,コーナ脱出時に利用する,と。


 となれば,通常のマシン・セッティング,その前段階としてモータとブレーキ,モータとエンジン,トラクション・コントロールなどとの統合制御プログラム,その精度を徹底的に引き上げていくことが求められるかな,と思いますし,コーナ脱出時のモータ・アシストがどのようなタイミングで引き出されると最も効果的なのか,など,実際にレース・トラックを走らせるなかでチェックすべき項目はかなりあるように感じるわけです。その意味で,レース・オペレーションを担当しているのが,経験豊かなオレカである,というのはかなり大きな要素になるかな,と見ています。電子制御,という部分では確かにトヨタの技術スタッフの手腕に負うべき部分は大きいかな,と思いますが,レーシング・マシンを煮詰めていく,という「本質的な部分」については,やはりプジョークライスラーなどのワークス活動を支えてきた,オレカの経験は大きなものがあるだろうと思うのです。


 ひとまずは,初期段階が成功裏に終了した,と。ここから,どのような熟成が図られて,ディーゼル勢に対して,どれだけの勝負が挑めるのか(そして,ル・マンでどのような戦いぶりを見せてくれるのか),楽しみにしたいと思います。